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[無いものの存在]_16:踊り出すような義足を

リハビリも1週間が過ぎて、僅かだけれども全身が義足に乗ることに適応し出した感じがある。
特に体重を支えるソケット周辺の筋肉や、腰や腹筋、義足を通じて地面を感じ取る神経が気が付き出したような気がする。

入所中はどんどんパーツ選びを進めている。
29日はまた新しい膝継手を試してみた。
今回付けたのはOttobock社の3R80。短軸のイールディングタイプで、体重を乗せることで膝がじわぁ〜っと曲がるので膝折れ(歩行中に膝がガクッとなって転ぶ)防止になったり、階段やスロープが安心というメリットがある。この辺は以前に履いたMauche Kneeと同様の特徴だ。
それにしてもデカイ。型番の主張の激しさよ。
ゾイドのキャップの付いた関節を思い出す。

3R80は膝の油圧を色々調整出来るので、足の運びの振り出しをスムーズにすることも可能になり、履き心地は最初は悪くなかった。
そしてこれまであまり練習していなかった階段を降りる練習もやってみると、この膝の特徴がよくわかった。確かに膝がじわぁ〜っと曲がるので、一段ずつ降りることも理屈はわかる。
でも、義足で一段ずつ階段を降りるためには義足を置く位置がとても重要になってくるので、その見極めや足の下ろし方の微調整がなかなか難しかった。
イメージは足を着く位置を階段全体から半歩ほど前にする感覚だ。階段のへりに足を着く。

とは言え施設内、特にリハビリのための階段は高さも低く手すりもある。
実際に直面する階段はそんな優しくない。

29日はしばらく3R80を履いていたのだけど、施設周辺の外を歩いて帰って来ると、どうも腰や背中が極度に疲れてしまっていることに気がついた。
原因はこの膝継手。その前に履いていた3R95に比べると格段に重い。
階段やスロープを安心して降りれることは気に入ったのだが、体格の小さい自分にはちょっと重過ぎるため、結局3R95にしようという結論になった。

この3R95はとにかく軽量だし、操作もダイレクトな感覚がめちゃくちゃ気に入っている。以前歩く時のテンポの話を書いたが、歩くときは脳内でHIPHOPが流れている感覚で、踊るように歩くと身体が軽くなってスムーズに歩けるのだ。
音に乗るこは別にHIPHOPに限らないと思うけど、義足に集中し過ぎると動作が慎重になってしまうから、もっと義足に乗ることを楽しむと、踊り出したくなるくらい義足が軽くなってくる。
なんというか、酔拳的な要領とでも言おうか。
そもそも健常者みたいにフツーに歩くってレベルを見た目だけ模倣するとどうしてもぎこちなくなる。そのフツーの歩行は健常者の足で合理的に歩く動作なだけで、義足ならもっと別次元の、踊るような心持ちが大切なのかもしれない。

そうやって軽やかに歩こうという態度が具体的な数値にも現れた。
今日は12分間で10m区間を往復し続けるというテストがあった。なるべく早く、ひたすら歩き続ける。
これは最終的には歩数を目安にするらしく、健常者は800歩。これくらい歩ければ問題なく横断歩道などが渡れるそうだ。
リハビリ開始1週間、僕の記録は700歩だった。
これはかなり早い方らしい。
でも、軽やかにとは言えじんわり汗をかくし、路面状況が変化する屋外ではどこまでいけるか。
仕事では街のリサーチやアーティストとのフィールドワークなどで長い時間歩くこともあるので、長時間の歩行は獲得しなくては。

短い入所期間。チャレンジしたいことがたくさんある。
目標のひとつ、義足で自転車にも挑戦してみた。
12歳で骨肉腫になり人工関節にしてから18年間自転車には乗れていない。
20歳くらいの時に右足のペダルを切って、左足だけで乗ろうとしたけどまともに走れずやめてしまって以来の自転車に跨った。

ソケットの調整なども必要なので両足で漕ぐのはまだ難しいが、自転車に乗る感覚は遠い昔の記憶から蘇る。
びっくりしたのは自転車のペダルに義足をかけるのは地面を蹴るのとは全く違う感覚ということだ。
感覚というか、そもそも感覚がしない。
自転車はどちらかと言えば生身の身体よりも義足に近い存在だろう。だから自転車に乗った瞬間義足の先が延長されるような感じだ。合体感。自分が機械の一部になったみたい。
PTさん達から「自転車が似合う」とお墨付きをもらったので頑張って乗れるように練習しよう。
ロードバイクは前傾姿勢が義足では辛いらしい。マウンテンバイクかなー。誰か僕の自転車組んでくれるビルダーいないかな。

さて、明日31日はいよいよ退所。
詰め込みのリハビリもひとまず一段。
来月からは外来でリハビリを続けながら仮義足を制作する。
踊るように帰宅しよう。

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