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「デトロイト ビカムヒューマン」で考えるゲームの雰囲気

 テレビゲームで感じる雰囲気について書きます。ここで雰囲気とは「その場所や、そこにいる人たちが自然に作り出している、ある感じ。」(精選版 日本国語大辞典)のことをさします。図書館を訪ねたとします。館内は静かで来館者は皆、読書や勉強をしている。私も図書館にいる間、静かにし厳粛でいるように努めます。もししゃべり声が聞こえてきたら不快に感じるでしょう。図書館には、静寂や読書や勉学を真面目に積極的に評価する雰囲気があり、われわれを圧倒します (1)。
 静けさという点で似ている場所が墓地です。墓地では静寂をよしとするだけでなく、死者への敬意も示すよう努めなければなりません。昼間、墓地に入り自分以外に誰もいないとします。図書館のように生きている他人がいなくても、厳粛な雰囲気が墓地にはあります。図書館の雰囲気と比べると、静寂への評価という点は一致しますが、墓に眠る死者たちへの敬意と恐れという点で異なります (2)。
 この二つの事例から、雰囲気には多種多様なものがあり、感情や気分に関わるものだと言えそうです。雰囲気に出会えるのはなにも「リアル」な場所だけではありません。テレビゲームをプレイしても出会うことがあります。今回はゲームにおける雰囲気について掘り下げたいと思います。
 取り上げるのは2018年にPlayStation4用ゲームとして発売された「デトロイト ビカム ヒューマン」です (3)。
 テレビゲームにおける雰囲気を記述するためにこのゲームのあるシーンについて詳しく書きたいと思います。なお、筆者はこのゲームをプレイしたことがありません。ここからの内容はゲーム実況動画を見て書いたものです。
 ゲームは暴走した家事労働アンドロイドが子供を人質にとり、マンションで警官隊とにらみ合う場面から始まります。プレイヤーが操作するのはコナーという名の、警察用アンドロイドです。リビングに入ると既に武装した警官隊が配置につき、ルーフバルコニーにいるロボットと少女の様子をうかがっています。部屋は薄暗く、いたるところに銃撃戦の痕跡があり、アンドロイドに射殺された警官と少女の父親の遺体が横たわっています。
 コナー(プレイヤー)は隊長から簡単な状況説明を受けた後、部屋を捜索して犯人説得の手がかりを探します。ルーフバルコニーに通じる部屋に入る。と、発砲音とともに警官が一人倒れる。建物上空からは警察ヘリの音が鳴り響く。少女が落としたであろう物には血液が付着しており、人質が負傷した可能性を示唆する。窓のすき間からはアンドロイドが銃を片手に、少女を抱きかかえ立っているのが見える・・・。
 このシーンでは「Hostage」という背景音楽が流れ緊迫感を増幅させます。ここまではシーンの事実的なことがらを述べてきましたが、ここからいよいよ雰囲気を記述します。
 まず警官です。部屋に入ると武装した5~6人の警官がいます。彼ら個々人の動きは熟練していますがそれのみならず、統率のとれた集団行動をなしています。彼ら目的はもちろん少女救出です。この局面にはすでに緊迫した雰囲気があります。まず少女救出を真剣に積極的に評価する雰囲気です。加えて警官隊とコナーは職務として活動しているわけですから、責任重大で困難かつ危険な仕事にありがちな緊張感があります。単に少女を救出するのではなく、職務としてそれを果たさなければならないのです。
 このシーンで緊張感は一定ではなく変化していきます。部屋を捜索していくにつれ、被害者遺体の発見、被弾する警官、警察ヘリの到着といったイベントが起こり、緊張感が増していきます。最後、バルコニーに出たコナーの腕に銃弾が命中するところで頂点を迎えます。
 まとめると、このシーンには張り詰めた雰囲気があり、それも緊張感が程度を増すことで変化していきます。「リアル」な生活においてのみならず、テレビゲームでも雰囲気に出会うことがあるわけです。
 最後に何点か付け加えておきます。まず今回は「デトロイト ビカムヒューマン」を事例にしましたが、他のゲームでも雰囲気に出会えるかもしれません。ですが、雰囲気がテレビゲームの本質かどうかまではわかりません。プレイヤーが雰囲気に出会うことのない、雰囲気を持たないゲームがありうるかもしれないからです。
 プレイヤーがゲームで感じる雰囲気は、実際の生活で感じるものとはもちろん異なります。プレイヤーはゲームを終了させればストレスを引きずることなく、生活に戻れます。ですがもし実際に今回記述したような状況に巡りあえばそうはいかないでしょう。ゲームに比べ日常生活は退屈になりがちです。人は、少しの間でもそこから脱したいがために、日頃味わうことのない感情や気分をゲームをプレイすることで生きたいのかもしれません。


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(1) この記述はレスター・エンブリー「使える現象学」、(p181)を参考にした。
(2) 場所にまつわり、なおかつ静けさを評価する雰囲気には他にも次のようなものがある。病院待合室では静かに行儀よく自分の番を待つことが求められ、子供は別として大人は自づとそうする習慣をもつ。役所や銀行の窓口でも静かに自分の番を待つべしという雰囲気がある。逆に屋外ライブのように一定のマナーに従いながら騒ぐことが良しとされる場所と雰囲気もある。
(3) Wikipediaではこのゲームについて次のような解説がなされている。
 「ゲームジャンルはアクションアドベンチャーゲーム。主人公は3人おり、カーラ、コナー、マーカスそれぞれのキャラクターを操作する。シナリオがプレイヤーの行動、選択によって様々に変化する。時には主要人物が死亡することもあるが、そのままストーリーが進行するのでゲームオーバーの概念がない。また、あるキャラクターの行動が他のキャラクターの主人公に対する好感度やシナリオ、生死にも影響を与えることがあり、ストーリーの分岐は非常に多岐に渡るため、『オープンシナリオアドベンチャー』と銘打たれている。」(デトロイト ビカム ヒューマン - Wikipediaより)


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