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新規開業ホテルで1年支配人を経験して学んだこと

石川県金沢市にあるホテル『香林居』で支配人をしています、笠井明と申します。

2022年10月1日に、香林居は開業から1周年を迎えます。

開業から荒波にのまれながら過ぎていった日々で、個人として学びの多い一年でした。「良い施設を良いクオリティで営業し続ける」ために得た知見を、現場で支配人として店舗責任者を務めた1年間を振り返り、背伸びをせず率直に学んだことを、今後また開業業務携わる際の自身の振り返る場所として、そしてホテル業界で働く方々に向けて残しておこうと思い、初めてnoteを書かせてもらってます。
ホテル現場を愛する支配人の一考えとして、なかなかまとまりのない文章にはなってしまいましたが、ご一読いただけると嬉しいです。

経歴

まずは簡単に自己紹介を。

大阪生まれ。1997年生まれ、水瓶座です。

中学卒業までの8年間をアメリカ合衆国ニュージャージー州で過ごし、高校から日本に帰国しました。その後同志社大学を卒業後、インターンとして働いていたSUISEI inc.(旧L&G GLOBAL BUSINESS)に2019年に新卒入社。同年12月の社員総会で行われた支配人を目指すスタッフのプレゼン大会、支配人総選挙で選出いただけ、2020年2月からHOTEL SHE, KYOTOの支配人を務めました。そして2021年4月から香林居の開業チームに加わり、2021年10月1日にホテルは開業し、今に至ります。SUISEIの支配人の仕事とは、一言でいうと自店舗を継続的にまわし続けるため試行錯誤することだと思っています。ホスピタリティ、ファイナンス、マーケティング、HRなど、様々な分野の仕事を一任いただいてます。

好きな食べ物は青のり紅生姜とマヨネーズ多めの焼きそば、趣味は散歩、イングランドのサッカーチームのリバプールが好きです。将来はタイハクオウム(ペットショップでよく叫んでる子)と一緒に暮らしたいです。

はじめに

今回書かせてもらっている内容は、開業までの日々や、GOP率アップのためにやっていることなどではなく、ホテル開業から今までにかけて、主に取り組んできた「オペレーションの改善とホテルの基盤作り」について学んだこと、そしてそれをチームとして進めるためにどうすればよいと感じたか、を書いております。

学びその①:現場の仕事は細部まで全てつながっているということ

現場で働いていると、「こうしたらもっと良くなる」「これはこうしない方が効率がいい」など、改善すべきことを日常的に見つけることはありませんか。小さなことから、中には改革の起こる大きなこともあったりします。特に開業1年目となるとこういった改善すべき課題の量は膨大です。
清掃も自社で行う香林居のスタッフ(社員7名)は全員、目の前のゲストへのサービス業務だけでなく、上記のような何かしらの改善業務や管理業務を兼任しています。

ゲストへのサービスの優先順位を一番とするため、1日の間でスタッフが改善作業のため取れる時間はせいぜい2時間程度しかありません。それら改善業務を一つ一つ出てくるたび捌いていると、本当に注力すべき仕事にたどり着けず終わってしまいます。結果としては良い方向に向かっているのでそれはそれで良いのですが、特に開業1年目となると本当に注力すべきこととそうでないことがありました。

支配人としての仕事は、
中期的にみると「継続的に予算達成できる店舗を作ること」で、
短期的にみると、中期の目標を達成できるよう基盤を構築しつつ、単純なゴールは「数字を出すこと」にあります。数字を出すためには予算値に足りていない差分がある箇所を探し、アクションに落としていく必要があります。

そんな時よく私は以下のような「GOP」「ゲスト満足度」で分解したツリーを描いています。

ここから三段階ほど細かく枝分かれさせたものを作り、より「数字を出すこと」ができる課題を見つけます。日常的に発見し改善するものは、これらのいずれかに影響してきます。

私は開業したての施設を経験するのは香林居が初なのですが、開業して1年目というのは(私が不慣れなこともあり)現場には膨大な量の改善すべきことが存在します。冒頭にも書かせていただいた通り、それらの分野は様々、規模は小さなものから大きなものまで存在します。

いくつか例を挙げさせてもらうと
・歯磨きのブラシが硬い
・スタッフの育成方法が定まっていない
・更衣室のカーテンが完全に閉まり切らない
などが実際にありました

開業してから3ヶ月くらいは緊急度の高い課題が多く、運営を安定させるためにひたすら解決策をチームで投じていたため、ある程度落ち着いても現場の課題解決マシンとなったスタッフは、目の前に落ちている問題を緊急度が高くなくとも拾おうとしてしまいます。ただ、目の前に落ちたものばかり拾って解決を続けても、到達したい目標に届かなくなっていきました。本当にそれがやるべきことなのか、ゴールから道すじを描いた際に解決すべき課題に着手できているのか、を考えるようになりました

支配人の私が持つKGIは「数字を出すこと」です。そしてKGI達成のためのKSF/KPIはスタッフに遂行してもらうこと。ホテルのゴールが私のゴールであるため、そこにつながるようにスタッフの仕事は細分化され、全員で実施して初めて到達できるような仕組みになりました。

メモ:

  • スタッフの解決する課題/スタッフの目標は、全員が実施/到達できれば店舗として目指すゴールに到達するものでなければいけない。

  • 支配人の仕事はその道を描き、スタッフと一緒に進めること。

開業当初、スタッフのOJTの様子

学びその②:現場でやってよい施策、やってはいけない施策

ある程度道すじが描け、スタッフごとに目指して欲しい目標が決まって次に出現したのは、「目標到達のために取るべき手段が効率的ではあるが、なんとなくやってはいけない手段である気がする」という問題でした。

一例を挙げさせてもらうと、「OTAを説明的にするか否か」がその一つです。

「ホテルにあるアメニティが分かりづらい」「客室が少し想像と違った」というお声をいただいた際に悩んだことでした。
クチコミのコントロールの一つは期待値調整だという声を聞きますし、実際そうだと思っていました。ですが香林居で働きはじめ、素敵な施設さんに宿泊すると、最初から高い期待値を遥かに上回ってくることが多いことに驚かされました。そして、必要な期待値調整はゲストが気づかないように実施しているのだと感じました。

べにや無可有さんに昨年夏に宿泊した際、チェックイン時、ロビーの椅子に腰かけると香り線香の匂いがしました。その時は「まあ森の中だから」程度にしか思わなかったのですが、 客室案内の時も蚊取り線香があることを伝えられ、その後も客室内で虫除け機を発見し、その後小蝿などが出ても違和感がなかったことに驚きました。チェックイン時から「虫はいて、その対策は全力で行なっている」ことが、体験通じて違和感がなくなるほど散りばめられていました。 言葉で「森なので虫が出ます」と伝えられるよりも、なんとも言えない感動と安心感だったことを覚えています。

少し話は逸れましたが、時に現場ではゲストの体験満足度のために説明的なものを作るかどうかに悩まされることがあります。これらについて副支配人とサービスマネジャーと長い議論をかわしました。
そのようなケースの対応として施設としてのレギュレーションを決めておき、議論はそれに沿って行われる必要があること、を学びました。

自施設のブランドを担保する上で最近少し気になっているのがSNSを通じたUGC効果です。

UGCって数年前までもっと「好き」を発信して同調していく魅力的なものだった気がするなあと思いつつも、それによる集客効果は否定できないため、今後これをよしとしていくのか、どう対応していくべきかは今後も課題として残っています。

メモ:

  • 施設としてのレギュレーションを決めておき、議論はそれに沿って行われる必要があること

  • レギュレーションはよりたくさんリピートしていただける顧客層をベースに考えられるべきであること


学びその③:現場は愛でまわるということ

長々と学びを書いていますが、プレーヤーとしての下積みをほとんどせず支配人を務める自分は、現場でボロを出しまくっています。店舗で一番ケアレスミスが多いとも自負してます。たまに「その年で支配人なんてしっかりしてるね」と言ってくださる方もおりますが、そんなことはありません。

はっきり言って京都で初めて支配人を務めた1年半は失敗の日々でした。なんならホテル開業までと開業してからもそうでした。
メンバーに気をつかい自身の意見を主張できず、主張したと思えば必要ないことでメンバーとぶつかり、思い出すだけで恥ずかしいことばかりです。

論理的に考えること、ツリーを書くこと、課題解決の思考法などは好きな分野で、かつ学ぶ機会が入社時にあったため、得意とも思っています。
ただ、ツリーで描いたKGI/KPIの到達のためにツリーで描ききれないことがありました。それこそがスタッフに実行してもらうための基盤を整えることでした。

旗振りリーダーのような素質もなく、実践経験の浅い私が指示して動いてもらうには信頼関係が必要でした。それこそが支配人というポジションで2年半失敗を重ねて学んだことで、「ホテルとメンバーをリスペクトして愛を示せば基盤は整っていく」です。

「愛」とはなかよしこよしすればよい、ということではなく具体的にとるようにした行動は

  • チームのルールに背いた行動と、そのスタッフの成長を妨げる行動/考えはちゃんと叱って正すこと

  • 「小さなこだわり」こそ、伝え続けチームに浸透させること

  • 答えをすぐに渡さないこと

ということでした。

そして今後取らないといけない行動も明確になっています。
たくさんスタッフが動いてくれる分、自分は施設をより前に進めてスタッフに還元していくこと。

「愛」
とは直接的なものではなく、9割は間接的な行動であることを学びました。

ホテルの現場はほんとうに愛でまわっていると思います。ホテルの器は支配人の愛の器の大きさではないかと考えながらも、自分はまだまだだなとも思うわけです。

蒸溜資材を納品してくださっている方からいただいた茄子とクロモジに喜ぶ支配人と副支配人

さいごに

1年間開業から携わらせていただけて、ホテルの支配人やチームで仕事をすることに、より一層楽しさを見出せるようになりました。

長くなってしまいましたが、そのほかにも書ききれないほど細かな学び(ミスが多いから他の人にもチェックさせる、契約書は2部同じタイミングで印刷しないといけない、納品いただいたカメラマンさんの画像はクロップしてはいけないなどなど・・・笑)がありました。任せていただいている責任範囲が広いからこそ小さな失敗や大きな失敗を経験できていると思います。いつも笠井の面倒を見てくださっている役員の方々、ありがとうございます。これからも転げ回りながら良い施設になるよう進めていきます。

最後に、笠井がかなり自由に動きまわれるようにしてくれていて、かつお願いしたことを文句ひとつ言わず実施しようと頑張ってくださるスタッフ皆様には頭が本当に上がりません。いつもありがとうございます。

告知

10月1日で1周年を迎える香林居は、
9月30日〜10月1日の2日間、1周年イベント「秋霖の夜明け」を開催いたします。
スタッフと愛を込めて開催する香林居初めての大型イベント、ご来館をお待ちしております。