Donnons une fleur

「以前頂いたあれがまたほしいのですが」
珍しく魔術の塔までやってきたマーテリアはスピリタスを見て言った。
「あれとは」
「あなたの領域にできたという…」
「花か」
「そうです。花」
女神は上目遣いで様子をうかがう。
そして珍しく言いにくそうに告げた。
「以前のはその、枯れてしまって」
「……枯れた?」
「ええ、あれから私の所に戻ったらもう元気がなくて」
そんなに弱い花ではなかったはずなのだが、とここで思い至り、スピリタスはたずねた。
「水に茎を浸けてやらなかったか」
「水?」マーテリアは首を傾げた。
「花というもの…草も木も植物は基本的に根から水を吸い上げるものだ。
切った花は根がないが水に浸けてやればしばらくは保つ」
女神は赤くなってわずかに俯くと、スピリタスを睨み付けた。
「そんなの知ら…知ってます!」

やれやれ、苦笑いを浮かべて男神は新たに花を摘みに、腰を上げた。

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