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太陽砲=オーベルトのスペース・ミラー【追記あり】

第二次世界大戦中、ナチスドイツが計画していた超兵器には様々なものがありますが、その中でも群を抜いて壮大で、そして現在日本でもっとも誤解されて知れ渡っている超兵器がこの太陽砲(Sun Gun)となります。
なお、このnoteは投げ銭形式といたしますので、記事の内容が気に入った方は、お代を払ってくださいますようよろしくお願いします。

【オーベルトのスペース・ミラー】

 そもそもこの計画は、ドイツの名高いロケット科学者のヘルマン・オーベルトが1923年に構想したスペース・ミラーが元になっています。

 オーベルトは、1929年に設立されたドイツ宇宙旅行協会(Vfr)で、ウェルナー・フォン・ブラウンらと共にロケットを開発しました。このVfrは1933年に解散しましたが、参加者の多くが後にペーネミュンデ陸軍兵器実験場において、V2号ミサイルの開発に携わっています。
 このスペース・ミラーですが、高度36,000キロメートルの衛星軌道上に構築した巨大な反射鏡で太陽光を集光し、北米大陸東岸の都市に向けて照射して炎上させるというもので、第二次世界大戦後、アメリカ軍の調査で開発研究されていた事が判明したことになっています。
 これを「ドイツのスペース・ミラー」、「太陽砲」の名称で、アメリカのライフ誌が報道したのが1945年7月23日でした。

 集光ミラーは上記のように、ブロック単位でロケットにより打ち上げられ、宇宙で結合・組み立てされる計画として描かれています。ミラーブロックには、宇宙空間移動用の小型ロケットが配置されています。
 ミラー内は居住空間になっており、食料用の植物栽培が行われる計画だったようです。
 スロベニアのヘルマン・ポトチェニクが宇宙ステーションを発想し、静止衛星軌道計算を行ったのが1928年ですから、オーベルトのスペース・ミラーに、これを加味してナチスドイツが研究していたことになります。なお、オーベルトの構想は最初から平和目的ではなく、北米の都市を焼く超兵器として考案されていたようです。

【地球連邦のソーラ・システム】
 ここまで読んで、賢明な方ならピンと来ていらっしゃると思いますが、このオーベルトのスペース・ミラーは、間違いなくアニメ「機動戦士ガンダム」に登場した地球連邦軍の超兵器、ソーラ・システムの元ネタです。
 この点は『GUNDAM CENTURY』で科学考証を担当された永瀬唯先生にも確認を取っています。
 完成形状こそ異なりますが、ミラー・ブロックを宇宙空間で結合・組み立てる計画であったことは、まったく同じです。

【ロシアのズナーミャ計画】

 さて、このオーベルトのスペース・ミラーを、実際に実現させてしまった宇宙計画がありました。それがロシアのズナーミャ(Znamya:旗)計画です。

 1992年に最初の実験機であるズナーミャ2が、プログレスTM-15により高度3万5千キロメートルの軌道上に投入され、1993年2月4日に直径20メートルの反射鏡を展開し、西ヨーロッパに直径5キロメートルの反射スポットを作成することに成功しています。

 1998年には直径25メートルに拡大されたズナーミャ2.5がプログレスM-40によって打ち上げられましたが、宇宙ステーション・ミールに引っかかってミラーの展開に失敗し、そのまま軌道を外れてしまいました。

 ズナーミャ2.5が成功していれば、2001年までに直径60~70メートルのズナーミャ3を軌道に投入し、最終的には直径200メートルのミラーを軌道に投入してシベリアを反射光で照らす計画でありました。

【太陽砲に関する日本の商業出版物の大誤解】
 さて、このように太陽砲とはオーベルトが構想したスペース・ミラーのことであり、1979年より放映された『機動戦士ガンダム』に登場したソーラ・システムの元ネタとなったものでした。
 だが、それから10年後の1980年代末。架空戦記小説の黎明期の頃より今日に至るまで、日本の商業出版物ではこのナチスドイツの太陽砲について、まったく大誤解された記述が行われていました。
 この記述は今日でも、それを参考文献とした記述がネット上で散見出来るので、以下にサンプルとして紹介しておきます。

10.太陽砲 
鏡の技術を応用した兵器。反射鏡で太陽光を集めて照射し、上空の敵機に向けて照射して炎上させるというもの。第二次世界大戦後、アメリカ軍の調査で開発研究されていた事が判明した。

カラパイア:当時圧倒的科学技術力を持ったナチスドイツが開発していたクレージーな10の兵器より抜粋
http://karapaia.livedoor.biz/archives/52175946.html

 この記述は、先日まで日本語版Wikipediaの太陽砲の項目に書かれていたものをコピペした文章であり、現在日本語版Wikipediaの太陽砲の内容は、自分が今回の記事に沿って修正を行いました。

 上記のように、ここ25年間の日本の商業出版物に掲載された「太陽砲」が宇宙兵器ではなく対空兵器として書かれてしまった原因について考察します。

 日本で出版されているドイツ軍の超兵器本において「太陽砲」と同列の変態砲として扱われる兵器には、以下のものが挙げられます。
・風砲:強力な爆風で敵航空機を撃墜する地上設置型の対空兵器
・竜巻砲:竜巻を発生させて敵航空機を撃墜する地上設置型対空兵器
・音波砲:強力な音波を放射して敵兵を撃退する地上設置型兵器
・ムカデ砲:地上設置型長距離砲

 これら4つが画像も存在する地上設置兵器であったため、架空戦記の黎明期にドイツの超兵器本を執筆した誰かが、てっきり「太陽砲」も地上設置型の兵器だと思い込み、記述してしまったと思われます。
 生憎な事に「太陽砲」についての記事は、1945年7月23日付のライフ誌程度しかなく、画像も存在しなかったため、誰かが「太陽砲」を地上設置型対空砲と記述してしまったと思われます。
(何かの超兵器本で、地上設置ミラーとして描かれたものを見た記憶もあります)
 以後25年間、四半世紀に渡って、この誰かが書いてしまった「太陽砲」地上設置対空砲という記述が日本の商業出版物ではまかり通ってしまい、自分の著作も含めて、延々25年間間違った記述がなされ続けてきてしまったのでしょう。

 もちろん欧米では、日本でそんな事になっているなんて知った事ではなく、ライフ誌の記述を元に英語版Wikipediaのドイツの超兵器の「太陽砲」の内容は宇宙兵器として記述され、2014年10月22日付けの英語版ハフィントンポスト・サイエンスの『Nazi 'Sun Gun' Aimed To Burn Cities Using Huge Space Mirrors (VINTAGE PHOTOS)』
http://www.huffingtonpost.com/2013/04/04/nazi-sun-gun-space-mirror_n_3015475.html

にライフ誌を元にした記事が掲載されたことで、ようやっと「太陽砲」に関する正しい記述が判明し、昨日日本語版Wikipediaの「太陽砲」の内容の修正に至った次第であります。

【追記】
 漫画家の西川魯介先生の言によりますと、1980年10月に刊行された落合信彦氏の『20世紀最後の真実』の中に、太陽砲に関して「アフリカ戦線ではたびたび使われ大きな成功をおさめたといわれている」という記述があったそうです。
 つまりこれは、『20世紀最後の真実』では太陽砲は衛星軌道兵器ではなく地上設置型の兵器として扱われていたということになります。
 架空戦記の黎明期に刊行されたドイツの超兵器本において、ライターの誰かが『20世紀最後の真実』を参考文献として太陽砲について記述していたとしても、何の不思議もありません。
 この事から、日本における太陽砲の記述が四半世紀に渡って間違い続けていた原因は、落合信彦著『20世紀最後の真実』の可能性が高く、落合氏を騙したネオナチの歴史捏造者エルンスト・ズンデルは、本当に罪深い人物であったことになります。

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