父の言葉

祖母が意識を失くしたり取り戻したりを繰り返している。もうあまり長くないかもしれない。父がそれを教えてくれた。

「でもなあ、意識がなくても人は耳は聞こえていて、ちゃんと周りが何を話しているかわかっとるんや。医者が言うとった。だから葬式どうしようかとか、遺産どうしようかとか、そういうことを耳元で言うたらダメなんやぞ。お前も気をつけろよ。なあ」と父は僕になにかを諭すように言った。「わかった。気をつけるよ」と思わず口走ったが、それはいずれ来る父との別れの際に「そういうことを聞くと哀しいから、言わんといてくれよな」と伝えたかったのだと気づいた。父を見ると、ニコニコと歯を見せて笑っていた。少しはにかんでいるようにも見えた。

祖母は祖父の再婚相手だ。僕との血縁はない。けれどばあちゃんは自分にとってかけがえのない優しい身内でもある。必ず最後は見送ってあげたいと思う。

こっちに帰ってきて7年近くになる。自分の年齢的なこともあるが、やっぱり田舎にいると死を身近に感じる機会が多くある。死はまた学びでもある気がする。避けては通れないよな。辛いけど、仕方ない。