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THINK TWICE 20200913-0919

9月13日(日) IT'S MY PANTY

先週「頭脳警察」の友人とハンバーガーショップに行った時のこと。

注文を先に済ませて席を取っていたら、あとから友人がやってきて、額の汗を拭おうとバッグから取り出したのが、ハンカチではなく、レースのひらひらのついた濃紺のポリエステルのパンツでした。*1

昭和のマンガみたい!

*1 「なんでそんなもんがバックに?」と尋ねたら「このあと温泉に行く予定があって!!」だそうでした。なるほどね……って、いや、それにしても!(笑)


9月14日(月) KAJILLIONAIRE

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先週の消えたテキストでも取り上げていたミランダ・ジュライの新作映画『Kajillionaire』のことを、気を取り直して書いてみようと思います。

テレサ(デボラ・ウィンガー)とロバート(リチャード・ジェンキンス)という犯罪者夫婦に英才教育されたひとり娘オールド・ドリオ(エヴァン・レイチェル・ウッド)。彼女は天才的な詐欺師に成長していましたが、家族で押し入り強盗を企てた際、仲間として引き入れたチャーミングな女性メラニー(ジーナ・ロドリゲス)によって心が開かれ、新しい人生に目覚めていく───というストーリー。

あらすじ読むと『万引き家族』『パラサイト』との類似性に誰でも思い当たると思うんだけど、ロッテン・トマトのレビューをいくつか読んでみても、上記の2作品を引き合いに出している人がほとんど見当たらないのは、とても気になる

カメラマンはセバスティアン・ウィンテロ。話題になったSiaのこのMVを撮った人。昨年公開されたアガサ・クリスティー ねじれた家もこの人の撮影。予告編やスティルを見ただけで期待が高まるなあ。

またKajillionaireが過去のミランダの監督作品ともっとも異なる点は役者としてミランダがスクリーンに登場しないということ*1

*1 ビートたけしも初めて自ら出演しない映画を撮ったのは3作目の『あの夏、いちばん静かな海。』でした。ちなみに伊丹十三は自身の監督作に一本も出演していません。テレビドキュメンタリーやCMにはあれほど顔を出してきたのに───実に不思議です。

6月に決まっていた公開がズレて、来週末(9月25日)からアメリカで上映が始まるらしいけど、日本公開は未定とか。

ちなみにA24とAppleが共同で製作したソフィア・コッポラの新作『オン・ザ・ロック *2 は、10月2日から日本の劇場でも公開された後、月末にAppleTV+から世界配信されます。

ジャームッシュ『デッド・ドント・ダイ』のような本国から一年遅れなんてケースは論外としても、映画過疎地の住人としては、選択のひとつとしてこういう興業スタイルが定着してほしい一方、クリエイター側にしてみれば、自分の作品を映画館で観てもらいたいという強い想いもあるだろうし、できるだけ多くの人に観てもらいたいという願望も当然ながらある。もちろん利潤をどう生むかというビジネスとしての兼ね合いもあるし、落とし所が難しい問題ですよね。

*2 原題は"On The Rocks"なのに、邦題は"ス"が取れて『オン・ザ・ロック』。"On The Rocks"には酒の飲み方以外に(関係性の)破綻という意味もあるので、スの有無は物語に関わっていてめちゃくちゃ大事。日本の映画会社はこういう改変をやりがちだけど、ぼくはすごくイヤ。


9月15日(火) 先週消えてしまったはっぴいえんど「颱風」に関する備忘録。


●大瀧がデモを完成させた……と記録している1971年7月7日。その日、日本に上陸していたのは《台風13号》。しかし、本番のレコーディング初日(8月22日)に日本に接近していたのが、13号よりも巨大な勢力を持った《台風23号》で、歌詞はその影響で《23号》に書き換わっている。

翌1972年、大瀧の盟友であるブルースシンガーの布谷文夫が、大瀧自身のプロデュースでこの曲をカヴァーした際には、歌詞/タイトルともに、ふたたび《13号》に戻されている。

●大瀧が「颱風」を書いた1971年7月、東京で降った別の大雨にインスパイアされ、井上陽水は「傘がない」を書いた。

●はっぴいえんどのほとんどの曲は、松本隆が書き上げた詞にメロディを当てはめる詩先(しせん)なのに対し、大瀧は「颱風」を曲先(きょくせん)で仕上げる。「颱風」は大瀧の《日本語のロック》のあるべき姿について、松本とは違う形で試みた実践であり、その成果だ。

「颱風」にまつわる印象的な大瀧の発言をいくつか。

当時のフラワー・ムーヴメントとかロックリヴォリューション、学生運動とはぼく個人としては全然関係なかったね。新宿行くと西口に人が集まってて、何なのかなあと思ってた。大学入った年に授業をヘルメットの連中に占拠された時も「何なのかなあ、この人たち」と思ったけどね(笑)。まるで無縁だった。自分の問題として捉えた事は1度もなかった。当時も、そして今はもっともっと強くなったけど、音楽は音楽でしかない、とずうっと思ってた。音楽で何かを語るんだったら、それそのものを語った方がはやいんじゃないかと。音楽はただ音楽だ、と。そういう気持が常にあったんだけど、ただ当時の風潮としては「考えなきゃいけない」って感じがあって。それが、気に入らなかったけど、それに反抗するってのもバカらしかったか勇気がなかったか。だからとにかく無縁でしたね。日比谷野音とか、発表の場は少なかったね、ホントに。ただのコンサートとは違って、独特の空気が流れてたね。学園祭に行ってもヘルメットがズラーっと前列に並んでて(笑)。そういう感じだったね。(ALL ABOUT NIAGARA)
自然を歌う、というのもひとつの日本のロックなのではないかと僕なりに考えた。で、それが<颱風>に繋がった。で、雨が降ってるけども、傘がない、というようなストーリー性は俺にはないのよ。とにかく雨降って、台風が来たと。状況描写だけなの。でも、芭蕉は風景や自然を語ることによって、個人の心情をたくしたわけで、そこには個人の想いがある。だけど、それを説明しちゃあ野暮になるので、あえて言わないし。まあ、意味性を捉えようと思えば面白く捉えられるんだけどね。(TALKS ABOUT NIAGARA)
───松本隆さんの詞で曲を作る場合と自分の詞の場合とで、曲を作っていく姿勢にかなり違いはありますか?

「違いはあります。自分の場合の方がつまんないね。松本は情緒的なものを書くのが得意なんですけど、僕は言葉を因数分解して作るのが得意なんです。僕は言葉の意味を考えないで音に因数分解する、そしてそれが再び僕がうたうことによって統合されるんですよね。そこが違うところだと思います。これが僕が日本語のロックやポップスをプロデュースする一つのノウハウなんですよ。それ以上詳しくいうと企業秘密になるけど(笑)。松本と一番最初にやったあの当時どうにかして日本語をロックにというかリズムに乗せようというのが大きな狙いだったんですよね。僕のやり方は、70年のはっぴいえんどの試行錯誤が基本の形になってると言い切れますね」

───自分で作詞するとラブソング風のものが少ないんですが、その原因は。

「才能がまずない。それととっても照れてやれるもんじゃない。なかなかうたうのも大変なんだよ実を言うと。君が好き。とか愛している。とかいうのダメなんだよね。「夢で逢えたら」なんかがギリギリ精一杯だね。シチュエイションものがダメなの、即物的な駄酒落が多いんです。というのは、僕は、記憶は景色で憶える方なの。景色も遠景で捉えたいというのが常にあって、近距離で捉える景色は好きじゃない」(ROCKIN' ON w / 渋谷陽一)

ブログが消えてしまった負け惜しみではないのですが、大瀧さんのこと、また、大瀧さんの作品を誰より理解し、雄弁に語れるのは大瀧さん本人以外に誰もいない───ということをあらためて実感した次第。


9月17日(水) まともがわからない

数日前、はじめて食事した友だちは左右がよくわからなくなるタイプの人でした

友だちの前にあった塩を取るように頼むと、尋常じゃないくらいキョロキョロしていた。「右手の前にあるよ」とぼくが言ってもまだ見つけられず、結局、ぼくが手を伸ばして取った。そのことで友だちを軽くからかうと「普段の生活ではなるべく気をつけてるんだけど、急に指示されたり、酒を飲んで気が緩んだりするしたとき(左右が)わからなくなっちゃうんだよ」と告白されて、びっくり。友だちにとっては幼い頃からのひそかな悩みだったみたいで、からかったことをすぐ謝罪しました。


こういった問題のことを左右盲、あるいは《ゲルストマン症候群》と呼ぶそうです。原因もはっきりわかっておらずなくて、明確な治療法もないとのこと。

そういえば、レラ・ポルディツキーの講演で、こんな事象が紹介されていたのをふと思い出しました。

───クウク・サアヨッレ族というアボリジニたちは「左」「右」という表現ではなく、すべてを東西南北の方角で言い表すそうです。

たとえば「このあいだのパーティであなたの東側に立っていた人」とか「南西側の足の下にミミズがいるよ」とか「テーブルをもう少し北北東にずらしなさい」といった具合に。また、知り合いに道ばたで挨拶するときも「あら、奥さん、今日はどちらへ?」と聞かれたら「北北西の市場に行ってきます」というふうに答えるんです。

つまり、ぼくたちにとっての「左右」の認識と同じくらい自然な感覚で、クウク・サアヨッレ族は方角をスムーズに把握しており、会話のなかに織り込むことが可能なの。

くちばしや鱗に磁石(=コンパス)をもっている魚や鳥たちに比べ、人間ははるかにこうした機能が劣ると言われていますが、言語や彼らの暮らす文化が求めれば、鳥や魚並みにできるようになるんですね。

つまり、ぼくたちが暮らす文化や社会では、左右を認識するのが苦手なことは不利益かもしれないけど、クウク・サアヨッレ族の社会ではまったく問題にならないんだよ、と友人に話したけど、静かに微笑んでくれただけで、何のフォローにもなりませんでした*1

*1 このエピソードをここに書くことを快く許可してくれたし、友情に亀裂は入っていないと思ってます……。


9月18日(木) 税

先ごろツイッターでトレンドにもなっていた、出版物の総額表示義務化の問題をどれくらいの人が知っているかなあ。

簡単に言えば、本や雑誌の価格も消費税を含んだ金額を必ずカバーなどに表示しなさいということ。1,000円+税、というあいまいな書き方ではなく、きちんと1,100円と書け、と。食料品など他のものはそうなってるんだし、書籍だけがなぜ問題なの? さっさと従えばいいじゃん……と思われるかもしれないけど、実は大きな問題なのよ。

まず、本には賞味期限がない。500年前の小説だろうが、昨日出たばかりの写真集だろうが、本屋さんに常温で置いてあっても内容が腐ったりはしません

で、たとえば、医学、建築、生物学、歴史の専門書や、文学全集などは一冊10万円も20万円もするような本もある。飛ぶように売れるものではないけれど、それがないと困るという人が一定数いるし、そういう専門書を扱っている本屋には十数年前に入荷したっきり、返本もされずにそのまま在庫として眠っている場合だってザラにあるわけ。

そういった本は出版物の総額表示義務化となると大変。基準に合った価格表示が函やカバーに為されてなければ、その本は店頭から引っ込められて、出版社に送り返される。カバーに直接シールを貼り直したり、スリップ(本に挟んである短冊のようなアレ)に正しい価格表示をすればオッケーなんだけど、さっきも言ったように、そういう本はなかなか売れるものではないから、カバーを刷り直したりする余力は出版社には無いし *1 作業を強いられる書店、取次、出版社の作業負担は相当ですよ。

*1 取次をとおしている場合だと、返本が増大することによって、売上をその金額が食ってしまい、大きな損失を経理上、計上しなくてはいけなくなるケースもあって、こっちの問題のほうがシビア。

約30年前、はじめて消費税が導入されて、今回のような税の表示義務が生じたとき、負担がのしかかったのはなにより小さな出版社でした。小さな会社は大手の出版社が手を出さないような本を出していることが多い。誰しもが求める本じゃないけど、そういった本が伝えてくれる知識のおかげで新しい薬ができたり、立派な橋がかかったりする。まわりまわって世の中のためになっていくんです。

だから絶版になってしまったり、出版社ごと潰れてしまったら、不利益をこうむるのは本に関わる人たちだけでない───つまり、あなたの生活にも及ぶ問題だってことを、もう少し意識してほしいな、とぼくは思う。

ロビイストという職業の人たちがいますね。特定の会社や団体に利益をもたらすべく、政治家や行政府などに働きかけて、規制を緩和させたり、新しい法律を作らせたりするのが彼らの仕事です。

ドラマとか映画に出てくるロビイストは、うさんくさくて、得体が知れない存在として描かれることが多いので、けっして良いイメージじゃありません。でも、私益だけでなく、公益のために活動するロビイストも大勢います。社会が多様になり、複雑な利権が絡み合うような問題がひっきりなしに起こってる今、デモやSNSを使った抗議運動もいいけれど、さまざまな利益/不利益をうまく調整して、ときには政治家や役人たちに強く働きかけながら、落としどころを見つけられるような人───つまり有能なロビイストが日本にもっといたらと考えてしまう今日このごろ。

というわけで、出版物の総額表示義務化については、ぼくもそろそろ新しい本を出す予定だし、もっと詳しく調べてみなきゃ。


9月19日(金) B面ベイビー

昨夜、ETV『B面ベイビー』がYMO特集ということでオンタイムで見ましたよ。番組自体初めて見たんですが、VTR部分の作りも非常にしっかりしていて面白かったです。*1

*1 それもそのはず、演出は岡宗秀吾さんで、構成は『ロック・ザ・ルーツ』を一緒に作っていた堀雅人くんが担当でした。

過去映像は───NHKでYMOを特集する際にかならず引っ張り出される「朝のニュースワイド」(1980年4月23日、日本武道館で開催された『写楽祭』の模様とそのリハーサル風景が、翌24日に番組内で特集されたもの)と、糸井重里さん司会のトーク番組『YOU』に3人が揃って出演した「誰でもミュージシャン パートII」(1983年6月11日放送)という毎度おなじみのものがメインだったのはやや残念。

塙さんが番組内でこのYMOが出た『YOU』を「一万円払ってもDVDがほしい!」って言ってましたけど、2009年8月にEテレの50周年記念として、一度だけ再放送があったんだよね。

2009年といえばナイツもM-1グランプリでバリバリに戦ってたから、YMOどころじゃなかったのかも(笑)。


9月20日(土) Smile mix Sep. 2020

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今週のスマイルミックスは《9月の歌じゃない9月の歌》というテーマで選曲しました。

〈PLAYLIST〉
Big Star / September Gurls
Pomplamoose / September
The Happenings / See You In September
Peggy Lipton / It Might As Well Rain Until September

簡単に言うと───"9月(September)"と曲名に入っているのに、歌をちゃんと聴くと実は12月の歌だったり(September Gurls, September)、夏休み前の曲だったり(See You In September, It Might As Well Rain Until September)するのって、いったいどういうわけなんだろうね?という話です。

今後、スマイルミックスでオンエアした楽曲はこのSpotifyのプレイリストに放り込んでいくので、よかったらフォローしてみてね。

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