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【お題SS】あなたに追いつけない


過去にTwitterに載せたお題SSを微修正したものです。テキストの最後に裏話のような補足を書いていますので、よろしければぜひ。

以下のお題メーカーをお借りしています。

秋野桜さんには「今日も空が青い」で始まり、「私はまだ子供だ」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば7ツイート(980字)以内でお願いします。
#書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/801664


 今日も空が青い。晴太くんがこの町に帰って来る日はいつもそうだ。
 まるで、彼の帰省をこの町が喜んでいるかのように。あるいは祝福しているかのように。彼が生まれ育ったこの田舎町を囲う山並みの緑をはっきりと見渡せるほどに、いつだって鮮やかな夏空が清々しく広がっている。

 そういえばいつだったか「俺、晴れ男なんだよ」って晴太くんは自慢気に言っていた。今日の空のように憎たらしいほど眩しい笑顔を携えながら。
 晴太くんと過ごした日々を思い返すと、ピカピカの青空が必ず浮かんでくる。でも一緒に湧いてくるのは、晴れ空に相応しくない感情ばかりだから嫌になってしまう。

「雨音、久しぶり!」

 普段はお年寄りと学生ぐらいしか利用しない田舎の駅でも、夏休みのお盆シーズンはさすがに帰省客などで賑わいをみせる。それなりに人が行き交っている中、晴太くんは私の姿を見つけて駆け寄ってきた。

「……久しぶり。晴太くん、相変わらず夏は焦げてるね」

 晴太くんが電車から降りてきた瞬間からすぐに姿を見つけていたけど、ついさっき存在に気付いた体を装う。加速を始めていた鼓動は、晴太くんと間近で向き合っているうちに最速になったみたいで苦しい。

「雨音はずっと真っ白で綺麗な肌してんなぁ」

 さらりとそんなことを言いながら、手の甲で私の頬に触れてきた。懐かしい温もりに突然触れられて、つい感極まりそうになる。
 そんな私の心情にきっと晴太くんは気付いてしまったのだろう。眉尻を下げて、困惑と寂しさを織り混ぜたような、何も言えないと訴えてくるような複雑な表情になった。すぐさま離れていった温もりが、以前の私達ではないことを現実として伝えてくる。

「……行こっか。母さんとお義父さんは家で待ってくれてるんだろ」

 ボストンバッグの肩掛けベルトをぎゅっと握って晴太くんは駅舎を出ようとする。彼がこっちを見ていないのを分かっていながら、私は自身の足元に視線を落として頷いた。

 右足首。三年前、晴太くんが家を出る日にそこに青色のミサンガを巻いた。

 自分のそれから辿るように前を歩く晴太くんの右足首を見る。同じ色のミサンガが巻かれたままで、嬉しさと切なさが同時に込み上げてきた。

 ねえ、晴太くんはそれに何を願ったのかな。
 私と一緒ならいいのにと性懲りもなく期待する自分がひどくちっぽけに感じた。

 三年前からずっと。私はまだ子供だ。



▼裏話

お題メーカーを小説を使って書いたのはこれが初めてでした。
決まっている一文から書き始めるのは難しいなぁと思っていたけど、ふと、晴れ空みたいな笑顔を浮かべる男の子が脳裏に浮かんできました。それが晴太(はるた)です。そしてそんな晴太のことを切なそうに見つめる女の子が近くにいました。それが雨音(あまね)です。

そんな二人が生まれてからは、結構するすると物語が私の中で出来上がっていったような気がします。思いの外私の中で晴太と雨音の物語が広がっているのですが、SSにしたのは、かつて想い合っていた二人だけど、晴太が実家を出たことで三年間離れていたのちに再会したところです。(ややこしい)

ぶっちゃけると、二人は義兄弟です。晴太の「母さんとお義父さん」という両親の呼称でそれとなく示したつもりだけど、まあ私の自己満足設定なので、ここは気付いても気付かなくてもストーリー的にも問題はないです。ちなみにこの呼称、Twitterに載せたときは「母さんとお父さん」だったので、余計分かりにくかったかも。

それよりも、晴太が雨音に触れたときの互いの反応や終盤にかけての雨音のモノローグから、この二人は過去に何かあったけど今はぎくしゃくしてるんだなってことを察してもらえたら、作者の私は喜びます。

ちなみに晴太のミサンガは雨音が、雨音のミサンガは晴太が、三年前に互いの右足首に巻いています。ここが作者の脳内で一番切ないシーンとして存在しているけど、SSなのでそこまで回想する余裕はなかった……。

離れる前の二人とか、再会するまでの空白期間とか、再会後のこれからとか、一度私の中で二人の物語が始まってからのエピソードにはきりがないです。おかしいな、SSのために生み出した二人だったのに。(苦笑)

いつか中編ぐらいで書きたい二人だなぁとは思っているけど、いざ書き始めたらごちゃごちゃしそうで、やっぱり二人にはこのSSのままでいてほしいような、作者としては複雑な心境です。


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