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読書レポート #1 『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』


本の選定理由

みずほ銀行システム統合における失敗(アンチパターン)とその防止策・みずほ銀行が持っていた特有の風習や制度などの背景を知ることで、今後システム統合案件に参画する際の意識を学びたいと思ったためである。

直近のシステム障害として影響・話題性が最も大きいものは、2021年2月から2022年2月の間に11回ものシステム障害を発生させたみずほ銀行の障害だと私は思う。
ITエンジニアとして、システム障害を引き起こすことは最も避けたい事態である。にもかかわらず、みずほ銀行は多数のシステム障害を引き起こし、社会に悪い影響を与えてしまった。
この本を読む前「みずほ銀行のシステム統合に参画しているエンジニアはおそらく優秀で手際よく作業をこなせるはずなのに、なぜ納期遅れや多数のシステム障害を引き起こしてしまったのか?」と思っていた。
この疑問を解消すべく、この本を読もうと思った。

この本の概要

みずほ銀行の統合システム「MINORI」開発までの経緯

みずほ銀行の新しい勘定系システム「MINORI」は2019年に本格稼働を開始した。このシステムは8年の時間と4000億円台半ばの費用をかけて開発された。これはシステム開発にかけた時間・費用として非常に大規模である。
この巨大なプロジェクトが実行された背景には二度の大障害がある。 みずほ銀行は2002年に「第一勧業銀行」「富士銀行」「日本興業銀行」が統合してできた銀行である。この統合に伴い、1999年から三行の勘定系システムを統合するプロジェクトが開始した。
しかし、「三行のシステムを二行のシステムに再編する」という計画の複雑さ・統合システム予算の削減・旧組織どうしの派閥争いなどによって十分な開発が進まなかった。各銀行で用いられていたシステムを流用し、それらをつなぐ「リレーコンピュータ」のシステムを統合前になんとか完成させたものの、リリース直後に大障害を引き起こした。
夜間に終わるはずの口座振替処理が終わらないままシステムを稼働させた結果、二重引落・二重振込などが発生し残高が誤って保存される状態となった。この障害は現場のエンジニアが手動で口座振替データの作成を行うなどで乗り切った。
その後2006年に勘定系システムの一本化を完了させたが、一部に古い仕様が残ったままの状態であった。また、旧来のシステムを開発した技術者が年を追うごとに社内からいなくなり、システムはブラックボックス化しつつあった。これが2011年の大障害を引き起こす一因となった。
2011年3月、東日本大震災義援金の振込口座に設定値以上の件数の振込がなされたことによる振込処理異常終了が発生し、仕様不備によって振込データの一部が欠損した。データ復旧が遅れたことにより被害は連鎖的に拡大し、最終的に全国の店舗・ATMでの取引が完全にできなくなる大障害を引き起こした。仕様に不備があったのはもちろんだが、障害発生時の対応が想定されておらず現場で多くの手順ミスがあったことも被害の拡大を引き起こした要因であると後の調査で判明した。

統合システム開発において留意されたこと

過去2度の大障害を重くみたみずほ銀行は、先延ばしにしてきた統合システムの開発をようやく本格的に開始した。 この統合システム開発プロジェクトでは、主に下記の点に留意して進められた。

  • 「現行踏襲」の要件定義をやめ、あるべき業務フローから要件を洗い出した

  • 銀行業務を行うユーザー部門に業務フロー図を書かせることで現行踏襲の考えを捨てさせた

  • 属人性を排除すべく、生のコードを使用禁止として自動生成のコードを用いた

統合システムの完成による変化と、今後に向けて

統合システムの開発により、みずほ銀行はシステムの運用コストを下げることが可能になったと見込まれている。また、より人が注力すべき業務に人を割り当てることができるようになった。
例えば、各店舗の事務スペースで行っていた作業は事務センターに集約されたため、各店舗のスペースは個人客への金融商品の営業スペースや法人顧客と打合せを行うスペースに変わった。 大手テクノロジー企業が金融サービスに参入していることやブロックチェーンの台頭・フィンテックの進展もあり、銀行業界はデジタルの大波に襲われている。この大波を乗り切るには「ソフトは稼働した瞬間から陳腐化していく」という認識を常に持って行動することが重要である。

この本を読んで学んだこと

この本では、システム開発における根本の失敗と、環境の変化による陳腐化を防ぐための行動指針を学んだ。
具体的には、下記の通りである。

システム統合を行うということは、極論すれば業務フローを統合・統一させることである。システムは業務を効率化させるが、業務にシステムを合わせる形ではその効果は限定的である。近年ではシステムに業務を合わせる形を取る企業が増えていることからも、それを裏付けている。
業務フローの統合にあたって情報資産の扱いは大きく変化するため、一筋縄ではいかない。
少なくともシステム統合は簡単という認識は誤っており、難解で手間がかかるものだと認識すべきである。

陳腐化を防ぐためには、適切かつ定期的なアップデートが必要。
システムを取り巻く環境は常に変化する。特に近年は環境の変化が早いため、陳腐化も速くなっている。
システムはもちろん、技術者も陳腐化しやすい環境だといえる。自分の技術者としての能力の陳腐化を少しでも食い止めるには、最新技術やトレンドにアンテナを張り学び続けることが必要である。

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