追悼。武田花:知らない町へ行って、歩いて、写して、帰って飲む。
写真家の武田花さんが72歳で亡くなった。
花さんの子供時代が克明に記録されている『富士日記』への強いオブセッションから発動した本を何冊も書き、トークイヴェントなども開いているのに、一度もお目にかかる機会は無かった。
花さんと面識のある知り合いもいたし、こちらから強く求めればお会いできたはずだ。でも、今じゃない、何か良きタイミングで、などと変に突っ張ってしまった自分がいた。
「いつかは……」という思いはもちろんあったのだけれど。
そういえば、先日の久留米〜佐賀旅行の帰途、立ち寄った小倉の古書店で花さんの随筆集『煙突やニワトリ』を買った。
フェリーの出航時間を待っている間、駅前のマクドナルドでこの本を読み耽った。そのとき、自分の気持ちにぴたりと収まる一文を見つけて、栞を挟んだことを思い出した。これがその文章である。
ぼくは今、もう死んでいて───
誰とも共有したことはないけれど、ぼくも子供の頃からこういう感情にしばしばおそわれてきた。ぼくが旅が好きな理由も、きっとこういう妄想が好きだからだと思う。
今、花さんは生前に歩いたどこかの道を眺めているだろうか。
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