物理を理解するための数学②~三角関数編(2)~
こんにちは。
では今日は始めに、正弦定理と余弦定理のお話からしていきますね。ここからはサインコサインタンジェントや弧度法を何の説明もなくガンガン使っていくので、不安な方は前回の「三角関数編(1)」をもう一度ご覧いただけると幸いです。
それではまず最初に、正弦定理から説明しますね。
上図のように半径Rの円に内接している三角形をイメージしてみてしょう。内接というのはつまり、隙間なく円の中にすっぽり三角形が入っているということですね。一般的に上図の三角形の3つの角A,B,C及び三辺a,b,cに対して、以下の等式が成り立つことが知られています。これがいわゆる正弦定理というものですね。
ではこの正弦定理、どのようにして成り立つんでしょうか。証明するには3つの場合に場合分けして考える必要があります。
(Ⅰ) 0<A<π/2のとき
上図の破線部のように補助線を引くと、円周角の定理からA=Dであり、Cは半円の周に対する円周角ですから、C=π/2、すなわち△BCDは直角三角形となるんですね。ちなみに一般的に数学では三角形を「△○○○」とかいう感じで表記します。
で、△BCDについて考えると、
BC/BD = sinD = sinA
∴a/2R= sinA
よって a/sinA = 2Rとなります。
BとCについても同じようにして考えると
b/sinB = 2Rかつ c/sinC = 2Rですから、
a/sinA = b/sinB = c/sinC = 2Rとなります。
そういえば円周角の定理についてもお話しなきゃいけませんね。中学校の数学で習いますが、上図の∠ACBのように円周上に接する角を円周角といって、円周角は中心角の半分の角度になります。これが円周角の定理ですね。
(Ⅱ) A=π/2のとき
円周角の定理から、A=π/2のときBC=a=2Rになりますから、
a/(sinA)=a/(sinπ/2)=a=2R
また
AC=b=2RsinB
∴b/sinB=2R
であり、
AB=c=2RsinC
∴c/sinC=2R
以上からa/sinA = b/sinB = c/sinC = 2Rが成り立ちます。
(Ⅲ) π/2<A<πのとき
上図のように円の直径BD=2Rを引くと、円周角の定理からD=π-Aであり、
∠CBD=π/2 - D = A -π/2
となりますから
BC=a=2RsinD=2Rsin(π-A)=2RsinA
∴a/sinA=2R
同様に点AとCから円の中心を通る直線(=円の直径)を作図して計算してみると、b/sinB=2R および c/sinC=2Rが得られ、a/sinA = b/sinB = c/sinC = 2Rが成り立ちます。
以上から、正弦定理 a/sinA = b/sinB = c/sinC = 2Rが成り立つことが分かるんですね。
では次に余弦定理のお話をしましょう。
上図のような三角形ABCに対しては、一般的に次の余弦定理が成り立ちます。
これは意外と証明しやすいんですよね。補助線1本引けばもう一発で証明出来てしまいます。
まずは点Aから、辺BCへと垂直な直線(垂線)を引き、その交点をHとします。すると
AH = bsinC
BH = a - bcosC
となり、三平方の定理からAH^2 + BH^2 = c^2 となりますから、
(bsinC)^2 + (a - bcosC)^2 = c^2
これを整理したら
a^2 + b^2{(sinC)^2 +(cosC)^2} -2abcosC
= c^2 一 (*)
になるんですが、ここで今一度思い出してください。(sinC)^2 +(cosC)^2 =1 になるんでしたよね?前回の三角関数編(1)を見返してもらえたらピンとくるかと思いますから、「よく分からん、、、」と思われた方々は是非前回のnoteを見直してみてください。
よって、(*)式は
a^2 + b^2 -2abcosC = c^2
∴cosC = (a^2 + b^2 -c^2)/2ab
となります。これと同じようにして、点BとCから向かい合う辺へと垂線を引いて計算したら
cosA = (b^2 + c^2 - a^2)/2bc
cosB = (a^2 + c^2 - b^2)/2ac
がそれぞれ得られるのです。
では今度は加法定理について説明します。今でもそうかは分かりませんが、私たちゆとり世代では数学Ⅱの単元でしたね。
一般的に、任意の実数(=角度)αとβに対しては以下の加法定理が成り立つことが知られています。
この公式を証明するには、ちょっとした数学的センスが必要になります。
上図のように、三角形ABCと三角形ABDと三角形BECを作図してみましょう。ここでは三角形BECが重要な役割を担うんです。
AC=1としますと、AB=cosα、BC=sinαになりますよね。そして
AD=ABcosβ=cosαcosβ
であり、
BD=ABsinβ=cosαsinβ
また
BE=BCsinβ=sinαsinβ
ですから、点Cから垂線CHを引くと
CH = DE = BD + BE = cosαsinβ + sinαsinβ = sin(α+β)
AH = AD - CE = cosαcosβ - sinαsinβ
= cos(α-β)
となり、2つの公式が証明できます。
これら2つの公式を用いると、面白い公式が色々出てくるんですね。
① sin2x = 2sinxcosx
② cos2x = (cosx)^2 - (sinx)^2
= 1 - 2・(sinx)^2 = 2・(cosx)^2 - 1
①と②の式は倍角の公式という名で知られています。さらに②式を変形したら、次のような半角の公式も得られるのです。
3倍角の公式も重要ですね。
sin3x = sin(x+2x)
= sinxcos2x + cosxsin2x
= sinx{1 -(sinx)^2} + cosx・2sinxcosx
= sinx - (sinx)^3 + 2sinx{1 - (sinx)^2}
= 3sinx - 4(sinx)^3
cos3x =
では今度、tan(α+β)はどうなるでしょうか。実際に計算してみましょう。
tan(α+β) = sin(α+β)/cos(α+β)
= (sinαcosβ + cosαsinβ)/(cosαcosβ - sinαsinβ)
= (tanα + tanβ)/(1 - tanαtanβ)
∴ tan(α+β)
= (tanα + tanβ)/(1 - tanαtanβ)
「……?」と思われた方も結構多いかと思いますが、それは当たり前ですね。詳細な計算過程は次のようになります。
つまり、分子と分母をcosαcosβで割ると上の公式が証明出来るんですね。この公式を使えば、
③ tan2x = 2tanx/{1-(tanx)^2}
となります。
これらの加法定理を用いれば、次のようないわゆる減法定理も証明できるのです。
(減法定理)
sin(α-β) = sinαcosβ - cosαsinβ
cos(α-β) = cosαcosβ + sinαsinβ
tan(α-β)
= (tanα - tanβ)/(1 + tanαtanβ)
証明は簡単にできます。前回の三角関数編(1)の復習になりますが、β→-βに置き換えたら
sin(-β) = -sinβ
cos(-β) = cosβ
tan(-β) = -tanβ
となり、これらを加法定理の公式に当てはめるだけです。
sin(α-β) = sinαcosβ - cosαsinβ
cos(α-β) = cosαcosβ + sinαsinβ
tan(α-β)
= (tanα - tanβ)/(1 + tanαtanβ)
では以上のような公式を用いて、次のようなサインコサインタンジェントを求めてみましょう。
⑴ (解)
(与式) = sin(45°+30°) = sin45°cos30° + cos45°sin30° = (√2/2)・(√3/2) + (√2/2)・(1/2) = (√6 + √2)/4 …(答)
⑵ (解)
(与式) = cos(45°+60°) = cos45°cos60° - sin45°sin60° = (√2/2)・(1/2) - (√2/2)・(√3/2) = (√2 - √6)/4 = -(√6 - √2)/4 …(答)
⑶ (解)
(与式) = tan(45°-30°)
= (tan45° - tan30°)/(1 + tan45°・tan30°)
= (1 - √3/3)/(1 + 1・√3/3)
= (3 - √3)/(3 + √3)
= (3 - √3)^2/{(3 + √3)・(3 - √3)}
= (12 - 6√3)/6 = 2 -√3 …(答)
では最後に、和→積の公式と積→和の公式についてお話しますね。
sin(α+β) = sinαcosβ + cosαsinβ …(a)
cos(α+β) = cosαcosβ - sinαsinβ …(b)
sin(α-β) = sinαcosβ - cosαsinβ …(c)
cos(α-β) = cosαcosβ + sinαsinβ …(d)
(a)+(c)から、
sin(α+β) + sin(α-β) = 2sinαcosβ
∴ sinαcosβ
= (1/2){sin(α+β) + sin(α-β)}
また(a)-(c)から
sin(α+β) - sin(α-β) = 2cosαsinβ
∴ cosαsinβ
= (1/2){sin(α+β) - sin(α-β)}
(b)+(d)から
cos(α+β) + cos(α-β) = 2cosαcosβ
∴ cosαcosβ
= (1/2){cos(α+β) + cos(α-β)}
(b)-(d)から
cos(α+β) - cos(α-β) = -2sinαsinβ
∴ sinαsinβ
= -(1/2){cos(α+β) - cos(α-β)}
これら4つの公式が、いわゆる和→積の公式と呼ばれるものですね。
では今度はα+β=A、α-β=Bとして考えてみましょう。このとき、
α = (A+B)/2 、 β = (A-B)/2
となるのですが、ここまでは大丈夫でしょうか?すると、先程の和→積の公式は次のように変形する事ができます。これがいわゆる積→和の公式なんです。
ではこの和→積の公式と積→和の公式を使って実際の大学入試の問題を解いてみましょう。
令和2年度の浜松医科大学の問題ですね。せっかくですから、⑴から順に見ていきましょうか。
ひとまずはこんなところでしょうか。
⑶は正直、「証明せずに和積の公式をいきなり使っていいの!?」ってなりそうですね。流石は医科大学の入試問題といった感じです。
2倍角の公式や3倍角の公式も使う出題で、個人的にはなかなかの良問だと思います。
さて、今回はこの辺でお話を終わりましょうかね。三角関数の話の続きは後日しますが、次は合成関数のお話からしていきましょう。
今日も随分長くなっちゃいましたね。お疲れ様でした。