オッペンハイマー

クリストファー・ノーランの「オッペンハイマー」を見た。言わずと知れた、話題の映画である。まったく私事ながら、私の母方の祖父も広島で被爆した当事者であったということもあり、日本公開が危ぶまれていた昨年から本作の存在は気になっていた。

リンゴのエピソードが主人公の危うさを抱えたパーソナリティを強く印象づけており、映画のツカミとしてこれを最初に持ってきたのは巧いと思った。

オッペンハイマーがわりと序盤から鼻持ちならない奴として描かれてるのが面白い。時系列シャッフル話法も含めて「市民ケーン」的な感じがなくもない。反ナチスというブレない政治的立ち位置があり、共産党とも関わりを持つことになる。それが後半の赤狩りの件に繋がっていく。かなりゴチャゴチャしていて隅々まで理解するのが困難ではあるが、このへんを押さえていれば大まかな話の流れにはついていけるかと思われる。

爆発や暴風や足踏みのノイズ音が凄まじく、それだけに突然訪れる静寂の恐ろしさが際立っていた。核実験の場面、日本への原爆投下後に喝采を浴びるオッペンハイマーが幻覚を見る場面などはとりわけ強烈な印象を残す。ただこういった音の使い方を濫用しすぎているきらいはあり、少々くどさも感じてしまった。

誤った計画でも、それが一度走り始めたら止めることは容易ではない。そういう事案が世界中で同時多発的に起きてしまったのが第二次世界大戦だったということだろうか。国家への忠誠というキーワードが幾度も出てくるが、本作は時代の大きな流れに抗えなかったオッペンハイマーの姿を通して、貴方は国家についてどう考えるか、どう向き合うのかと問うてるようでもある。

反戦や反核を言語的に訴えている映画ではないから、当然いろんな感じ方があるだろう。私は真摯な映画と受け止めた。

(2024年3月6日、ユナイテッド・シネマ浦和で鑑賞)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?