2024年3~4月に見た映画

☆は5段階評価です。大好きな「コントラクト・キラー」をはじめて映画館で、しかもフィルムで見ることができたのはよかったです。

ヒットマンズ・レクイエム(マーティン・マクドナー) ☆☆☆☆

風と女と旅鴉(加藤泰) ☆☆☆☆

錦之助と2人の女の三角関係が楽しいし、賑やかな祭りが一転して不穏な空気に変わっていくシークエンスにも感嘆。美しいローアングル撮影と苦味を残す結末。東映プログラムピクチャーの枠を大きくはみ出した加藤泰の作家性はこの時点で既に確立されていた。

愛情萬歳(ツァイ・ミンリャン) ☆☆☆

女系家族(三隅研次) ☆☆☆☆

遺産をめぐるチマチマした争いは興味範囲外でありやや退屈に感じたが、若尾文子が登場すると一気に求心力が生まれる。悪意や軽蔑と孤立無援で対峙する姿の美しさは同時期の増村作品とリンクする。それだけに彼女を軸に組み直した物語が見たかった気もした。

落下の解剖学(ジュスティーヌ・トリエ) ☆☆☆☆

わざと下手に撮ってるかのようなぐらつくカメラワークが謎だが、法廷劇の面白さを堪能。各々が真反対の立場から話の筋を通そうとするのが見ててスリリング。母の旗色が悪くなってく中での息子の気丈な振舞いは立派だ。この子役と犬は名演と言うべきだろう。

ミニオンの月世界(ジョナサン・デル・バル) ☆☆☆

FLY!/フライ!(バンジャマン・レネール) ☆☆☆☆

パパの心境が裏返るまでのプロセス描写がおざなりで序盤は性急だが、都会に来てからのダイナミックな映像表現、とりわけ落下の心地良さには抗えないものがある。鳥たちの連帯によりピンチを乗り越える王道展開。そして辿り着いた土地の楽園感がまた圧倒的。

ハート・オブ・ダークネス/コッポラの黙示録(ファックス・バー/ジョージ・ヒッケンルーパー/エレノア・コッポラ) ☆☆☆☆

極道戦国志 不動(三池崇史) ☆☆☆☆

ヤクザの抗争劇をマジに描く気はなく悪趣味なディティールにばかり凝る姿勢嫌いじゃない。小学生ヒットマンや生首サッカーなど一線越えてる表現が強烈。倫理や秩序がぶっ壊れた不条理世界を作り上げ最後まで貫き通した三池の徹底ぶりは評価せざるを得ない。

夜の看護婦(ウィリアム・A・ウェルマン) ☆☆☆☆

1930年代にして戦闘的女性を肯定的に描いていたアメリカ映画はやはり凄いと感心する。アル中女や悪党ゲーブルらクセある連中にも怯まず堂々と対峙するスタンウィックの心意気に惚れ惚れ。前半の手術シーンもなかなかの臨場感で、短尺ながらも見せ場が多い。

好男好女(ホウ・シャオシェン) ☆☆☆

わざと分かりにくく作ってるのかと疑うレベルで筋が掴めないし、終始ダウナーなシャオシェン演出にはしんどさを感じる。ただ男女あるいは女同士の喧嘩の描写など面白くはある。台湾の歴史について知識があればもう少し感じ入るものがあったのかもしれない。

コントラクト・キラー(アキ・カウリスマキ) ☆☆☆☆☆

カウリスマキ映画の人物は笑いもしなきゃ泣きもしない、にも拘らず、見てる側は心を揺さぶられっぱなしだ。ブレッソン的そっけなさにユーモアと温かみを加味したような彼の世界は一貫している。とりわけ本作は好きな作品。情けないレオがあまりに愛おしい。

オッペンハイマー(クリストファー・ノーラン) ☆☆☆☆

忠臣蔵外伝 四谷怪談(深作欣二) ☆☆☆☆

格調とは無縁の深作時代劇。六平直政や荻野目慶子のやりすぎ演技に笑うし、幽霊が何故か戦いに参加する終盤にはズッコケる。ただ佐藤浩市は魅力全開で、彼を中心に据えたことで飽きさせない出来になってる。やはりダーティーな男を描いてこその深作である。

偉大なるマッギンティ(プレストン・スタージェス) ☆☆☆☆

政治ドラマとしての深い掘り下げはないものの、アクション・コメディ・恋愛などの要素を短尺にしっかり盛り込み手際良い。転倒し食器割りまくる主人公、ドッグハウスを引きずって走る犬など細部の描写は実に楽しい。陽性ノリのバカバカしいラストも好印象。

快楽学園 禁じられた遊び(神代辰巳) ☆☆☆

悪趣味なエロコントの寄せ集めでストーリー性はほぼない。はっきり言って酷い出来なのだが、何か突き抜けたものは感じる。脈絡もなく始まる催眠術シークエンスが妙にしつこく続くと思いきやぬるっと終わる。この呆気なさは嫌いじゃなく、異様な後味が残る。

青髭八人目の妻(エルンスト・ルビッチ) ☆☆☆☆

男女のイニシアチブ争いで終始負け続けるクーパーが最高。シェークスピアを読んで感化され、妻の部屋と自分の部屋を行き来する間抜けさ。ネギ嫌いを伏線としたギャグ。ルビッチのスマートな語りが相変わらず素晴らしく、結婚後の大胆な時間省略にも唸った。

吾輩はカモである(レオ・マッケリー) ☆☆☆☆☆

物語のスムーズな流れを阻害するかのようにナンセンスギャグを大量投入していく。この無秩序な作りが堪らない。圧倒的に傑出した鏡の場面を筆頭に冴えまくったアイデアの数々。ハチャメチャなカオス状態が加速し、その勢いのまま完走する終盤がまた怒涛だ。

インフィニティ・プール(ブランドン・クローネンバーグ) ☆☆☆☆

不条理展開が延々続いた末の曖昧な帰結が結局何だったんだという感じで釈然としない。バスで逃げる主人公を執拗に追いかける狂人軍団。エログロだけじゃなく精神的にもねちっこくダメージ与えてくるような描写満載で、そういう細部は若干引きつつ楽しんだ。

ダンケルク(クリストファー・ノーラン) ☆☆☆

沈黙-サイレンス-(マーティン・スコセッシ) ☆☆☆☆

己を支える土台とも言うべき神への信仰が揺らいでいくことの苦悩と葛藤。拷問や処刑を延々と見せつけ宣教師に棄教を迫るイッセー尾形や浅野忠信の抑えた芝居がかえって恐ろしい。日本人キャスト総じて好演。水面に浮かぶ舟の画には溝口オマージュを感じた。

二十歳の恋(フランソワ・トリュフォー/ レンツォ・ロッセリーニ/石原慎太郎/マルセル・オフュルス/アンジェイ・ワイダ)

トリュフォーのパートしか見ていないため採点は保留。

さらば、わが愛/覇王別姫(チェン・カイコー) ☆☆☆☆

男女3人の濃い愛憎劇に文化大革命などの社会的背景を絡めたスケールの大きい語り口が圧巻。拾った捨て子が後半への伏線になる、その物語展開の悲劇性。政治の埒外にいながら政治と無縁ではいられず、翻弄され踏みにじられてきた者の苦難の生涯を描ききった。

一日の行楽(チャールズ・チャップリン) ☆☆☆☆

デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション 前章(黒川智之) ☆☆☆☆

平凡な日常描写とそれを脅かすカタストロフ描写の対比が巧い。正義心の発露や手に入れた力を行使することが誤った方向に向かってしまう危うさ。それに対して苦言を呈することができるのは真っ当な友情の在り方だ。あのちゃんはまさに適任と思う。原作未読。


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