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  2-㉕ 2センチ差

「ゲメインシャフト、ストロングクーガーと接触!ゲメインシャフト、バランスを崩したが大丈夫のようだ!その間隙を突いたジャンヴァルジャン、バッケンレコードが馬場の真ん中を一気に駆け上がる!しかしユーアーマイン先頭!ユーアーマイン先頭!差は詰まるか?まだ5馬身あるぞ!残り300メートルだ!ジャンヴァルジャン、バッケンレコード猛追!じわじわ差を詰めて来る!外めを突いてストロングクーガーもやって来た!しかし来た来たぞ!風を切り裂くゲメインシャフトだ!真一文字にやって来た!大空翔馬懸命に押している!その後ろだ!存在を消していたか⁉︎スターダイナマイトここに現れた⁉︎ゲメインシャフト、スターダイナマイト馬場外めを豪快に上がって来た!ゲメインシャフト、ストロングクーガーに並びかける!ストロングクーガー鷹が一発二発ステッキを入れた!ジャンヴァルジャンここで後退!バッケンレコード迫る迫る!ユーアーマインまで2馬身だ!残り200メートル、ユーアーマイン懸命に粘る!ゲメインシャフト、スターダイナマイトその背を追って・・・」

 彼の耳に届いたその声は幻聴だったのだろうか?
 いや、確かに聞こえたのだった。
翔馬は一瞬、かの鞍上と視線が合ったのだった。そして、ストロングクーガーを抜き去るその時・・・。

「翔馬、行け!先生の為に前を捕まえろ!」と。

 翔馬は懸命に相棒を鼓舞した。
 前だけを見つめて。


「ユーアーマイン先頭!ユーアーマイン先頭!しかしバッケンレコード差を詰めた!1馬身!外だ外だ!ゲメインシャフト、スターダイナマイト一気の鬼脚だ!
残り100、4頭並んだ!プライドを賭けた壮絶な戦いだ!頭一つ出たか?バッケンレコードか?ゲメインシャフト、スターダイナマイト差し返す!内ユーアーマインここで一杯か?3頭だ3頭だ!内バッケンレコード、外スターダイナマイト頭一つ抜け出すが、しかしゲメインだ!真ん中ゲメインシャフトだ!大空翔馬懸命に馬を押した〜!3頭並んだ〜!どの馬だあ〜
‼︎」

 その瞬間、スタンドからは唸りのような大歓声が大波となり、やがて興奮を抑えきれない人々が熱くその結末を語り出した。


 翔馬はゲメインシャフトの首筋を抱きしめた。
 〝良く頑張ったな・・・〟

 泥だらけの鼻筋を優しく撫でると前掻きをして、何かくれ!と催促するかの様に鼻を鳴らしている。

「そりゃ〜こんな馬場だったからなあ・・
・お腹も空くよなあ・・・もうちょっと待ってろな!」

 検量室前に戻って来ると、厩舎スタッフに笑顔で迎えられた。
「本当にお疲れ様でした!どうですかね
?」
「いやあ・・・どうだろう?」
泥だらけのゴーグルを外し、バレットの歩夢から濡れタオルを受け取った。

 既に10分が経過していた。
翔馬は無我夢中で彼を押した。ステッキを失っても前だけを見つめた。内のバッケンレコードは・・・凌いだと思う。ゴールの瞬間、首を上げていたのではないだろうか?外のスターダイナマイトは・・・
分からない。
 何とか!・・・翔馬は祈った。

 バッケンレコードの鞍上も、スターダイナマイトの鞍上も、そして天才も、どの騎手も皆囁きながらモニターを見つめていた。

「あの斜行は心配ないよ!」
天才は翔馬の肩を叩いてニコリと笑った。

 20分が経過した。
あまりにも長い写真判定・・・まるで時が止まってしまったかのように、観客も、騎手も、関係者も、その結末をただ見守っていた。

 刻々と時間だけが過ぎて行く。
しかし、時は止まる事を許さない。静寂のしじまが破られる時が訪れようとしていた。

 運命を委ねるその時が訪れたのだった。

 着順掲示板に着順が点滅した時、東京競馬場は悲鳴・歓喜・・・悲喜こもごもの得もいわれぬ雰囲気に包まれた。
 皆、目を見合わせて掲示板を見つめていた。

 やがて、着順が確定した。
報道陣は、彼を目指して駆け出して行った。


 2着同着。1着との差は鼻差。
着順掲示板には、何度もそのリプレイが放映されていた。

 わずか2cm差の決着であった。

http://mamema.idblog.jp/Turfvision sim/turfvisionsim.html


 1着 10番スターダイナマイト
 2着 1番ゲメインシャフト、5番
    バッケンレコード2着同着。

 1着との差は僅か2cm・・・
栄光と絶望を振り分けた2cmであった。


 〝駄目、か・・・・〟
翔馬は、全身から力が抜けていくのを感じた。

 その様子を見ていた1人の騎手が翔馬に近づいていった。

「翔馬、いい騎乗だったぞ!結果は2着だけれど、よくあの場面を察知したよ!もしあれで斜行取られても、誰も文句は言わないよ!馬に何の異常もなく戻って来れたのが何よりだ!
 俺も、悔しい思いをした事がある。翔馬も知ってるだろう?確実に勝った!と思ったダービーでな。まるでコンコルドのような、今日のスターダイナマイトのようだったよ。でも・・・その悔しさを忘れなかったから、その後ダービージョッキーになる事ができた。乗り役でいる限り、そのチャンスはあるんだ。胸を張って先生に報告に行けよ!」

 翔馬は涙を拭いた。

 まだ、翔馬のダービーデーは終わっていないのだから。

掴み取れなかったダービートロフィー🏆
いつの日か必ず🔥🔥🔥


PS・・・いつもお目に留めて頂き、心より感謝申し上げます🥲次回配信は、9月30日土曜日午前8時です。翔馬が師匠に報告に行きます。師弟関係って素晴らしい👏👏それではまたお会いしましょう😊🙇‍♂️

           AKIRARIKA

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