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映画『非常宣言』と新型コロナウイルスの描かれ方

時事問題と表現活動は切っても切れない関係だ。その事象がどれくらいのスピード感で、どのような切り口で表現されるのか。そのような表現は今を生きている自分たちが一番楽しめるコンテンツ。ナマモノで、リアルタイムで追いかることに意味がある。
2020年に新型コロナウイルスが世間で猛威を振い始めて、もう少しで丸3年。今回は映画『非常宣言』と新型コロナウイルスを絡めて書こう。

映画内での新型コロナウイルスの描かれ方について

新型コロナウイルスについて描かれた映画作品は、これまでも何作かある。
仕事が早いと感じたのは2021年5月21日に公開された石井裕也監督作品『茜色に焼かれる』。シングルマザーで子育てしていた主人公が、新型コロナウイルスの影響で経営していたカフェが倒産に追い込まれ、金銭的にも余裕がなくなり風俗店などで働きながらも必死に生活する物語。今作の新型コロナウイルスは、今まで見て見ぬ振りされていた世の中の理不尽な現実を暴き出していくキッカケとして上手く使われている。
新型コロナウイルスをありのまま描いたドキュメンタリー映画もある。2021年10月2日に公開した映画『終わりの見えない闘い 新型コロナウイルス感染症と保健所』だ。名前とおりに2020年初夏から2021年3月までの間、新型コロナウイルスの対応をしてきた保健所を描いた作品だ。未知のウイルスに右往左往する保健所がリアルに描かれていて、私たちの知らない裏側で起こっていた様々な出来事が記録されている。
エンターテイメントに振り切った作品だと、2022年10月7日に公開されたアメリカ映画『ソングバード』は印象的だ。今作は2020年7月のロックダウン下のロサンゼルスで撮影された作品。未知のウイルスが蔓延する中、唯一ウイルスの免疫を持つ主人公が、配達員として街を駆け巡る中で出会った女性と恋に落ちる。新型コロナのせいで画面越しでしか会えないという使われ、今作では恋愛の障害として描かれる。

映画『非常宣言』について

今作『非常宣言』も2020年8月ごろより制作された新型コロナ発生以後の映画だ。テロリストが致死性の高い新型ウイルスを航空機内にばら撒き、その中でサバイブする王道的な飛行機パニックディザスタームービーとなっている。映画『ソングバード』のようにエンターテイメントに振り切ってはいるが、紛れもなく新型コロナウイルスが背景となっているはずだ。
しかし、気軽に楽しめる娯楽大作なので、気負いせずに観てきただきたい。

今作の描写の中で印象深かったのは、感染拡大した飛行機をどう受け入れるかだ。今作ではウイルスは”厄介なもの”として描かれている。韓国の仁川空港を出発し、様々な空港に着陸を試みるも拒否されてしまう。まるで動く時限爆弾のように。
今作は日本に住んでいる人間として、少しは心当たりがあるはずだ。2020年1月に出港し、クラスターが発生したダイヤモンド・プリンセス号と状況が似ている。

ダイヤモンド・プリンセス、公式サイトより引用

その時分、私は他人事として「うわー大変だなぁ」とニュースを右から左へ流し、「自分たちでなんとかして、こっちの世界には持ち込むんじゃねぇよ」と思っていた。どうしたって、結局は国内に入ってきていたのに。
そのときの自分が、今作描かれる市民と重なって仕方がない。

前述したように、今作は王道的なパニックディザスタームービーに仕上がっている。演技力に定評のある名優に、ちょっとツッコミどころのある脚本、絶体絶命の危機に間一髪訪れるドラマティックな展開。何も考えずに楽しめるだろう。
しかし、単なる傍観者ではなく、あの時分に生きていた自分と、劇中の市民を照らし合わせながら観ていただきたい。