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セブンイレブン×荻窪トマト スパイスの香りはじけるビーフカレー

荻窪のトマト。カレー好きなら誰もが知る名店と言えるでしょう。
長年食べログのカレー部門全国1位を取り続けているお店であり、ミシュランビブグルマンも何年も獲得している超有名店です。
しかしその値段の高さ(実はむしろ安すぎるくらいなのですが詳しくは後程)と行列の並び時間の長さから、名前は知っているけど食べたことがないという人も少なからずいるお店かと思います。
そんなトマトが、なんとセブンイレブンのカレーを監修したと聞いて衝撃が走りました。
トマトのシェフの小美濃さんはとにかく実直で職人肌な方なので、トマトの味は他では絶対に出せないということからこのような商品の監修を一切してこなかったのです。もちろん引く手数多だったわけですが全て断ってきたわけです。
しかし、最近のセブンイレブンと言えば魯珈をはじめカレーの名店の監修商品を多数手がけ、しかもそのクオリティが相当高く、コンビニカレー界の圧倒的王者と言える存在。
言ってみれば王者と王者のコラボです。
しかし僕はそれほどの期待はしていませんでした。というと語弊があるかもしれませんが、とても楽しみにはしていながらも、トマトのカレーが美味しすぎて凄すぎて唯一無二すぎて、似せることすら難しいと思っていたので、そういう意味で期待はしていなかったのです。
何しろトマトは、毎日カレーを食べ続けて17年、生涯2万食以上、世界各国6500店舗以上でカレーを食べてきた(以上全て2023年2月現在)僕が、宇宙で一番好きなお店なのですから。

前置きが大分長くなってしまいましたが食べてみた感想を書きましょう。

蓋を開けてどれだけ香りがするかなと楽しみにしていたのですが、それに関してはそれほどでもありませんでした。
しかし一口目からコリアンダーシードが弾け、これに関してはかなりトマト的。フルーティーさと狙いすましたほのかな苦味もあり、これもトマト的。
ですが、トマトの一番の特徴はそのスパイス使いなのです。
そしてこの部分がコンビニカレーで再現するのが一番難しいところです。

結果、トマトの再現率という意味では2割くらいかなと感じました。
と同時に、2割も再現できているというのは凄いとも思ったのです。

値段で考えてみましょう。
トマトのビーフカレーは2700円。
セブンのこのカレーは810円です。
2700円の2割となると540円。
トマトまで行く交通費、あるいは並ぶ時間を考えるなら、810円という価格も納得できるものだと思います。
コンビニカレーとしては高いですが、その分の美味しさは十分に感じられました。
しかし、先述したようにあくまで狙いあってのほのかな苦味があるので、苦いものが美味しさにつながる意味が理解できない方にはおすすめできません。

そして、2割とは言いましたが、ならばトマトのカレーはこの5倍美味しいのかというと、それも違います。
5倍どころではないのです。何十倍も何百倍も美味しいと僕は思います。

ですから期待しすぎず、2割程度なんだなと思って楽しんでみてもらえればと思います。
そしてこれが気に入った方は、是非とも並んでトマトのカレーを食べてください。上位互換という言葉ではまるで足りない別次元の美味しさですから。

トマトで食べるにはどれくらい並ぶかと言うと、ちょうど昨日トマトで食べてきたのですが、平日の朝10時から並び出してお店に入れたのが12時。注文してからカレーが出て来て食べ始めたのが12時45分でした。つまり、3時間弱かかります。土日は並びのスタートが早まるのでさらに時間がかかりますし10時では間に合わない可能性もあるくらいです。しかも値段がそれなりにします。ですが、それでも行くべきお店なのです。
と言うわけでトマトについての詳細はさらに下にまとめます。
コンビニカレーについて知りたかった方についてはここで終わっていただいて構いませんが、トマトについて知りたい方はもう少しお付き合いください。

トマトは欧風カレーのお店と言われており、実際にお店にもヨーロピアンカレーと書いてあるのですが、所謂欧風カレーとは似て非なるものです。
フレンチの技法を使ってグラスドビアンを使用しているのでヨーロピアンとは言えるのですが、その手間暇のかけ方がとにかく尋常ではありません。

料理を商売として考える際、その工程がいかに効率的であるかも重要です。
例えば2時間で80点の料理を作れる人が、10倍の20時間かけたなら100点にできるとしても、まずそれはしません。何故なら10倍の価格は取れないからです。
客側の考え方としても、2時間で作った美味しいカレーが1000円であれば食べたいと思う人は多いでしょう。それがシェフ的には80点でも食べ手からすると100点と感じることも少なからずありますし。
しかし、同じシェフが20時間かけて作ったカレーを10000円で出すと言うと、食べたいと思う方は確実に少数派でしょう。
僕自身は10000円出してでも食べたいと思う側ですが、少数派相手では商売になりません。

話が少しそれてしまいましたが、トマトの凄みはそこなのです。
しかも20時間どころではありません。全ての工程を考えるなら100時間は余裕で超えていると思われます。
ただ煮込んでほっておく時間を含むわけではなく、火をかけて混ぜて火をかけて混ぜてというのを繰り返すのです。ですからほっておくわけではなく、ずっと向き合っているのです。
トマトの関係者から聞いたことがあるのですが、定休日はあっても休みの日にも仕込みをしているので事実上休日は無いそうです。そうしないと作れないカレーなのです。

それだけの時間をかけ、しかも使う食材も素晴らしいものばかり。
飲食店には原価率という考え方もあり、通常は30%くらいに抑えないと商売にならないと言われています。
原価率とはその商品を作ったのにかかった金額が、売値の何割かということです。

スパイスを多用するカレーに関しては原価率が非常に高く、4割を超えているお店も少なからずあります。そういう意味でも本来カレーはもっと金額が高くあってしかるべき料理だとも思っているのですが、トマトのカレーに関してはその原価率も異常なのです。
あくまで僕の予想に過ぎないのですが、原価率70%以上いってるのでは無いかと思います。
つまり、トマトで2700円で出しているカレーは、他のお店で出すとすると6000円くらいにしないと商売にならないというわけです。それが2700円で食べられるなんて奇跡ですよ。そういう意味で実は安すぎるくらいに安いということなのです。

特に僕が大好きなビーフタンカレー季節の野菜入りなんて狂気のレベルです。

どうですかこれ。
めちゃめちゃでかい高級牛タンがドーンと2枚も入っているんです。フレンチのお店でこのレベルの牛タンを食べるなら、牛タンだけでも5000円以上は取るだろうなと思われるものが、カレーとご飯と野菜もついて4100円と、逆に安くなるという狂気。
しかもこの野菜がまた凄いんですよ。季節によって変わる10種類以上の野菜が入るのですが、物によって焼いたり蒸したり煮たり揚げたり生のままだったりと、一番カレーに合うように仕込みを変えているのです。
つまりは炊き合わせのような料理であり、この野菜トッピングが700円でできるのも凄いこと。何しろ季節によっては松茸やシャインマスカットなどの高級食材が惜しげもなく入っているのですから。

そんなことを考えるとこれだけの人気店であり、有名店でありながら、そこまで儲かっていないお店だとも感じています。
本当ならもっと儲けてしかるべきなのですが、これもお人柄でしょう。ご自分が納得できるカレーを作って提供することができれば贅沢する気はなく、暮らしていければ良いという考えでこの狂気の価格で営業しているのだと思います。
人気カレー店のシェフとなると頑固な職人的な方を思い浮かべるかもしれませんが、小美濃さんご夫妻はお二人とも本当に優しく上品で柔和な方。それでいて料理に対しては一切妥協せず、頑なに己のスタイルを貫いているという方であり、神様のようなお二人だといつも感じています。
だからこそ後継者がいないという問題もあるのですが、それについては仕方ありません。
むしろトマトが営業している時代に生まれることができて良かったと、それを喜ぶしか無いのです。

話をコンビニカレーに戻します。
そんなトマトが監修したカレーですから、一食の価値は十分にあります。
ただあくまでこれは本物とは違うということを念頭においてください。
例えるなら本人公認のものまね芸人的なものです。
いくら似てるからと言ってものまね芸人を本人のように思うことはないですよね。
似てるねぇ、凄いねぇ、上手だねぇという楽しみ方ですよね。
そのくらいに思っていれば、セブンのトマトもきっと楽しめると思いますよ。

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