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[無いものの存在]_41:『義足の発芽』④骨と大豆が顔料になる

「切断した右足は火葬して渡せるけど、いる?」
手術前のカンファレンス中の主治医の一言からうっかり始まってしまった遺骨を使った義足づくり。

遺灰を染料として活用できないかと染色に詳しいパートナーへの相談したがきっかけで始まったこの義足づくり。結局自分たちでは分からず、彼女がお世話になっていた染色の専門家に連絡をとってくれたのはもう1年以上前のこと。
無茶な相談に親身になってアドバイスをくれたのが染色家の原田ロクゴーさんでした。最初に原田さんに言われたのは「遺灰はこれ以上自然界では分解されないもので、顔料には最適」だということで、去年から遺灰の顔料づくりが始まりました。

パートナーと色々調べながらまずは自分達で実験しようということで、まずは骨を砕き、接着剤の役割を果たす市販のバインダーで伸ばしてお手製の顔料を作ってみた。試しに布に塗ってみると一応塗れるのだが、明らかに布の上にもりもりに顔料が乗っているだけというなんとも不安な仕上がり。
このままだと義足製作の工程で流し込まれる樹脂で全て流されてしまいそうだったので、昨年秋に再度原田さんに相談し、顔料作りと布への着彩のアドバイスをもうために工房へ訪れることになりました。

試しに着彩した顔料を原田さんに見てもらうも、水洗いすると顔料はあっけなく流れ去ってしまった。。。
試作の顔料や、アクリル樹脂を流し込み色の変化を調べた布などを見せながらあれこれ作戦会議。どうして骨を使うのか、どんな模様がいいか、義足づくりのコンセプトについても共有していきました。

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どうしたら布にしっかり顔料が定着するか伺うと、大豆の汁をこした「五汁」を混ぜて顔料をつくり、さらにその布を蒸すと顔料が布に定着するということを教わり、原田さんがすぐに五汁入りの顔料を作ってくれました。

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早速骨を細かく砕く原田さん。

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五汁などを配合した液を作る。

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用意した液と砕いた骨を混ぜて顔料を作り、試しに布に描いてみる。

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それを布用の蒸し器に入れてしばらく蒸すと・・・。

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しっかりと布に定着している!
大豆の成分が蒸されることで布の繊維としっかり結合するらしく、水洗いしても顔料が流れ出さずに布に定着してくれた。

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顔料は骨の砕き具合で色の濃度が変わってくるため、荒さをチェックしながら本番へ向けた準備を進めることになった。

いざ本番、とはいかず
原田さんからのアドバイスを元に、自宅のアトリエで早速作業・・・とはいかず、少し前に書いたように、この義足づくりを含めて、「無いものの存在」と向き合うことに色々な悩みが募っていました。そこで義足づくりについても、一旦ストップしたいとパートナーに伝えることに。
何を描くかもそうだけれども、それよりも自分にとっては「どんな風に描くのか」ということが重要でした。
ただかっこういい図案が生まれれば良いわけではなく、何か、生きていくなかでこの義足が出来上がっていく必然性の流れに身を任せたかったのです。
「描く」という行為がどうも自然になりにくい気もしたのだと思います。
天気の良い日に、ベランダでお茶をしながら、ふと、「あ、今描いたらいいかもな」と思い、筆を手に取るような、流れに身を任せてつくれたらいいなあと。

原田さんのアトリエに伺ってから随分時間が空いてしまったのだけれども、年を越して2022年1月10日、やっと2人で作業を再開したのでした。

まずは絵を描く前日に、五汁を薄く伸ばした水に布をつけて乾かしておきます。

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そして翌日。
骨を砕いて、原田さんから頂いた五汁と混ぜて顔料をつくります。
描く図案は僕が幻肢痛の感覚を思い出したりしながら、数種類のラフスケッチを描き、それをパートナーに渡して、筆で布に図案を描いてもらうという流れにしました。

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布に描くときは伸子という棒で布をピンと張った状態で、さらに電熱線で布を温めながら作業をします。布を温めることで余分な水分を飛ばし、顔料の定着をよくするらしい。
布に描くのをパートナーに任せたのは、普段から布を使って制作していて作業に慣れているからということもあるけれど、自分の手が直接介入しないで出来上がることを楽しみたかったからでした。しょうがないや、と思える心の余白と、それいいじゃん!と声をかけられる距離感が、この義足づくりには合っていると思ったから。

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顔料をしっかりと定着させるために、出来上がった布を蒸さなくてはいけないのですが、染色家が使う専用の蒸し器は高価なのですぐには買えず・・・ホームセンターを物色して、料理用の蒸し器、アルミ板などを買って作った自作の蒸し器を使うことに!

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ちゃんと蒸せた!
蒸し上がった布を水で洗って完成です。

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こうして4種類の布が完成しました。

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このバラバラの布を縫って一枚の布にしないと義足のソケットにつけることができないため、縫製するための布も家の周囲で手に入れた植物で草木染めして、それらの糸を使って手縫いをしていきます。

最後はこんな一枚の布になりました。

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これを義肢装具士に渡して、いよいよ布がソケットになります・・・

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