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④ガーダシルとシルガード9どちらを打つべき?ヒトパピローマウィルスの正体を暴け!

 これまでのシリーズでは、すべて定期接種のHPVワクチンについて話してきました。そもそもワクチンの定期接種、任意接種とは何でしょうか。定期接種とは全員接種することが推奨されており、公費で接種できるものです。集団免疫の観点から、国策として接種が推奨されているという意味合いもあります。結核予防のBCGや、ジフテリア、百日咳、破傷風、ポリオを予防する4種混合などです。任意接種とは、希望者が自分のために必要に応じて自費で接種するワクチンです。A型肝炎やおたふく風邪のワクチンなどが含まれます。すべて予防接種法という法律で決まっています。インフルエンザワクチンは65歳以上であれば定期接種の対象、64歳以下で持病がなければ任意接種です。
 子宮頸がんワクチンの場合、定期接種で公費負担なのは2価ワクチンのサーバリックスと、4価ワクチンのガーダシルです。定期接種の対象は12歳から16歳で、17歳以上では任意接種となります。2022年4月から17歳以上の女性を対象に開始されるキャッチアップ接種も、4価ワクチンのガーダシルを対象としています。2021年2月に国内で発売された9価のシルガード9は、どの年齢においても任意接種です。どの種類にしても半年間かけて3回接種する必要があります。サーバリックスは2009年に国内で最初に発売された2価HPVワクチンで、接種世代ではこれを打っている人も多いです。2011年に4価のガーダシルが発売されると、サーバリックスを接種する人は少なくなりました。現在でもサーバリックスは定期接種の対象ですが、これから新しく子宮頸がんワクチンを打ち始める人はサーバリックスを接種することはできません。これまでいずれかのHPVワクチンを1〜2回接種しているのであれば、同じ種類のワクチンを3回目まで打ち続けることになります。これから打ち始めるなら実質的には公費でガーダシルを打つか、自費でシルガード9を打つかの選択になります。これを考える前に、ヒトパピローマウィルスの正体を暴いてやりましょう。

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 200種類以上の型(タイプ)があり、ほとんどの女性は一生のうちにいずれかのHPV感染を経験すると言われます。しかしこのうち、長期に排除されることなく持続的に感染し、がんの原因となるHPVを高リスクHPVと呼びます。性交渉で感染しますが、感染した人のほとんどは発症しないことから、性感染症とは分けて考えられています。16型、18型が高リスクHPVの代表で、その他にも31,33,35,39,45,52,56,58,59,68などが知られています。子宮頸がんのみならず、外陰がんや肛門がん、膣がん、咽頭がん、陰茎がんなどの原因にもなります。男子にもHPVワクチン接種が勧められる理由はここにあります。一方で低リスクHPVとは、尖圭コンジローマや良性のイボの原因となるタイプのHPVで、6型、11型が代表です。16型、18型を予防するのが2価ワクチンのサーバリックス。これに低リスクの6型、11型を加えて4価にしたのがガーダシルです。9価のシルガード9は、さらに31,33,45,52,58の5つの型が予防可能です。ハイリスクが15種類あるうちの16型、18型だけで大丈夫なの?!と思われるかもしれませんが、16型、18型だけで子宮頸がんの人から見つかるHPVの65%を占めていますので、それなりの予防効果と言えます。ただしアジア人では52型、58型も多いと言われており、それらを含むシルガード9がより安心です。9価を接種することにより88.2%のHPV感染が予防されます。

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9価を接種したとしても高リスクHPVのすべてをカバーしているわけではなく、ワクチン接種をしたから子宮頸がん検診をしなくていいということにはなりません。またすでに性交渉を開始していて、いずれかの高リスク型HPVに感染してしまっていた場合でも、すべての型のHPV感染を持っているということはまずありません。まだ感染していない型への感染を予防することで、子宮頸がんのリスクを下げることができます。日本の婦人科ガイドラインでは26歳までは接種を推奨し、45歳までは子宮頸がんの予防効果があるため希望者には接種すると書かれています。
 定期接種の対象が12歳から16歳になっているのは、性交渉を開始していない可能性が高いということと、思春期に接種することで抗体がつきやすく持続しやすいという2つの理由があります。

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私自身は30歳になってから自費でガーダシルを接種しました。私の接種を担当してくれた当時の職場の上司からは「お前はもう遅いぞ」と言われましたが、「いいんです。私だってこれからまだ新しいHPVとの出会いがあるかもしれないんだから」と言いくるめた記憶があります。ガイドラインというのはあくまでも集団を対象とした研究がもとになってできるものです。26歳以下でも結婚して子供がいて、新しいHPV感染をするリスクがないのであれば、接種により子宮頸がん発症リスクはあまり下がりません。逆に40歳でもこれまで性交渉歴がなく、今後たくさんの出会いがある方であれば、ワクチンの効果は高いと言えます。また接種するかどうかは医学的な予防効果だけではなく、個々人のさまざまな事情と照らし合わせて相談することにしています。例えば、ワクチンを打たないでもし子宮頸がんになってしまったら後悔しきれないから、という理由や、女の子のお子さんがいて、将来接種を勧めたいから自分が打ってみたかった、なども接種の理由に十分なると私は思います。
 効果から言うともちろんシルガード9を選択すべきなのは明らかですが、任意接種で自費負担という問題があります。費用は病院によってまちまちですが、ガーダシルは1回1万円くらい、シルガード9は1回2万円くらいです。これを3回接種します。どちらを打つか悩まれている方には、年齢が26歳以上でキャッチアップ接種の対象外であれば、いずれにしろ自費になるので、シルガード9を接種してみては、とお伝えします。すでに仕事をしていて自分の収入がある方も多いので、ほとんどの方は9価を選ばれます。定期接種またはキャッチアップ接種の対象者であれば、ご家庭の経済状況により選んでいただきます。無料で打てるか、6万円以上の自己負担になるかは大きな違いです。特に複数の娘さんに接種しないといけないご家庭では、バカにならない出費となります。
 何年か経ったらシルガード9が定期接種になりますか?というご質問をよくいただきます。私は製薬会社の幹部でもないし、厚生労働省の役人でもないので国の方針は予測できません。しかし9価ワクチンは世界的に供給不足と言われており、9学年分のキャッチアップ接種の財源も確保しなければならなかった日本にとって、簡単に定期接種にすることはできないだろうなと思います。(もし間違ってたらごめんなさい!)シルガード9が定期接種になるのを待っている間にHPV感染を起こしてしまうくらいだったら、とりあえずガーダシルでも早く接種した方がいいのではとお伝えしています。
 確かに6万円は高いです。でもワクチンでがんが予防できるということの意味を改めて考えたことがありますか?インフルエンザ感染やコロナ感染がワクチンで予防できるのとは少し意味が違います。インフルエンザは罹ってしまってもほとんどの場合は後遺症なく治りますが、子宮頸がんにかかってしまったら、6万円をはるかに超える治療費と、そしてお金には代えられない大切なものを失うことになるのです。

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