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THINK TWICE 20211010-1016

10月10日(日) 黒く短く(1)

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ここ数日、BLACK JAZZ RECORDSのカタログばかり聴いてます。

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BLACK JAZZは、ピアニストのジーン・ラッセル(黒人)と、パーカッショニストのディック・ショーリー(白人)が1971年から共同運営したジャズレーベルで、1975年までの約5年間で20枚のアルバムをリリースしました。

無名だけど、才能ある黒人ジャズマンを世に送り出そう……というコンセプトで作られたインディなレーベルだったので、ここからレコードを出した後、どこでどうなったか判然としない音楽家もいたりします。

また、ほとんどの作品のジャケットが黒を貴重としたモノトーンで、これほどまで名が体を表し、また体が中身を表しているレーベルって他に無いんじゃないかなあ、とも。

同時期にニューヨークで設立されたレーベル《ストラタ・イースト》は、トリオ・レコードと契約して、日本でもリアルタイムで国内盤が発売されていたのですが、BLACK JAZZはジャズファンにとっても、知る人ぞ知る存在だったんじゃないかと思うのですが、70年代の日本のジャズシーンの専門家ではないので、そのへんはぼくの推測です。

ただ、80年代後半のクラブジャズブームや、90年代前後からは「フリーソウル」としてサバービア誌に取り上げられたり、ヒップホップのサンプリングネタとして扱われるようになったことで一気に再評価が進み、CDやアナログで再発されることになりました。

もともとサン・ラやファラオ・サンダース、オーネット・コールマンやドン・チェリーが好きだったので、初めて聴いたときからBLACK JAZZのレコードには惹かれてましたが、オリジナルはもちろん高価で手が出せず、再発物をせこせこ集めてきましたが、今やSpotify、AppleMusicなどにフルタイトル上がっていて、いつでもどこでも聴けるようになってます!(軽い怒気を込めて)

んで、気がつけば今年がレーベル設立50周年。日本でもそれを記念して、P-VINEが帯や解説付きのアナログ、CDを復刻してるみたいですね。

https://anywherestore.p-vine.jp/collections/blackjazz2020-2021/black-jazz

ちょうどこの10月に出るのはBLACK JAZZのタイトルのなかで、ぼくがもっとも好きなルドルフ・ジョンソンのセカンド・アルバム『The Second Coming』です。

コルトレーンやファラオ・サンダースのような骨太なサックスを吹く人で、このルドルフ・ジョンソンこそがさっき書いた”BLACK JAZZからレコードを残したっきり、その後の消息がよくわからなくなった人”ね。*

で、あらためて調べたところ、彼のウィキペディア───なぜかドイツ語版だけだったんですが───を見つけました。

生年月日はハッキリせず、1940年代にオハイオ州で生まれたそうです。1960年代の一時期、ピアニストのカーク・ライトシー、ベーシストのセシル・マクビーとトリオを結成しますが、これは短命に終わりました。その後、オルガン奏者のジミー・マクグリフのバンドで経験を積んだあと、西海岸に移住します。

1971年、同じくBLACK JAZZからリーダーアルバムを発表しているキーボード奏者のチェスター・トンプソンやウォルター・ビショップらと共に、サンプリングネタの宝庫として知られている『Bill Cosby Presents Badfoot Brown & the Bunions Bradford Funeral & Marching Band』に参加。

1973年、ビル・コスビーがアメリカの音楽番組「Midnight Special」に、Badfoot Brown & the Bunions Bradford Funeral & Marching Bandを率いて出演したときの映像。おそらくホーン隊のまんなかでテナーを吹いているのがルドルフ・ジョンソンではないかな、と。

ロック、ソウル、ディスコが流行し、ジャズマンがジャズをプレイすることだけで食うのがとても難しかった時代で、ルドルフの場合、活動拠点が西海岸だったこともあって、映画やTVドラマの劇伴、あるいは歌手のバックバンドなど、クレジットもロクにされないようなスタジオ仕事で糊口をしのぎながら、自分の追求する音楽の捌け口にしたのが、BLACK JAZZから出したリーダーアルバムだったんだろうな、と想像できます。

BLACK JAZZ以外のリリースは唯一、1974年にカーク・ライトシーとの共作で、南アフリカのレーベル《Gallo》のスタジオで録音し、南アフリカ国内でしか流通しなかった『Habiba』があります。昨年《Outernational Sounds》から再発されるまで、10万円はくだらない末端価格で取引されていた、ウルトラレア盤です。ちなみにこれも今はサブスクで聴けます。笑える〜。

上の脚注で触れた南アフリカツアーとは、ラブレス・ワトキンス(南アフリカやオーストラリアで絶大な人気を誇り、"黒いシナトラ"と異名を取ったアメリカ人歌手)のバックバンドの一員として、かの地を訪れた際に実現したもの。この演奏はまさに1974年の南アフリカツアーで録音されたもので、『Habiba』同様、Galloレから南アのマーケット向けにリリースされた音源です。きっとこの中でルドルフやカークも演奏していることでしょう。

当時の南アフリカはアパルトヘイトの真っ只中でしたから、黒人の外国人アーティストが公演を行うこと自体が異例中の異例だったそうで、ラブレス・ワトキンスがそれだけ人気者だったんでしょうね。

以後、レイ・チャールズのバックバンドにいたり、ビル・コスビーがプロデュースしたワンオフ・プロジェクト(一枚かぎりの企画物バンド)《First Cosins Jazz Ensemble》に参加して、アルバム『For the Cos of Jazz』でサックスを吹いています。

この『For the Cos of Jazz』という1977年の作品、ぼくは初めて聞きましたけど、ドラムスがジェームズ・ギャドソン、ギターはワー・ワー・ワトソンとレイ・パーカー、ベースがシェリル・リン「ガット・トゥ・ビー・リアル」のベースラインを考案したデヴィッド・シールズ───など、なかなか豪華な布陣。未CD化なのが残念ですが、ビル・コスビーは今や性的虐待のかどで渦中の人物なので、この先、復刻されることはないでしょうね……。

もし、ルドルフが今、世に出ていたら、カマシ・ワシントンのように大注目されて活躍してただろうなあ。それくらい彼の力強い演奏は時代を超えて、新鮮です。

それにしても───。

自分が無意識に聴く音楽の種類が、衣替えをするみたいに季節のうつろいで変化していくのはおもしろいです。こういう音って耳の中が汗かきそうで、真夏には絶対に聞きたくならないしね(笑)。

そういえば、小さい子供がいる友人が「幼稚園の衣替えが10月1日から11月1日に今年度から変更になった」と言ってました。地球温暖かぁ〜。


10月11日(月) TRIBE called quest

昨日、西海岸のジャズマンの食い扶持として、ハリウッド界隈の劇伴仕事などを挙げましたが、これが東海岸になると、モータウンの仕事にジャズマンが駆り出され、そのままデトロイトに定着してしまった、というケースがあったようです。

アマゾン・プライムで配信されているテッサ・トンプソン主演の『シルヴィ 〜恋のメロディ〜』でも、第二のコルトレーンと嘱望されている若手サックスプレイヤーが「ジャズなんて、時代遅れ。今はスティービー・ワンダーだよ」なんて言われるシーンがありました。

70年代のジャズマンたちのなかで、とりわけマーケットの変化に対応できた人たちは、クロスオーヴァー/フュージョンに音楽性を寄せて、それまで着ていたスーツやワイシャツ、ネクタイを脱ぎ捨て、Tシャツ、スニーカー、肩パットの入ったコットンジャケット姿になっていきました(先日noteで紹介したように、あのディジー・ギレスピーでさえも!)。

で、そうならなかった(なれなかった)人たちは、ジャズクラブ以外の場に演奏の場を求め、ライヴイヴェントを自主開催したり、BLACK JAZZやストラタイーストのようなインディ・レーベルを独自に立ち上げたわけです。

特にデトロイトはモータウン・レコードのためのセッションマンとして、有能なジャズマンが集まっていて、そこから産まれたTribeというレーベルは、まさにその代表例です。スティービー・ワンダーのセッションなどに参加していたトロンボーン奏者のフィル・ラネンが、サックス/クラリネット奏者で音楽教育家でもあったウェンデル・ハリソン(この人はもともとデトロイト出身だったようです)と主宰し、リリース自体はアルバム8枚、シングル2枚のみですが、いずれも傑作揃い。また、自主イヴェントの開催や雑誌の出版など、今に通じるようなインディレーベルのDIYの精神を示したという意味でも再評価されてます。

ベリー・ゴーディ・ジュニアの辣腕によって、デトロイトのインディレーベルから巨大なレコードカンパニーに急成長したモータウンは、Tribeのような小さなレーベルにとって成功の雛形だったと思いますけど、モータウンに代表するソウル・ミュージックが大衆の人気を集め、ジャズマンたちの活動を危うくしたと同時に、彼らの拠り所になったのは皮肉というか、複雑というか、いろんなことを考えさせられますね。


10月12日(火) 双子座グラフィティ

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TribeのタイトルでぼくのイチオシはMarcus Belgraveの『GEMINI II』(1974年)。IIと言ってもIは無い、つまりモヤモヤさまぁ〜ず2方式のネーミングです。

ジェミニとは1961〜1966年に行われたアポロのひとつ前の宇宙計画で、月面着陸に必要な技術を確立するのが主なミッションでした。

アポロ計画はたくさんの映画やドラマのモデルになり、初めての有人飛行に挑んだマーキュリー計画もかの有名な『ライトスタッフ』や、最近も『ドリーム』という映画の題材になってますけど、ジェミニはその繋ぎのプロジェクトだったので、ぼくの知るかぎりほとんど取り上げられたことないです。デイミアン・チャゼルの『ファースト・マン』が、ニール・アームストロングの話なので、その前半に出てくるくらいかな、と。

ただ、ぼくのような昭和生まれのおじさんにとって、ジェミニと言えば、いすゞの小型車。奇しくもMarcus Belgraveの『GEMINI II』と同じ1974年に世に出た車なんです。

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ネーミングの由来は、この時代の一大トピックだったジェミニ計画の影響が大きいはずですが、公式にはこの車がいすゞとゼネラルモーターズの共同開発だったことをジェミニ(双子座)になぞらえて───となってます。

それにしても、ジェミニ。今、見てもかっこいいですよね。金属加工の技術が未成熟だった60年代までは作りやすい丸みを帯びたデザインが多く、70年代になると、そのあたりの問題が解決して、一気に角張った直線的なデザインに移行していきます。このジェミニなんかはその典型。

この時代の音楽も車もかっこいいですよね。まさに懐かしい未来、って感じがします。


10月13日(水) Wake up in the morning with the bass line

起き抜けに読んだネットニュースで、ワム!やジョージ・マイケルのバンドで、長年ベースを担当していたデオン・エスタスの訃報を知りました。

およそぼくたちがワム!やジョージ・マイケルの作品として思い浮かべる楽曲のベースは彼が弾いています。

たとえデビューアルバム『Fantastic』に入っている「A Ray of Sunshine」。サビの歌詞に「Sometimes you wake up in the morning with the bass line」とありますが、ベッドから飛び起きて踊りたくなるようなファンク・ミュージックのお手本のようなデオンのベースラインで、ほんと衝撃的だったな〜。

デオンの死を伝える他の記事も拾い読みしてると、さっきのamassだけでなく、たとえばニューヨーク・ポストの記事にも、フランク・ザッパの名が共演者リストのなかに入ってるんですよ。

ぼくはふだんあまり多くは語りませんが、ザッパの大ファンでして、デオンが参加できそうな時期のザッパのアルバムに彼のクレジットは思い当たらないんですよね。

デオンがプロとしてキャリアをスタートさせたのは70年代後半で、その頃からザッパの最後のツアーとなった1986年まで、アーサー・バロウ→パトリック・オハーン→スコット・チュニスとベーシストは変遷しました。

ツアー以外の単発のライヴというのはザッパの場合はまったく無いと言っていいし、そもそも曲の難易度からして、彼のお眼鏡に叶うミュージシャンはそう多くなく、他のパートもツアーごとに多少の入れ替えはあれど、ほぼ固定的でした。またザッパはライブのリハーサルにまでギャラを発生させていたというのも有名な話です。

いろいろ検索していると、海外のファンが「DeonはZappaとどこで共演したか知ってる?」という質問をReddit!に投げてる人がいたので(しかも2007年)少なくとも《共演》と謳うほどの絡みがあったとは思えません。

たとえば、ザッパのオーディションは受けたことがあるけどダメだったんだよ……みたいなエピソードに尾ひれが付いたり、前後の脈絡が落っこちてしまった、と考えるのが妥当かな、と。

───で、結局なにが言いたいかといえば、きっと世界中で10人くらいしか感じない小さな引っかかりにも、ちょっとだけ時間や手間をかけて検証しておくことって大事で、こういう作業がもっと重大なことに対して、きちんとセンサーを鳴らす訓練になるんじゃないかな、と思っています。

最後にごぞんじ「Faith」を。シンプルなギターのカッティングとドラムマシーンの上で、ジョージの歌とデオンのベースが大暴れ。天国でもふたりでまた良い曲作ってください。


10月16日(土) 三拍子ソング特集

1 - Annette Funicello「The Rock And Roll Waltz」

2 - Nicholas Krgovich & Friends「Opal Elections」

3 - Ben Varian「The Floor is a Lady Too」

4 - Lamp「ラブレター」

5 - SAKEROCK「Alcohol Waltz」

本日朝10時から南海放送ラジオ「Smile mix」でお届けしたのは以上5曲でした。

来週土曜日まではラジコプレミアムで聴取可能です。

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