翔べ君よ大空の彼方へ 8-❸ 1歳の夏
サイレントマジョリティー、1歳の夏•••。
〝あ〜あ、またか。あれじゃあ前を走る馬がかわいそうじゃない!たまには仲良く走れないのかなあ•••〟
広大な牧草地を駆け巡る20数頭の1歳馬の中にその王者はいた。明らかに異質の馬が。
彼は前を走っている馬に、
〝もっと早く走れ!〟と、叱咤するかのように鼻息を荒くして、プレッシャーをかけていた。
その姿はまるで、羊を追い立てる牧羊犬のようである。
エリーは苦笑いを浮かべ、愛馬の傍若無人振りを眺めていた。
先頭に立って群れを先導し、スピードを緩めては馬群の中から前方の馬を叱咤激励?し、最後方まで下がっては馬群の壁を弾き飛ばし、先頭に踊り出る。
何度も何度もその行動を繰り返す愛馬
。
「まあ、サイレントマジョリティーはさしずめ、牧羊犬ならぬ牧羊神(フォーヌ)だな!」
ロッシが白い顎ひげに手を当てながら言った。
「牧羊神?」
「そう。ヤギの足とツノを持つ、森と野原、そして動物を守る牧畜の神の事だよ
!きっと神様が姿を変えて、この世界に現れたんだよ。おかげで他の馬達もみるみる鍛えられていくから有難いなあ〜」
〝ロッシおじさんは、こう見えてロマンチストなのよねww〟
エリーは半ば呆れながらも、
〝まあ、ロマンチストだからこそ、世界有数の馬主になれたのよね〟と、納得せざるを得ない。何よりも、彼女自身がそうなのであるから。
ホースマンは1人の例外もなく、夢見る永遠の少年、少女なのである。
ようやく気が済んだのか、猛ダッシュでこちらへと駆け寄ってくる彼を、エリーは腰に手を当て、仁王立ちで迎えた。
「マジョ、前の馬いじめちゃ可哀想でしょ〜。もっと優しくしてあげなきゃ〜」
当の本人はどこ吹く風の様子•••盛んに前掻きをして、ご褒美を!と訴えている。
〝牧羊神かあ•••〟
とてもそんな風には見えない愛馬の美しい栗毛のたてがみを撫でながら、手の平に特製の人参を載せた。
世界へ飛び出す日を待ちきれないサイレントマジョリティー•••今はまだ、自らの世界で目の前の好物に集中するのであった。
ファイアスター、1歳の夏•••。
「わあ〜、たくさんのお馬さんがいるよ‼︎」少年と少女は嬉々として駆け出した。
青い空、白い雲、緑一色の大地。
日差しが強いものの、優しい風が暑さを和らげてくれる北の大地。
ゆっくりと駆ける者、仲間と競い合い
、猛烈な勢いで疾駆する者、のんびりと青草を食む者•••20数頭の若駒が思い思いの時を過ごしていた。
夏休み真っ盛りの子供達は、サラブレッドの迫力に目を奪われていた。
2人がこの牧場を訪れたのは、3ヶ月前のゴールデンウィーク•••大切な人に会うためであった。
そして、〝夏休みにまた一緒に遊ぼうよ!〟という牧場の子供達の声に誘われ
またの再会の約束を交わし、一人は和歌山から、一人は愛媛からはるばるやって来た、という訳である。
「ファイアスターはあの群れの中ですよね!」少年が引率係の翼に問いかけた。
「そうだよ‼︎」
トンボとうさぎの声が重なった。子供達の笑顔が広がった。
「指笛を吹いていいですか?」
少女の一言に、翼は笑顔で頷いた。
この日の為に、一生懸命練習した指笛•••少女は、親指と人差し指で輪を作り、口に含んでから勢い良く、息を吐き出した。
見事な音色が緑の大地に響き渡った。
純粋無垢の心で満たされた子供達に、彼はまさにされるがままであった。
美しい白銀のたてがみを、星形の白斑を、煌めく炎の流星を優しく触れる子供達。
彼の翡翠色の瞳は、まるで透視をするかのように、全てを見通す事ができた。
人の、そして馬の心をも読む事ができるファイアスターの周りには、いつも仲間達が寄り添っていた。人も、そしてサラブレッドも、である。
仲間と駆けながらも、彼は会話を交わすかのように自らの前を走る馬にエールを贈る。
時には先頭に立ち群れを先導し、道を切り開き、時には最後方から他馬を弾き飛ばす強さを見せつける。
まるで、彼らを導く教師であるかのように。
孤高の境地を目指しながらも、優しさを併せ持つ彼が目指すのは、勝利と、そして自身の走りで多くの人々に笑顔を届ける事であった。
〝いつの日か、この子達を喜ばせる機会が来たならば、必ずや全力を尽くそう〟
彼はそう誓いながらも尚、子供達に身を委ねるのであった。
PS•••いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥹🙏
次回配信は、10月9日水曜日正午🕛となります。ファイアスターとサイレントマジョリティーが、ロンシャンの地で心で語り合います!
〝超えてゆけ!あいつを!〟
お互いがプライドを賭け、息吹と鼓動をぶつけ合います🐴🔥💨🐴🔥💨😤
それではまたお会いしましょう🙏🙏
AKIRARIKA
馬旅の続きです🐴📸😃
AKIRARIKA