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地方民が考える東京の誤解

僕は東京出身です。生まれた時から30代に突入するまで、東京都中央区に住んでいました。祖父の代からの東京ですが、地元には江戸弁を操るおいちゃんおばちゃんが結構いて、そんな中で育ったのでまぁほぼ江戸っ子みたいなものです。

大人になってから地方の方から「東京の人は冷たい」という言葉をよく聞くようになったのですが、「てやんでえ! べらんめえ!」と思ったものです。

ちなみに「てやんでえ」とは「何言ってやがるんだい」の「てやがるんだい」が江戸的に訛ったものであり、「べらんめえ」とは「べらぼうめ」が江戸的に訛ったものです。べらぼうめのべらぼうについては諸説ありますが、とりあえず蔑む言葉ではあります。と言いつつ、蔑む気持ちも江戸っ子には無いのです。挨拶みたいなものなのです。

江戸っ子は口は悪いが心は優しい。「男はつらいよ」の寅さんを思い浮かべてください。あれこそ江戸っ子の代表的な姿です。

話がずれてきてしまいましたが「東京の人は冷たい」という言葉に対して江戸っ子の僕が思うのはそれは間違いで、江戸っ子、いわば土着の東京人は口は悪いが心は優しく、冷たいの真逆で世話焼きが多いんだということ。寅さんなんてまさにそうでしょう?

しかし東京に住んでいる人や東京のお店の人には冷たいと感じる人が少なく無いのもまた事実。ただ、これは地方から東京へ出てきた人が多いエリアで言えることであり、元々東京で生まれ育った人が多いエリアでは、そんなことはないのです。


地方の方の思う東京と言えば渋谷が代表としてあげられるでしょう。

あのスクランブル交差点。都会の象徴です。

しかし、渋谷ってのがそもそも土着の東京民にとっては東京らしからぬ場所なんです。僕の地元のおいちゃんおばちゃんの中には「なんでオメェあんな渋谷みてえなとこ有り難がる奴が多いんでぇ? あんなのァただの谷だぜ?」と、語っていた人がいました。古くからの東京と言ったら、神田、日本橋、銀座、浅草、上野あたり。つまりは全て元々江戸城があった皇居の東側であり、東京23区の東部に集中しているんです。それ以外は戦後に発展した街ばかり。つまり、東京23区の西側は、昔ながらの東京ではなく、新しい東京なのです。

地方から東京へ出てくる人は、少なからず都会で一旗揚げようと考え、何某かの夢や野望を持っている人が多いでしょう。だからこそそんな人にとって東京にいる他の人はある意味ライバルであり、敵とも言えるわけで、負けてはならないから冷たくなるのでしょう。

しかし土着の東京民にとってはご近所さんは仲良くすべきものですから、僕の地元のお店は優しく人懐っこい接客がほとんどでした。例えば僕が小さい頃によく買いに行った地元のソウルフードのレバフライ屋のおいちゃんはぶっきらぼうな人でしたが、僕がレバフライ大好きな上に家族分を買うのでかなりの枚数になるんです。それを見て「おう、坊主。お前さんとこはそんなに大家族なのかい? 何人で食うんだい?」と。「ぼくが10枚食べます」と返すと「そうか。レバフライそんな好きか。じゃぁちょいとおまけをやろう。腹一杯食えよ!」と、2〜3枚サービスしてくれたりしたものです。


お店に限らず、住んでいる人の気風もやはり東と西では相当違います。

地方の方が東京に出てきて住みたいと思う街の代表的な所に世田谷区があげられると思うのですが、そこも地元のおいちゃんおばちゃんに言わせりゃ「あんなん東京じゃねぇや。畑だらけの田舎だろ。」ということになります。

もちろん今では畑だらけなんてことはないのですが、それでも実際に畑は今も少なからず世田谷にあるんですよね。


僕自身、渋谷の飲食店に行くと接客が良くないなと思うことが少なからずありますし、世田谷で道を聞いたりすると酷い対応をされたりしたことが何度かありました。そういうところが東京の人は冷たいというイメージに繋がるのでしょうが、土着の東京民として言わせてください。

んなこたねぇから! 口は悪ィけど心はあったけェ世話焼きが多いから! 一回東京のシガシに来てみろって。シガシ側でしばらく暮らしてみろって。そうしねぇと本当の東京はわかんねぇから!

実際僕の友人の地方から上京してきて、最初西側に住んでいたものの途中から東側へ引っ越した人達は、異口同音に「東京は東側の方が圧倒的に居心地が良い。人が優しい。なんでもっと早くこっちに来なかったんだろう。」と語ります。そうでしょうそうでしょう。実際そうなんですから。


東京の人間からしても、東京の西側の多くの店や人は「いけすかねぇししゃらくせぇ」わけです。もちろん例外はありますよ。渋谷でも世田谷でも、土着の渋谷民や世田谷民はまた全然違う印象です。東京に限らず、土着じゃないからこそ冷たくなってしまうのでしょう。そしてまた、地方から上京してきた人の中にも暖かい心を持った人は少なからずいるわけです。さらに言えば土着の東京民にだって悪い奴は当然います。全てではなく、そういう傾向にある、という話です。

そんなこんな含めて都会の良さは色んな人がいるということ。様々な例外を許容しながら生きていく。本当の多様性を感じ、実行できること。田舎だとそれこそ村社会ですからそうはいかないでしょう。


僕は東京にしか住んだことがないので田舎がありません。ですから田舎に行くと落ち着くということもなく、東京が一番落ち着くのです。海外旅行もリゾート地よりも街中に紛れるのが好きで、そんな場所を選びます。死ぬまで東京に住み続けるでしょう。そして東京に対して誤解をしている人がいたら、そうじゃねぇんだよと説明していきたいと思っています。


写真は渋谷のとあるカフェ。最近渋谷に行くことが多いんですが、渋谷の飲食店って美味しいや居心地良いが一番大事ではなく、おしゃれを一番大事と考えているよなぁと残念に思うことが多く、それをきっかけにこの文章を書いた次第でした。

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