第五章 天下を守るは難ぎか易きか

貞観十五年(西暦641)太宗が側臣に向かって言った。
「天下を守ることは難しいだろうか、易しいだろうか」
侍中(門下省長官)の魏徴が答えて、「はなはだ難しいです」
と言った。

太宗は、「賢者を任用して、その忠告を聞き入れればよいではないか。どうして難しいと言うのか」と言った。

それに対して、魏徴は次のように答えた。
「古来の帝王を見てみますと、国家存亡の危機にあっては、賢人を任用して、その忠告を受け入れます。ところが、ひとたび世が平安となると、必ず心が緩み怠けるようになり、諫言する者もそういう時には、ついつい恐縮してしまいます。こうして、時とともに国は徐々に衰え、ついには滅亡の危機に至ります。昔の聖人が、国の安泰の時も存亡の危機を思っていたのは、まさにこのためであります。何も心配ない時に警戒するというのは、どうして、難しくないことがありましょうか」


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