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1.パスティスで乾杯!(第9章.旅先で考えた食することの楽しみ③)

 私が初めてパスティスを飲んだのはいつだろう?2回目のフランス訪問の折、つまり1995年12月だろうか…。それとももう少し前か…。

 その頃、日本では空前の南仏ブーム、プロヴァンスブームが続いていた。イギリスの作家ピーター・メイルが書いた「南仏プロヴァンスの12ヶ月」という本が日本でも話題となり、南フランスの生活スタイルなどが注目された。その本の中で取り上げられていたのがパスティスである。私も初めてフランスを訪れたのが1992年だったこともあり、多少フランスかぶれになっていた私はパスティスという酒が気になって仕方がなかった。

 では、パスティスとは何か?それは南フランス発祥のアニス酒である。アニスとはハーブなど香草の一種である。アルコール度数は45%ほどあり色はアイボリーのような感じ。しかし、一般的には水で割って飲むのであるが、加水した瞬間、見る見るうちに白濁するのだ。その色の変化も私自身、面白いと思うのだ。

 初め飲んだ時は薬のように感じた。まあ、原料が香草だから、そう思うのも無理はないだろう。さらに、何故フランス人はこんなものを美味しいと思うのだろう、とさえ思った。要するに、初めは我慢して飲んだのだ。自分は珍しい酒を知ってるんだぜ、と格好つけるために…。

 そして、1995年12月。二度目の渡仏。私はマルセイユの港の前のレストランでパスティスを飲んだ。マルセイユと言えば、まさにパスティスの本場。気候風土というものが味を引き立たせるのかどうか分からないが、何故かとても美味しく感じたのだ。以来、私はパスティスにハマり、機会あるごとにパスティスを飲んでいる。

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マルセイユ(フランス)の港

 さて、実はパスティスに似た酒が他の国にもある。私がトルコのイスタンブールを訪れた時、あるライヴ・レストランでラクという酒を飲んだ。このラクもパスティス同様、香草系のリキュールで、水で割ると白濁する。味もかなり近かった。また、他にもギリシャではウーゾという香草系リキュールがあるという。

 これらの香草系リキュールでアニスを原料としているものの総称をアニゼットという。そして、このアニゼット。どれも地中海沿岸地域が発祥とされている。やはり、同じ地中海沿岸地域。国は違っていても同じ風土、同じ文化圏という共通項があるのかもしれない。そして私自身、あのアニス独特の香りを嗅ぐと、地中海沿岸地域の風景を思い出してしまうのだ。

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ヴィルフランシュ・シュル・メール(フランス)の街角から地中海を望む

 ちなみに、パスティスはアブサンというパスティスの元になった酒がある。アブサンはアルコール度数もパスティスより高く、ニガヨモギも原料として使われていた。このニガヨモギが中毒性の原因で、アブサンは時には幻覚をも引き起こしたという。そんな理由からアブサンは製造禁止となり、その代わりに登場したのがパスティスなのである。

 しかし私にとってパスティスでも十分中毒性があると思う。クセになるのだ。そして、飲むとマルセイユやニースの風景が目に浮かぶのは幻覚か…。たとえ地元のバーで飲んだとしても地中海の風景が目に浮かぶ…まあ、とにかく乾杯でもしよう。

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パスティス


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