石井聰亙「逆噴射家族」

小林よしのりが関わってるだけあって徹頭徹尾漫画的すぎる人物描写にやや抵抗はあるし、深遠な何かを読み取るような映画でもないんだろうが、日本が豊かになっても思っていたような幸福が得られなかったというやりきれなさ、それが破壊からの再生を望むことに繋がるってのは一つの心理の流れとしては分かる。その後の不景気のほうを長く経験している世代からすれば共感はし難いが、こういう時代もあったという貴重な記録だろう。

家族以外の登場人物がほとんど絡んでこないミニマムな物語で、あんまり予算がかかってる感はないが、要所要所の破壊描写にはかなり手間をかけている。こういう作りにしたのは正解だと思われる。特にクライマックスはなかなかの見応え。またラストの荒涼とした風景の切り取り方も素晴らしく、まるでアントニオーニ作品のようでもある。それまでの馬鹿騒ぎが嘘のように静かに終わる、この呼吸にはやられた。

何をやっているのか分からないが引きこもってる息子の自室が改造されていく様子も面白い。工藤夕貴は当時の年齢を考えれば結構きわどいことをやらされている。今だとコンプラ的にアウトってことになってしまうんだろう。

(2024年5月18日、U-NEXTで鑑賞)

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