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あとがき

 今年(2020年)は新型コロナウイルス(covid-19)が世界中で猛威をふるった。海外渡航に制限が掛けられ、旅を純粋に楽しもうとする我々一般の人間は海外への渡航の機会が断たれた。毎年、海外へ行くことを楽しみにしていた私にとっても、この2020年は海外へ行かなかった年として不本意ながら記録されることになった。

 そんな折、私はこの旅のエッセイを書くことにした。旅が出来なかった年だからこそ、今までの旅を振り返るいい機会だと思ったからである。それだけではない。まえがきでも触れたように、私は旅から帰ると必ず紀行文を書いている。旅へ出ないということは、今年は紀行文も書かない年ということになる。何も書かないというのも淋しいものなので、エッセイを書くなら今年しかない、と思ったのである。

 それからもう一つ。このコロナ禍で、「stay home」という掛け声の下、外出自粛の空気が世界中を覆った。イベントも軒並み中心に追いやられ、飲食店等は大きな打撃を受けた。映画館、美術館、ライヴハウスなども営業制限の措置が取られた。それで私も時間を持て余すようになった。要するに、暇になったのだ。だから、まとまったエッセイを書くにはいい機会だったのである。

 以上の理由が重なり、私は2020年、旅のエッセイを書いた。コロナ禍が世の中を覆う嫌な年ではあるが、しかしエッセイを書くには、またとないチャンスでもあったのである。まあ、いつかは旅のエッセイをまとめてみたいと思っていたので、遅かれ早かれ実現したであろうが、コロナ禍が後押ししてくれたのは紛れもない事実だろう。何でもコロナ禍のせいにしてしまうのは、あまりいいことだとは思えないけど、それでも今まで出来なかったことが出来たので、そういった意味でも2020年は特異な年なのだと思う。

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出発を待つ(ハンガリー、ブダペスト東駅)

 すでに触れたが、私が初めて海外へ行ったのが1992年の2月。あれから28年が過ぎ去った。そして渡航経験のある国は25ヶ国である。初めて海外へ行った時はとにかく不安だらけで(情報量も今と比べ格段に少なかった)、まさか自分が25ヶ国も行くような人間になるとは思ってもみなかった。

 今まで旅先で出会った人達は今頃何しているだろう、と思う時がたまにある。ほんの一瞬言葉を交わした人だって、私にとってみれば貴重な出会いだ。あちらは私のことなど忘れてしまっているかもしれないが、私は人生で思い迷った時、旅先での彼らとの出会いを思い浮かべ、生きるヒントにすることもある。

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到着のホーム(ブダペスト東駅にて)

 旅を通して見えてきたもの…それはやはり端的に言えば、いつ自分の立場が逆転するか分からない、ということかもしれない。彼の地では、たまたま自分が旅人であるが、故郷に戻れば自分が旅人をもてなす側になる。そのことだけは忘れずにいたいと思っている。

 そう、恩送り…である。今まで私が旅先で出会った人達がこれからも旅人に対して、そして私も故郷では旅人を迎える側として、優しさの連鎖が広がっていけば、これ以上嬉しいことはない。

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フランス、ニースの紺碧海岸から地中海を望む

追記
このエッセイをnoteでアップし始めたのが2021年。しかし、このエッセイはすでに2020年に書いていた。そのため、「今年2020年」という表現が用いられている。その点はご了承頂きたい。

今までお付き合い頂きまして、ありがとうございました。これにて一旦終了致します。気が向いたら、また何か書けたら、とは思いますが…。

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