海兵隊

組織のモチベーション(9)「独立編成組織の活用 〜海兵隊に学ぶ〜」

 前章でも書きましたように、組織が共同体化すると、その組織は、知らず知らずに硬直化し、本来の目的を達成できなくなってしまいます。それを防ぐ、効果的な方法はあるのでしょうか?
 アメリカ軍に、そのヒントを見ることができます。アメリカ軍は、機能体組織であるべき軍隊が共同体化するのを防ぐために「組織の揺らぎ」をもたらす独立編成組織を設けています。それが海兵隊です。
 海兵隊は、第二次世界大戦序盤で苦戦を強いられたアメリカ軍が、日本軍に打ち勝つことを目的に作った軍隊組織です。陸軍でも海軍でも空軍でもなく、あらゆる機能を備えた小規模ワンセット組織になります。海兵隊には、航空機も戦車も上陸用船艇もあり、あらゆる兵士が二つ以上の専門技能を持つという、組織構造の中では異端と言っても良い存在です。
 第8章にも書きましたが、軍隊は戦争に勝つという外的目的を達成するための機能体組織であるべきなのですが、巨大化していくうちに共同体化してしまう恐れがあります。共同体化すると組織内で内的目的が強まり、秘密主義や忖度が横行することによって、組織が硬直化し、意思決定も遅れます。一方、海兵隊は独立した組織であるため、巨大化した組織のしがらみに影響を受けず、緊急派遣できるようになっています。

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 実際、太平洋戦争のガダルカナル島決戦において、即座に11,000人もの海兵隊員をガダルカナル島に派遣しています。それに対し日本帝国軍は、兵隊を派遣する陸軍と兵隊を輸送する海軍の意思疎通に手間取り、900人しか上陸させられませんでした。そして、アメリカ軍海兵隊が、既に空港を中心に、広範囲な防備を整えていることを把握できず、無謀に空港を攻め落とそうとして、あっという間に殲滅させられてしまいます。
 企業においても、このような小規模ワンセット組織が組まれることがあります。既存組織が共同体化して、トップの指示が伝わりにくくなっている中、特別な目的を達成するために、各部署からの選抜メンバーによって組まれるタスクフォースがこれにあたります。
 タスクフォースは、目的が明確であればあるほど、機能体組織として機能します。また、既存組織の通常任務とは異なる特殊任務である方が、既存組織とも機能が切り分けられ、協力を得られやすい関係が築けます。
 さらに、特殊任務を継続的に行うことになった場合、独立性を維持するために、組織ごと別法人にスピンオフすることも、脱共同体化の方策だと思います。
 トップ直轄によるタスクフォースやスピンオフ起業による独立化は、共同体の影響を受けない機能体組織を作る近道です。しかし、海兵隊のような小規模ワンセット組織であっても、時間が経つうちに共同体化し、内的目的が強くなってしまうことがあるようです。そこで米国軍では、海兵隊は定期的に一から作り直すことをあらかじめ決めておき、強制的に解散、再結成をすることで、組織に常に「揺らぎ」をもたらし、共同体化を防いているそうです。
 せっかくタスクフォースとして、独立した組織を作ったのに、その独立組織が長期間維持されることで共同体化が始まり、いつのまにか選抜メンバーの居心地が優先され、なんのための組織だったか分からなくなってしまうことは、ないでしょうか? 常に新陳代謝が必要なようです。

13. 組織の意思決定サイクル 〜D-OODAが機能体を進化させる〜 

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 米海兵隊は、上意下達が徹底した、純粋な機能体組織であるかのように書いてきましたが、目的達成のための組織ではありますが、旧来の機能体組織とは異なる特徴を持っているようです。
 それは、意思決定において、OODAというメソッドを採用している点です。OODAは、米空軍のジョン・ボイド氏が提唱したもので、予測不能な環境における機動戦に勝利するための意思決定メソッドです。OODAは、意思決定メソッドとして広く知られているPDCAと比較して語られるメソッドです。
 PDCAは、Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)のサイクルを回すのに対して、OODAは、Observe(観察)、Orient(情勢判断、方向付け)、Decide(決心)、Act(実行)というサイクルを回します。
 PDCAとOODAとは何が違うかと言うと、PDCAは、中央集権組織を前提としており、マネジメント側が計画と評価を行い、現場が実行と改善を行う命令統制型のサイクルです。
それに対して、OODAは、自律分散組織の実現を前提としており、権限移譲された個人が、観察、情勢判断、決心、実行を臨機応変に行うサイクルです。高速PDCAループに対して、光速OODAループと呼ばれるほど、スピードを優先したメソッドです。米海兵隊のように、個人がマルチな技能を持って、一人で課題解決できる能力を持っているのであれば、いちいち本部にお伺いを立てるのではなく、OODAを採用した方がスピード勝負の戦いに勝利できると言う考え方です。

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 しかし、完全に個人主義にしてしまうと、バラバラなOrient(情勢判断、方向付け)によって、組織として機能しなくなる可能性があるため、最初にマネジメント側からのDesign(デザイン)を加えた、D-OODAという第3の意思決定メソッドが語られています。Designの訳し方が非常に難しいのですが、あえていうと、“大まかな計画”または“指針”といったところではないかと思います。
 PDCAのPlan(計画)は、KPIを設定して、具体的なDo(実行)とCheck(評価)方法までを決めます。それに対して、D-OODAの最初のDesign(デザイン)は、組織のビジョン、指針、目標を示して、全員のObserve(観察)によるOrient(情勢判断、方向付け)に一貫性を持たせるものだと思います。
 日本の経営では未だに計画設定を重視したPDCA型のマネジメントが主流ですが、欧米の経営ではビジネス・デザインを重視したD-OODA型に移行しつつあります。例えば、Starbucksには、顧客対応マニュアルと言われているものはなく、サービスの基本Design(デザイン)として、「Starbucksはコーヒービジネスではなく、人を大切にするピープルビジネスである」という指針を現場に浸透させることによって、現場判断での対応を是としています。そこから、コーヒーをこぼしてしまったお客様に、店員の判断でお代わりのコーヒーを差し上げるようなサービスが生まれたと言われています。またGoogleは、「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」という、現場にも浸透しやすい企業ミッションを掲げて、目的達成型の組織を作り上げています。Amazonの「地球上で最もお客様を大事にする会社」も現場でOODAサイクルを回す中での指針がDesignされています。
このように、機能体組織も目的達成のためには中央集権型にするよりは、D-OODAサイクルによる自律分散型の組織作りを目指す会社が大きく成長しているように見えます。
これは、組織を構成する個人のモチベーションが、目的達成のための、より大きな要因になってきているからだと思います。
 さて、直轄部隊のような付属的で局所的な対応ではなく、本体組織全体を変えることはできないのでしょうか? つまり、低成長時代に、ますます内的目的に向かいがちな共同体組織の硬直化を打ち破り、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら、外的目的を達成できる組織に成長させることは可能でしょうか?
 ミッション「共同体化し、硬直化した組織を外的目的意識で活性化する」
 我々Queのメンバー全員が関与し、このミッションをクリアすべく2013年から社内改革を実施し成果が現れて来た企業があります。熊本の鶴屋百貨店です。次回は、この鶴屋百貨店の事例をもとに、共同体組織の殻を打ち破る方法を考察したいと思います。


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株式会社Que取締役。