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1.謝謝(ありがとう)!台湾!(第10章.旅先で触れた親切〜pay it forward

 台湾では数々の親切に触れることが出来た。私は台北から九份という小さな山沿いの街に向かった。まずは台北から鉄道で40分程掛けて瑞芳という駅で降りた。改札を抜けた所に観光案内所があったので、九份行きのバスは何処から出ているのか聞いてみた。私は九份の中国語読みが分からなかったので、試しに「キューフン」と日本語読みで言ってみた。すると案内係の女性は慣れているみたいで、すぐにバス停を教えてくれた。恐らく日本人観光客がよく来るのかもしれない。

 私は彼女に教えてもらった通りバス停に向かって歩いていると、地元の人と思われる女性が私に向かって「九份(キューフン)?」と聞いてきた。私が頷くと「あのバス。あのバスに乗って」とバスのほうを指差した。地元の人も慣れたものである。しかも私を一発で日本人と見抜いて「キューフン」と日本語読みで教えてくれた。何とも有り難い。私は「謝謝(ありがとう)」と言ってバスに乗り込んだ。

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瑞芳駅(台湾)

 さて、九份からの帰り道。私は往きと同じ道程を辿ろうと、まずはバスで瑞芳へ向かおうとした。しかし、バス停でバスを待っても瑞芳行きのバスはなかなか来ない。ようやく来たと思ったら、何と通り過ぎていくではないか…(実は台湾では目的のバスに乗る時、手を上げて合図しなければ停まってくれないらしい)。

 そしてバスを待つこと40分。再び瑞芳行きのバスが来た。今度はバスに向かって大きく手を振ってみたら停まってくれた。私はホッと胸をなでおろし、バスに乗り込んだ。

 しかし、運賃を払おうとした時(運賃は前払い制)、何と硬貨を一つ落としてしまった。バスの運転手は私が小銭を落としたことに気付き、私一人のためにわざわざバスを停めて探してくれたのだった。しかし結局硬貨は見つからない。まあ、いい、落とした硬貨は諦め、運賃はバスを降りる時に払えばいい。そう思って私は窓の外へ目を移した。

 17:10頃、バスは瑞芳駅に到着した。私は運賃を払おうと運転手に小銭を渡した。しかし彼は「結構です」と受け取ろうとしない。恐らく、私がバスの中で硬貨を落としてしまったから、「あなたはすでに運賃を払っているんですよ」ということなのかもしれない。それにしても硬貨を落としたのは不可抗力とは言え、明らかに私の責任だ。しかも、落とした硬貨が運賃と同じ金額とは限らない。それでも運転手は運賃を受け取らないのだ。

 彼はまだ若いので、乗客から運賃を受け取らなかったことを上司に怒られなりしないだろうか、などと余計な心配をしてしまった。それにしても、びっくりである。硬貨を落とした乗客のためにバスを停めて探してくれて、しかも運賃を受け取らない。もしかしたら、彼のような優しい運転手は上司に怒られるどころか、逆に褒められるのかもしれない。そんなバス会社であって欲しいし、またそのような社会であって欲しい。私は「謝謝(ありがとう)」と言いながら、運転手と握手をしてバスを降りた。

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九份の路地(台湾)

 私が台湾を訪れたのは2012年5月である。この年の前年2011年3月11日、東日本大地震が起きた。地震、津波、そして原発の放射能による甚大な被害が出た。日本中が暗澹たる気分に苛まれている時に、一人ひとりが街頭に立ち、支援を呼びかけてくれたのが他ならぬ台湾の人達だった。私はせっかく台湾に来たのだから、日本人として何とか感謝の念を伝えられないだろうか、と思っていた。

 私が3泊した台北のホテル。チェックアウトの時、私の応対をしてくれたスタッフの女性は、私が日本人だと分かると日本語で応対してくれた。そうだ、日本語が分かる人なら日本語で感謝の言葉が伝えられる。そう思い、私は彼女に、東日本大地震の折に台湾の人々が日本にしてくれたことを話し、「本当にありがとう。日本人は皆んな、台湾のことが大好きです」と伝えた。すると彼女も微笑んで「再見(さようなら)」と言いながら私を見送ってくれた。

 台湾は観光地としての人気が高まっているが、それは距離的な近さだけでなく、人々の心の近さに負うところが大きいのではないかと思う。

 私も日本を訪れる外国人がいたら親切にしてやりたい。それが台湾で受けた親切心に対しての、せめてものお礼になると思うからである。

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台北の食堂
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台湾のお茶でちょっとひと息



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