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音楽で紐とくにほん 長唄勧進帳(完結編)

7月のプログラムは「筝曲 六段の調」と「長唄 勧進帳」でした。

このシリーズでは、茶琴神明(ちゃごとしんめい)の店主であり、長唄の師匠でもある杵屋彌十代(きねややそよ)先生自ら、筝も弾き、三味線も弾き、音楽解説まで行っています。

八橋検校が江戸で出会った筑紫筝は、源平合戦で破れた平家が筑紫地方で弾いていたものだそうです。筝の音色は落ち着きをもたらし、長唄の三味線は活気をもたらす。彌十代先生は、地唄箏曲と長唄三味線の関係を「まるで陰陽のよう」と語ります。地唄と長唄を両方聴くことができるのも、茶琴神明ならではの趣向なのです。

今日のお菓子は、京都の「八ツ橋」と会津の「五郎兵衛飴」です。それぞれ邦楽に由縁がある銘菓です。五郎兵衛飴は、義経、弁慶一行が会津に立ち寄り、お品代を借りた証文まで残っているとのことです。時は、鎌倉時代から800年も続く老舗です。お砂糖使わずもち米と麦芽を糖化したもので、素朴に美味しいのです。

さて、開演です。彌十代先生が、八ツ橋検校のお話しから、箏曲「六段の調」を弾きます。よく知られている曲だと思いますが、筝のさまざまな音色が繊細に交じりあっています。絹糸を右手の爪ではじいて、左手で微妙な音程を変えながら、旋律が進んでいきます。私にとって筝は高嶺の花でしたが、こうやって間近で聞く機会を重ねると、次第に親しみが湧いてきます。

そして、勧進帳です。前半のおさらいをしながら、後半は、弁慶の男泣き、杯を酌み交わし、そしてクライマックスは、弁慶の舞で華やかに、次の旅路へと足早に去ります。

家元の彌十郎先生が解説してくださいましたが、長唄勧進帳のことを「ナミカン」と呼ぶのだそうです。歌舞伎 勧進帳のいいとこどりのダイジェスト判です。唄と三味線の丁々発止、唄の節回しも三味線の合いの手も、呼吸がピタリと合っています。どの節も聞き応えがあり、カッコいいのです。

このライブの合間に、彌十郎先生が国立劇場で勧進帳を演奏されたCD を販売していました。丁寧に解説されたテキストも頂いたので、家に帰って復習もできます。ありがたいことです。

長唄は聞き慣れないので、なかなか唄や旋律が聞き取れませんでしたが、次第に所々でハッキリと音が見えてくるようになります。もしかしたら、子どもが言葉を覚えるような感覚なのかもしれない、と思うと面白いです。

国立劇場で一流の方々と演奏されている彌十郎先生を佐倉までお招きして頂くだけでも大変なことですが、さらにシロウトの私たちに分かりやすく解説入りで教えて頂く機会を作って頂いたのは、ひとえに「もっと日本の音楽を日本人に知ってほしい」という彌十代先生の熱意の表れだと思います。

ありがたいことづくしのとても素晴らしい演奏会でした。次回は秋に予定しているそうです。今から楽しみです。

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