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肉袋としての人体、金属の味、ゴムの味。

「レアもののラバービデオが手に入ったんだよ、見てく?」
 男と私の為にコーヒーを入れてたら、背中から煤けた男の声。
「レアものって何よ。」
     カップにコーヒーを注いで居間に持っていく。
(男のマンションにはコーヒーの良い粉がいつも置いてあって、それが彼の部屋の掃除の代価)

 テレビのディスプレィにはやけにコントラストがきつくて粒子の荒い画像がちらついている。
「音が出てないみたいだけど、音量下げて今さら遠慮してるわけ?」
 画面の中では、アメ色のラバースーツで体中をコーティングした女が治療用椅子に大股を広げて座り込み、自分の足首と、椅子から肘掛けの用に飛び出した脚受けを金属のチェーンで固定し始めている。
    こんなシチュエーションなら、次は極太ゴムディルドーかゴム手袋でオナニーと相場は決まっていて、大概、外国の女はこちちらが気恥ずかしくなる程の大声で快楽の声を上げるものだ。

 「これは元から音が入ってないんだよ。」と男が言う。
「海賊版?コピーにコピーを重ねたって感じだね。こんなの見てて楽しい?」

 頭部だけ真っ黒なアナトミカルタイプのラバーマスクを被ったゴム女はどんどん自分の身体にチェーンを巻き付けては南京錠でそれを固定していく。

「ネットじゃこのキャプ画像が流れてんだけど、実物はこれが初めてなんだ、ビオラの古いやつ、向こうでもあんまり無いんじゃないかな。」

 ゴム女はチェーンをビラビラに擦り付けたり、顔に押しつけたり、、、その内に日本で言うと「手拭い猿ぐつわ」みたいな感じで口にくわえて舐め上げ、その金属の味を味わい始める。
    女のラバーマスクの穴から見える唇や目が凄くいやらしい。
    それを見ていて私も少し興奮してくる。

「ラバードリームって最初にタイトルが出るんだけど、たぶんコレ、色んなビデオの継ぎ接ぎコピーじゃないかな、、。」

 男の掠れた声。
    目の前にエロビデオが流れていて、しかもそれは無音だから部屋の静けさや男の声がかえって不思議な感じがした。

 時々、ゴム女のそこだけ唯一ラバーで覆われていないビラビラが映る。
「肉袋の裂け目だ、、ラバーはラップで、、」
  えっ?男がそう言ったのか、空耳か。

・・・・

 マーカス・ニスペル監督の「テキサス・チェーンソー」を見ていたら、何故か、男と一緒に見たそのラバービデオの事を思い出した。
    東洋人はラバーに植物的なイメージを感じるみたいだけれど、、西洋人にすればラバーって血と肉を密封するものなんだろうなと思う。

 「テキサス・・」はトビー・フーパー監督が実話を基に撮り上げた74年の傑作「悪魔のいけにえ」のリメイクだ。
    今度の監督はビデオ・クリップ業界で活躍しただけあって、映像が「抜けた」感じだし、その上、トビー・フーパーの「あの陰惨色」をスタイリッシュに再現している。

 ラバービデオも「悪魔のいけにえ」も基本は同じ「血と肉と痛み」。
    そう根底にあるのは、人間は筋肉・脂肪・骨・内臓・血で構成された「肉袋」だという認識。
    そして金属はそれらを解体する。
    レザーフェイスが被害者達の顔を剥ぎ取り、ミシンで縫い合わせ自分の顔に被るという発想、、、。
    ラバーもその延長上にあるのだろうと思う。

 「気障に言うたら、、ゴム着るんは、生と死の境目を意識する行為なんよ。昔、食べてた頃の魚肉ハム憶えてる?ギチギチやったやろ?あれは死んどるけど、俺等の場合は、肉ではち切れそうなゴムの中には生きた肉や。どこが違うんやろな。俺等の場合はハムとちごて、動いて、熱があって、ひいひい唸ってよがるから、生きとる。まあ時々それも空しいけどな、、。」

 何よ、その言い草。
    あんたはインテリのレザーフェイスか、、、。






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