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ブルーロックに学ぶ、連載漫画のルールハック

※このnoteはブルーロックのネタバレをほぼ含みません

エンタメの面白さは、完全にクリエイターの実力で決まる。そう思うでしょうか?

もちろん、クリエイターの実力が重要なのは言うまでもありません。でも実はそれと同時に、ビジネスモデルが決定的な役割を果たしています。

あるエンタメジャンルの面白さは、実はビジネスモデルが定義しています。

例として、「連載漫画」と「映画/ドラマ/小説」の根本的なビジネスモデルの違いを見ていきます。

連載漫画は、あらかじめ物語の尺を決めることが出来ず、人気ならずっと続き、不人気なら即終了というルールで行われているビジネスです。

映画/ドラマ/小説は、制作時点で物語の尺が決定されている(ことが多い)ルールのビジネスです。

そして、漫画は「キャラクター」、もしくは「フォーマット」からストーリーを作る方が自在な尺を取れて有利であり、映画/ドラマ/小説は、尺の終わりを設計してから入れるので「展開」からストーリーを作ることができる特徴があります。

例を見てみます。

展開軸の例: 「君の名は。」
→2時間の間にとんでもない量の展開が詰め込まれていて、面白い。しかし物語の種明かしがあった後はストーリーを作れない。

キャラクター軸の例: 「ドラゴンボール」
→孫悟空というキャラが軸なので、次々と新しい敵が現れる無限のストーリーを作れる。

フォーマット軸の例: 「ドラえもん」
→のび太くんが泣きついて、ドラえもんがひみつ道具を使うが、トラブルが起きてドタバタコメディ化するというフォーマットで無限のストーリーを作れる。

なお、キャラ軸とフォーマット軸はかなり近く、車輪の両端なので、大抵の漫画は両軸存在します。

キャラクター軸とフォーマット軸の弱点は、目標の達成と主要キャラクターの退場という最もドラマチックな展開を作りにくいことにあります。

目標を達成したり、キャラが消えたり死んだりすると、ストーリーを続けられなくなってしまうためです。

ドラえもんが未来に帰るのは最終回だけなのです。


展開軸とキャラクター軸を、一つの作品で器用に使い分ける例もあります。

最近のヒット作、ブルーロックは展開重視→キャラ重視に切り替えたヒット例だと思います。

ブルーロックは、スポーツ漫画にデスゲーム要素をミックスすることで新鮮なストーリーを生んだ話題作です。

スポーツものはバトルものと比較して、次のような制約条件が出てしまうケースが多くあります。

  • 味方が敵になったり、敵が味方になったりするアツい展開が起こせない

  • 試合の参加人数が多く、キャラへの焦点が分散しやすい

  • 負け試合を描きにくい(特に部活もの。大会自体から退場してしまうため)

ブルーロックは「敗退すると今後二度と代表になれない」「ゲームルールは11vs11の試合とは限らず、ゲームマスターが指定する」というデスゲーム要素を加えたサッカー漫画です。

これにより、チームが次々に入れ替わったり、2vs2の試合が行われたり、負けても復活できる試合が合法的に描けたり、今までのサッカー漫画にない緊張感を生むことに成功しています。

ところで、本作は最初は「負けたらサッカー人生終了」というシビアな世界観がウリの漫画だったのですが、「世界一のストライカーになりたいキャラクター達が切磋琢磨成長していく、個人戦型サッカー青春漫画」という方向性に魅力の重点がだんだんシフトしていきました。つまりキャラの退場ペースは急激に落ちていきました。

デスゲームらしいキャラ退場のストレス展開を駆使した過激なドラマよりも、キャラの成長や関係性を育んでいく方に重心が移っていったのです。

(このやり方の方が、推しコンテンツ化しやすくグッズ展開などもしやすいのでしょう)

展開重視を序盤でやって注目を引いたあと、キャラ重視型の漫画らしいエンドレスビジネスに持ち込むという技をやってのけているのです。

意図的にやっているのか、試行錯誤の末の変化なのかは分かりませんが、ヒット作の打率が異様に高い作者の金城先生であれば、最初から計算していてもおかしくないと思えて恐ろしいですね。

最初に、クリエイターの実力はもちろん重要という話をしましたが、その実力の中に、ビジネスモデルをよく理解した上で戦略的に作品を作る力も含まれているということでしょう。

おわり。


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