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[無いものの存在]_36:『義足の発芽』②骨とバナナと義足

制作からしばらく経ってしまったけれど、実は沖縄に行って遺灰入りの芭蕉紙を作ってきた。
芭蕉紙とは、バナナの木の繊維から作られる紙のことで、同じくバナナの木から作られる芭蕉布という布もある。僕のパートナーに紹介してもらって、現在では貴重な技術を持った芭蕉布の専門家の方を紹介してもらい、遺灰入りの芭蕉紙を作ることが決まったのだ。

芭蕉紙作りの旅はまずは遺灰の準備から始まる。
右足の骨の欠片を取り出してすり鉢で細かく砕き、紙に混ざる粗さまですり潰していく。
出来上がった遺灰を持っていざ芭蕉紙作りへ・・・。

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染織工房バナナネシアへ
今回ご協力してくださったのは沖縄県の今帰仁村にある染織工房バナナネシアの福島泰宏さん。
事前の打ち合わせでも「初めてのことだから・・・」と言いながらも、様々な方法を探ってくださり、コーヒーの豆かすを混ぜた紙を作った経験から、その時の豆かすと同じような大きさの粒子にすれば遺灰でも芭蕉紙が作れるのではないかということで、制作していただけることになった。

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まずは紙にするためのバナナの木の繊維を取りに行く。
木の繊維は外側から中心に向かって柔らかくなっているので、その中から紙に適した柔らかさの層のものを抜き出す。
抜き出された繊維は水につけておくと薄いメンマみたいな感じのものになるので、それをさらに細かく刻み、木槌で叩いて水分を抜く。

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バナナの木の繊維を固めるための繋ぎになるものを準備する。
これはハイビスカスの葉っぱむしり、それを水で揉み込むと粘り気のある液体が出来上がる。

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これで下準備は完了となる。
ここから先ほどのバナナの繊維をミキサーでさらに細かくしながら紙漉きの作業に入るのだが、ここでいよいよ事前に砕いた遺灰を投入する。

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自分の体だった物、しかも目には見えない体の内側にあった骨。
今は体から切り離され、焼かれて、砕かれて、バナナの木の繊維と一緒に沖縄でミキサーの中にいる。
まだ骨の形状が残っていた時は自分の体だったという愛着のような感情があったけれど、砕かれ、そしてミキサーの中に注がれると、愛着のようなその感情は徐々に自分の手を離れていく感覚がした。寂しいとか怖いとかではなく、どこか清々しいような諦めがある。本来自分の肉体は自分が生きている間しか存在しないから、自分の体の有限性は自分の意識の消失と同時に無くなってしまう、のだと思う。けれども、今ミキサーに注がれた自分の骨はこれから紙になって、今自分として知覚できる肉体とは別の有限性の道を進み始める。それはもしかしたら本人よりも長くこの世界に存在するかもしれないし、いつか自分が知らないところへ一人歩きしていくかもしれない。
自分の体の限界とは無関係になった自分の体が目の前で姿を変えていく様子は、自分と世界の接点を多層化する魔術のようでもあった。

こうしてハイビスカスから抽出した液体とともにミキサーの中で細切れになった遺灰入りの繊維を型に流し込み、ゆっくりと型を動かして繊維を均等に広げていく。
これで紙漉きの作業も終了となる。

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この後は紙を時間をかけて乾かせば遺灰入りの芭蕉紙の出来上がりだ。
沖縄での制作後、数日して福島さんから完成した芭蕉紙が送られてきた。
遺灰は思ったよりも重く、紙が乾く工程で下に沈み、紙の表面に現れてきてしまったそうだ。だから表面から剥離してしまう遺灰も多かったが、小さく砕かれた遺灰はきちんと繊維と混ざって紙の中に定着している。(写真だと見にくいけれど直接見ると白いつぶつぶが見える)

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これで、遺灰入りの芭蕉紙と藍染が揃った。
次は遺灰から顔料を作る作業と、これらの素材を組み合わせていく工程が待っている。
ゆっくりと成長を続ける「義足の発芽」も、もうすぐ芽を出しそうだ。

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