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5.言葉が通じなくても(第6章.旅先で考えた社会の問題)

 海外へ行くと、必ず言葉の壁に突き当たる。それは、我々行く側だけの問題ではない。旅人を受け入れる側も同じ問題に直面する。

 タイの首都バンコクで、私は麺専門食堂に入った。私がこの店を選んだ理由は、まず店が小綺麗だということ。それから店頭に料理の写真を添えた英語メニューがあったからである。英語メニューがあれば、料理の内容も分かるし、スタッフの人ともコミュニケーションが取りやすいと思ったのだ。

 さっそく店に入った。席に着くと、スタッフの女性が写真入りの英語メニューを持ってきてくれた。私はメニューを指差しながら「This one, please(これ、お願いします)」と言って注文した。出てきた料理は醤油ベースのタイの麺。とても美味しく頂いた。

 しかし、注文から支払いまでのスタッフの行動を見ていると、どうやら彼らは英語が苦手のようだった。英語メニューがあるので、私はてっきり英語が堪能なスタッフばかりだと思っていた。

 しかしよく考えてみると、このことは逆ではないかとすぐに考え直した。つまり、英語が苦手なスタッフがいるからこそ、写真付き英語メニューがあるのではないか、と。写真付き英語メニューがあれば、我々外国人は指で指すだけで注文が出来るのだ。レストランのスタッフと外国人客のコミュニケーションは、とりあえず注文して食べて支払いさえ出来れば何の問題も無いのだ。

 そして、商売の観点からも写真付き英語メニューは効果的だ。店先に置いておけば、我々外国人は「この店は英語が通じるのかな」と思って、つい店内に入ってしまう。

 商売としても役に立つ。そしてお互いストレスなくコミュニケーションが取れる。写真付き英語メニューは本当にいいアイデアだ。言葉が通じなくても何とかなる。そう我々に思わせてくれる。

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 さて、言葉が通じなくても…と思わせる体験。私はタイと同じアジア、ベトナムでも経験した。

 ベトナムの首都ハノイ。私はあるホテルに宿泊した。ホテルの外観はフランス統治時代の邸宅を改築したような風情がある。チェックインを済ませ部屋に入った。内装がお洒落でなかなか素敵な部屋だ。実はこのホテル、小ぢんまりしていて家庭的なサービスが受けられると評判だったので、私も奮発してこのホテルを選んでみたのだ。

 暫く部屋でくつろいだ後、ハノイ市内を見て回ろうと部屋を出ようとした。私は部屋の鍵を掛けようとしたが、何故かなかなか鍵が掛からない。おかしいな…やり方が悪いのかな…。そんな私の姿を見かねてか、ちょうど近くを掃除していたスタッフの女性が鍵の掛け方を教えてくれた。フロントのスタッフはもちろん英語はペラペラなのだが、彼女のような客と直接会話する機会の無いスタッフは英語が苦手なのだろう。彼女は一言も喋らずに、ただ笑顔だけで、私の手を引きながら鍵の掛け方を教えてくれたのである。たとえ言葉が通じなくても、彼女の親切な心は十分伝わったのである。

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 言葉の壁。冒頭でも述べたように、海外へ行く旅行者と彼らを受け入れる側にとって、それは大きな問題である。しかし、私が思うに、言葉が通じなくても…言いたい事とやりたい事が伝われば、それでいいのではないか。現地で生活する訳ではないのだ。そして通じないのは旅行者と受け入れる側、どちらもお互い様なのである。

 そしてお互い歩み寄ればいい。バンコクのレストランのように写真付き英語メニューを掲げたり、ハノイのホテルのように笑顔で相手に接すればいい。

 海外へ行かない理由を「言葉の壁」を挙げる人が多い。しかし、本当の理由は「言葉の壁」ではないのではないか、と思う時がある。それより、まずは歩み寄ること。そして笑顔。この二つさえあれば、言葉が通じなくても…何とかなるのだ。

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