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[無いものの存在]_43:『義足の発芽』⑤ソケットづくり

気が付けば「義足の発芽」を計画してからもう2年ほどが経ちました。
制作を思いたってから様々な方にアドバイスをもらいにいったのだけど、一番難しかったのが、布と和紙を一枚に組み合わせること。これが非常に難しい作業であることが分かったのはちょうど今から2年前、2021年のことでした。
縫製についてはまた専門家に相談する必要があったので、その頃仕事で出会ったファッションデザイナーの方に、布と遺灰入りの和紙を縫い合わせることができないか相談に行ったのでした。
すると伸縮率の異なる素材を一枚の布として縫い合わせることは非常に難しいということで、いわゆるファッションとか異なる専門家の手を借りた方が良いのではないかということでした。ちょうど僕たちが相談に行った前日に、そのファッションデザイナーの方が特殊な衣装を得意とする舞台の小道具制作を行う方と打ち合わせをされたことを教えてくれました。もしかしたらこの人ならということでご紹介いただいたのが、土屋さんという方でした。

演劇の小道具を作られているという情報を伺いながら、なにかソワソワするものがあり、母親に聞いてみると、なんと僕の父親と仕事をされていた方だったことがわかりました。
しかも僕が文化芸術の道に進むきっかけとなったもののひとつでもある『キレイ〜神様と待ち合わせした女〜』という舞台で父親と仕事をしていた方でした。
小学校3年生で見た芝居。父が亡くなって10年以上。骨肉腫になってから約20年。ファッションデザイナーの方へ相談に行ったのが2日早ければ出会うことがなかった土屋さん。偶然というよりも、奇妙な必然の中でこの義足が出来上がっていく気がして、焦らずそのペースに身を任せようと思うことにしました。


まず、土屋さんの工房に伺って義足の完成図を見せながら、布と和紙でどのように構成できるかを相談します。やはり異素材を縫い合わせることは難しいことと、ソケット制作時の圧や摩擦で和紙が千切れてしまう可能性も考慮し、違うレイアウトを検討しなくてはいけませんでした。
そこで、布と和紙をそれぞれ別の層に分けて樹脂で固めることで、パッチワーク状のレイアウトが実現できるのではないかと提案してもらいました。
最初は義肢装具士に布だけ渡してソケットを作ってもらい、そのソケットに和紙を貼り付けてから土屋さんに樹脂でコーティングしてもらうことで、二層で布と和紙のパッチワークが表現できるのです。

こうしてソケット制作の段取りも決まったところから、これまでのnoteでも書いてきたように、布づくりに長い時間をかけることになっていたのでした。
そして昨年やっと完成した布を義肢装具士に渡して新しいソケットに仕上げてもらったのでした。


そして完成したソケットは・・・なぜか白い!
今回透明なアクリル樹脂を使用したのですが、なぜか藍染をして青かった布は白くなり、遺灰入りの白い顔料を乗せたところは反対に藍色が浮かび上がるという不思議な反応がありました。
事前に布のはぎれを使ってアクリル樹脂で実験をしたのですが、予想外の出来栄えに驚きつつも、その状況を楽しむのが今回の義足づくり。誰もやったことがない加工なので、想定外も当たり前です。


今度はここに遺灰入りの芭蕉紙を張り付けていきます。
当初はパッチワーク状のレイアウトを検討していたのですが、二層になることを活かして布とは違う動きを表現しようということにしました。動物の斑点模様のような、上下に向かう渦のような形で紙を張り付けていきます。このソケットを土屋さんへお渡しして、樹脂でコーティングしてもらいます。
紙の風合いが残ることと、使用感に問題が無いようにというバランスを考慮しながらコーティング加工してもらい、やっとやっとソケットが完成しました。

組み上げた義足を初めて履くところ

誰も作ったことが無いソケット。
決してスムーズにスケジュール管理して出来上がったわけではないので色んな人に迷惑もかけたと思うけど、多くの物事が管理されたり、自分の体ですら健常者、障害者、国籍、性別、様々に定められてしまうことへの抵抗として、この義足は時間をかけて出来上がっていったのだと思います。
こうして記事になっている瞬間だけじゃない時間がこの『義足の発芽』を支えてくれたのでした。

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