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5.近未来でレトロなオランダ(第8章.旅先で考えた食することの楽しみ②)

 オランダの首都アムステルダムから列車で25分程。私はユトレヒトに到着した。この街は美しい運河が流れるオランダ第4の都市である。

 列車を降り、駅構内を歩いていると、びっくりする光景が目に飛び込んできた。一見したところ小さなコインロッカーのように見えるが、それは自動販売機だった。しかも何の自動販売機かと言うと、何とコロッケである!コインロッカーのように扉が沢山あり、1ユーロ硬貨を入れると扉が開く仕組みになっている。そして我々は中に入っている熱々のコロッケを取り出せばいい。ちなみにコロッケが取り出されたケースには、裏から人が新しいコロッケを補充している。まさに自動販売機の中に人が入っているような光景だ。

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ユトレヒトの街並み

 自動販売機は海外ではあまり見掛けない。自動販売機大国はまさに日本である。そんな日本人をも唸らせるコロッケの自動販売機。非常にシュールで近未来的だ。しかし、最終的に人がコロッケを一生懸命補充しているところなど、どこかレトロな印象を受ける。

 では何故、コロッケなのだろう?しかも何故、わざわざ自動販売機でなくてはならないのだろうか?

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運河沿いでの食事

 オランダでは「クロケット(Kroket)」と言って親しまれているコロッケ。もちろん、日本のコロッケの原型である。形は細長い俵型をしている。一説によると、クロケットはもともとフランスから渡ってきたもので、19世紀に現在のような形になったという。そして第二次世界大戦後には大量生産が可能になり、人々の小腹を満たす「おやつ代わり」として定着したのだという。今ではコロッケだけでなく、フライドポテト、チキンスティック、チーズフライなども、おやつとして親しまれ、やはりコロッケ同様自動販売機でも売られている。恐らく、揚げ物好きの国民性が高じて、スナックとしてコロッケ等が広まったというのは極自然な流れなのかもしれない。

 では、何故自動販売機でなくてはならないのか?我々が普段、自動販売機で物を買う時のことを考えてみよう。まずは、対面で買いたくない時、それから店員を煩わせたくない時、また、取るに足らない物を買う時、など自動販売機を使う。恐らく、オランダではコロッケなどのスナック類は取るに足らない物。店員を煩わせてまで買うものではなく、自分で気軽に買って小腹を満たしたい、というニーズの高まりからコロッケの自動販売機が広まったのではないかと推測する。ちなみに、初めてコロッケの自動販売機を始めたのはFEBOというファストフード店だという。このことからもオランダで何故、コロッケの自動販売機が広まったのか頷ける。

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ユトレヒトの運河

 さて、話は変わるが、オランダでは揚げ物の他に庶民の小腹を満たす物がある。ハーリングである。ハーリングとはニシンの塩漬けのことである。生のまま塩漬けのニシンを玉ねぎのみじん切りを乗せて食べる。こちらもおやつに丁度いい。しかし生ものだから、まさか自動販売機で売る訳にはいくまい。それでも、こちらもシュールでレトロな光景が拝めるのだ。人々はハーリングの尻尾を掴んで、口をあんぐり開けて食べるのだから…。

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ハーリング


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