寝ても死なない(赤湯 山形座 瀧波)
2019年2月 寺
東北の電車は凍りついている。山形駅から乗り換えたローカル線の最前列を陣取り、列車が線路の上で遊ぶカラスたちを蹴散らして進むのを俺は見ていた。
数時間前、山形駅から中国人でいっぱいのバスとロープウェイを乗り継いで蔵王のスキー場に着いたはいいが、時間がないせいで樹氷も満足に見れずに宿へ向かうことになった。
駅には若い人がたくさんいたのに、赤湯方面の電車には誰も乗っていない。若い人は都会が好きだ。電車がちょうど今カラスを踏み潰したことを車掌は見ていたのだろうか。
赤湯の瀧波という宿、経営が傾きかけている古い旅館だったのをリノベーションして色んな意味で復活させたことで有名らしい。新潟の里山十帖から影響を受けているとも読んだことがある。(行ったことないが、おしゃれな宿)
最寄りの赤湯駅に着く頃には空ももう暗くなりかけていた。駅から歩く途中にため池があり、半分が凍りついていて、もう半分の凍っていない水面で10羽程のカモが泳いでいた。もの珍しくて近づくと、カモたちは池の縁に沿って泳いで追いかけてきた。普段から餌付けされているのか。本当なら凍るくらいの水温なのにカモたちのせいでギリギリ凍らないのだと考えると、夜には全員凍ってしまうんじゃないかと不安な気持ちになった。そうこうしているうちに陽は完全に落ちて、追いかけてくるのが黒い影の塊になったから怖くて立ち去った。
知らせていた時間より少し遅く宿に着いたからか、ロビーに着いてもしばらく案内の人が出てこなかった。しばらくすると、ウェルカムドリンクのずんだシェイクやずんだ餅と共に愛想の良い受付の人が出てきた。土間でモンベルのトレッキングシューズを脱いで、上がった。
泊まった部屋はシンプルかつ質が高くて良かった。古風な蔵のような建物の外見に相反して内装は洗練された北欧×和といった感じだった。源泉掛け流しの露天風呂付きの部屋だ。最高か?(最高だ!)
ここにきて何故か探偵ナイトスクープでガラケーの「撮ったのかよ?!」ってシャッター音がだんだん「エイアイアイ」に聴こえてくるというやつをふと思い出したせいで、露天風呂に入るときに「エイアイアイ!」と掛け声を出すはめになってしまった。
ベランダが中庭の方を向いているんだけど、中庭を挟んで逆側の棟の瓦屋根に雪が積もってる景色が非常にいい。PSソフト「天誅 忍凱旋」の武家屋敷のステージを思い出す。あれと同じくらい静かだ。
まあいいや。エイアイアイ!
ここの宿の夕飯はすごかった。皿の上に、半分に割ったクルミが乗っているみたいなミニマルなところから始まった。その印象が強くて、メインに何が出てきたか思い出せない。
キッチンを囲うカウンター席ではシェフのトークと料理のライブ感を味わえるのが売りとのことだが、この時は一人でそのライブ感を味った時にどういう顔すればいいか想像つかなくて、個室を選んだ。
いざ夕飯時にそのことを後悔しはじめていたらクルミが一粒置かれていたものだから、なおさら侘しく、クラスでハブられてる奴の気持ちになった。
赤湯には一軒、有名なラーメンがある。龍上海という店の辛味噌の入ったラーメンだ。東北らしく、表面に油の蓋がされていて湯気や熱を逃さない。これは後から知ったが、毎日行列の店頭に出向かなくても、宿に配達をしてくれるサービスもあるそうだ。結局その場で食べることは叶わなかったが、数年後に新横浜のらーめん博物館で再会を果たすのだった。
次の日は青森まで北上。つづく。
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