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回覧板に入っている「あのカタログ」の謎を追う

回覧板に挟まれたニッチな謎

こんなテーマでnoteを書いて、一体誰に刺さるのでしょうか。
ええ、バズるだなんて思ってません。
ただ、どうしても伝えたい。

あの回覧板に挟まっている通販カタログは何なのか。
この疑問を抱く人が、本邦に一体何人いるのでしょうか。
全人口の中の、町内会・自治会に入っている人の中の、回覧板をちゃんと読んでいる人の中の、意識高い系と目されるごくごく限られた人だけが抱く疑問でありましょう。だからこそ、わたしは使命感に燃えているのです。

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これは当市のバージョンです。全国津々浦々の町内会・自治会の回覧板で、これと酷似した表紙のカタログを目にしたことがある人はいるでしょう。画像中ほどと下部(回覧印の枠の上)に記載されている各自治体の障害者団体連合会さんの団体名・所在地・連絡先の他は、全て同じデザインになっているはずです。中には「石川県+金沢市」のように県と市の団体が併記されているのではなく、県だけが記載されているバージョンもあろうかと思われますが、色合いやレイアウトはほぼ同じです。

何なんでしょうか、このカタログは。
誰なんでしょうか、この事業者は。

こんなご質問を、当町会の班長様から頂戴しました。

町内会・自治会を悪用する輩

世の中には、福祉事業者や防犯防災活動団体を名乗るいかがわしい軍団がたくさんあります。中には堂々と回覧板に商品やサービスの案内を載せようとするふてえ野郎も実際います。回覧板に入っているという理由だけで、信用してはいけないというお気持ちは重々お察し申し上げます。
その危機感は大事よ、大事。

ちなみに、わたしは昔、女友達のヒモに「消防署の方から来ました」的な回覧板用チラシ作りを依頼されたことがある。消火器を売るビジネスだった。はやりましたよね、あれ。

悪徳業者に悪徳の自覚があるのか甚だ疑問が残るところではありますが、町内会長をやっていると、実に様々なお声がかかります。基本的には行政からのフローで案内されるものなのでさほど心配ないですが、何しろ数は膨大です。
回覧板のチラシ、多すぎ。回覧板の留め具もはち切れんばかりどころが実際ちょくちょくはち切れてポロリ続出。当町会では回覧板を専用カバーで袋とじして回しています。グラビア雑誌と違うのは、袋閉じられたまま一周してくる板の多いこと。みんな、中身見てよ。

かたや、数少ないとはいえ、やはり『知人のつて』は要注意。
中でも一番あくどい団体は、社会貢献の名を語る大学教員をはじめとした研究者集団です。
あれはコロナ前、第一期前野政権のときでした。卒論のための調査にはじまり、科研費助成金獲得すべくアリバイづくり、いや実績作りのフィールドワークだの社会実験だのと称して、来るわ来るわ。電子回覧板の実証実験させてくれとか、発達障害の市民講座を開かせてくれとか、お願いする立場なのにどうしてそんなに偉そうなのでしょうか。ファーストコンタクトが手伝わせてあげますの体なのには毎回新鮮な驚きを禁じ得ません。やってもいいけどだったらおたくのセンセイがまずうちの町内会の一斉清掃に手伝いに来てちょうだいねという話です。こっちに無料で実績作りを手伝えというのなら、あんたも無料で頑張れよ。

って、今にして思えば、言うほどぶしつけな態度ではなかったような気もしないでもありません。当時は単に当方に町会長として未熟で心の余裕もなく、受け止め方に癖があったのかもしれない。貧乏人の子沢山ってほんとにいやね。リアル町内会には魔物が棲んでいる。

まあ、そんな細かい個人の経験談とか非常にどうでもよくてですね。というか、うちの近隣に限って言えば社長だろうとサラリーマンだろうと大学関係者だろうと公務員だろうと何だろうと総じて町内会的なものには協力的で、まことに助かっております。例外的にフリーランスは微妙。アタシのことだけど。

とはいえ、そんなハートフルコミュニケーションがいつでもどこでも成立していれば娑婆の苦労はございません。当代において最もお手軽に叩ける身近なバカ代表のように扱われているのが町内会というものです。
あのカタログとてその例外ではございません。
実際ネットでサクッと検索した限りでも、「福祉の名を語るイカガワシイ宣伝を回覧板に挟んで回すとはこれいかに」と断じてはばからないご高説もちらほら。

こらまた、えらい言われよう。
あんたら、調べて書いとんかーい!

というわけで、町会長の任務として鋭意調査することに。
もちろんノーギャラです。

カタログの中身はいたって普通

話を例のカタログに戻します。

まず、年に1回、年度初めに町会長宅にとある団体さんから「今年度もカタログの回覧にご協力いただけますか」という丁寧な確認のお電話を頂きます。もちろんここで町会長権限を発動して、断ることも可能です。
基本的に、このお電話を頂く時点では、町会長に就任直後でよろず大変に不慣れであります。団体名もろくに聞き取れず、断ろうにも判断材料も乏しく、ほぼ脊髄反射で了承します。すると、大体月1回のペースで回覧板数に応じた(当町会なら10班分)のカタログが町会長宅へドーンと配達されます。

カタログは、表紙こそ独特ですが、中身はいたって普通の通販カタログです。中身はレトルト食品、缶詰、サンルーフや物干しスタンドなどの大型日用品から包丁シャープナーなどの小型雑貨、夏は冷風扇、冬はホットカーペット等、ごくありふれた内容です。ラインナップは特段福祉や地域協働を連想させるものではありません。

価格は(ものによってはかなり)魅力的

価格に関しては、なかなか興味深いことになっています。
7月号カタログのトップに掲載されていた「吉野家の牛丼(冷凍・レトルト)30食入り7,380円」は、わたし調べで業界最安値でした。
吉野家公式通販サイトでは同じ商品が20食入り7,960円(1食当たり398円)、Amazonのベルーナグルメは30食入り9,990円(1食当たり333円)なので、かなりお買い得と言えましょう。
ただし、「身体障がい者福祉事業」のカタログ通販の場合、送料が別途かかります。冷凍食品ならクール料金1,045円です。カタログには「な、何と驚きの1袋246円!」と記載してありますが、実質は30食8,425円(1食当たり約281円)になります。この程度の「ん?」を、私は許す。消費者庁がどう思うかは知りません。

今回、カタログに記載の全商品の価格や品質を競合他社と比較してはいませんが、本邦の新経済指標との呼び声高き牛丼価格を参考に物を申せば、そんなに悪いご提案ではじゃないんじゃないかと推察します。

事業者の実像に迫る~地域編~

さて、肝心の「じゃあ、このカタログ通販はだれがやっているの?」という問題。
カタログの巻末にある申込はがきの宛先は、うちの場合は「金沢市身体障害者団体連合会」になっています。しかし、どう見ても当該団体が単体でこの事業規模の通販を展開できるとは思えません。

早速カタログの表紙に書かれている「事業についてのお問い合わせ」のフリーダイヤルに電話しました。

誰も出ません。

あれ、お盆休みかな。なお電話をしたのは8月12日木曜日。世間は普通は稼働日です。うちの夫は時差盆休みで家にいたけど。

というわけで、はがきの送り先であり、回覧板で回ってくるカタログ的には一見事業者であるかのような記載となっている金沢市身体障害者団体連合会さんに電話してみました。

ちゃんと電話にお出になられて、丁寧にお答えいただきました。
以下、ご説明の要旨です。

回覧板のカタログ事業は「日本身体障害者団体連合会」という全国組織(上位団体)の事業である。
金沢市身体障害者団体連合会では、申込はがきの取り次ぎだけを行っている。月に1回、金沢市内から同団体宛に送られてきたはがきを取りまとめて、日本身体障害者連合会の事業所に送っている。
カタログは全国同じものが使われている。通信販売の収益から、決められた割合の収益が各地域の売り上げに応じて各協賛団体に寄付される。

ちなみに、年度当初に町会長宅にカタログ送付の確認のお電話を下さるのは、金沢市の団体さんではなくて、日本身体障害者連合会と連携しているカタログ事業者なのだそうです。

寄付金の使い道

金沢市に寄付される金額はさほど大きくはないが、当団体で開催する市内の身体障害者を対象にした研修会や親睦会などの活動費の一部として活用している。

当町会的に一番の興味事項がおうかがいできてよかったです。
さらに、年に一度、カタログ通販を手掛けている事業所の方から各町会宛に事業報告が送られてくることも教えていただきました。全国の寄付累計額と各地域に分配された寄付金額も、そこに記載があるそうです。配達物をよく見てなくてごめんなさい。

なお、当方が先ほど電話して誰も出なかったフリーダイヤルは「いつもちゃんとつながるし、自分たちも用事があればその番号を使っている」そうです。重ねて失礼いたしました。

団体の活動について~金沢市の場合~

寄付金の使い道をお伺いしたついでに、同団体の沿革や活動趣旨についてもお聞きしました(詳しくはぜひホームページをご参照ください)。

同団体は、金沢市内の障害者団体の連合体です。金沢市では『校下』と呼ばれる旧小学校区単位の48の「校下(地区)身障者会」と、視覚障害・聴覚障害など五つの「障害別団体」から成っています。
ホームページによれば、校下身障者会の半数以上に当たる28団体が活動休止、障害別団体では「傷痍軍人会」もありましたが、今は登録抹消されています。

参考までに、金沢市内の校下数はわたし調べで62(金沢市校下別ハザードマップの数)、おおむね小学校区に一つ組織されている地区社会福祉協議会の数は52、令和3年現在の金沢市立小学校数は53校です。

活動内容も時代につれて変わりつつあるそうです。お話によると、

当団体は、戦後の社会福祉が充実していない時代に設立された。当初は社会制度の拡充や法整備を求めて議会や行政に積極的に働きかけを行ってきた。時代が進むにつれて、次第に制度や法律が整えられるにともない、活動の内容も社会運動的なものから徐々に身体障害者個人の生活の質を高める支援へと変容していった。今では当事者同士の親睦会や研修会(「公民館などで開催されている研修会と似たような内容です」とのこと)を主に開催している。

また、カタログ通販については、

カタログの回覧は各町会の方々のご厚意とご尽力にゆだねられている以上、こちらから「ぜひお願いします」と言えるものではない。実際に、当団体にも「このカタログは怪しい事業者ではないのか」「収益が不適切に使われているのではないか」などのお問い合わせの電話がたまにかかってくる。「これからはカタログを送らないでほしい」と言われる町会もある。そうなると、こちらからの再度のお願いはできない。

と、察するに余りあるご苦労もおありのようです。

なるほど、よくわかりました。ありがとうございます。
カタログ事業の具体的な運営や寄付金額については、上位団体に問い合わせてほしいとのことだったので、次は東京の日本身体障害者団体連合会さんにお電話しました。

事業者の実像に迫る~全国編~

日本身体障害者団体連合会さんもお盆休みの前だったようで、ちゃんと電話がつながりました。こちらでは、カタログ通信販売を実際に行っている事業者さんが株式会社であることと、その社名、会社サイトのURLを親切に教えていただきました。ありがとうございました。
さすが全国組織、電話の対応も非常にこなれた印象です。当該団体さんの沿革や活動内容などについても、ぜひホームページをご覧ください。

『あのカタログ』の意外な真相

さて、待ちに待ったあのカタログの本丸にいよいよ突入です。残念ながら現在、お盆休みに入られているようなので、ホームページからの情報が中心です。

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にっしんれん事業所株式会社(画像:ホームページのスクリーンショット)

トップページには昨年1年間の寄付累計額49,804,879円が記載されています。また「私たちの思い」というページには

私たちは、昭和41年に佐藤商店として営業を開始以来、日本身体障害者団体連合会傘下加盟団体と連携して事業を展開してまいりました。

それから50年以上にわたり、障害のある方とその家族の人たちが、明るく安心して暮らしていけるよう、障害者福祉団体の支援を行ってまいりました。

地域との信頼関係により、全国の町内会・自治会にカタログ回覧をお願いし、収益の一部を障害者福祉団体に活動支援金として寄付しています。
(にっしんれん事業所株式会社ホームページより転載)

とあります。
素晴らしい理念に畏敬の念を禁じ得ません。同時に「うまいことやってるなあ」と感嘆いたしました。

今回、7月度の回覧板の戻り状況だけからの推計になりますが、当町会160世帯のうち、カタログ通販利用者数は5世帯程度です。
このヒット率は、なかなかの数字ではないかと思われます。ネット通販とはいまだ疎遠な高齢者層にリーチする手段としても、回覧板はそれなりに有効で、少なくともやっても無駄とは言えないレベルです。

ただし、うーん。。。

今後、町内会はカタログ通販事業を支えられるのか

今後の町会運営をかんがみれば、わたしたちはどこまでこの方式を支えていけるのだろう。正直自信がありません。
実際に、わたしの第一期目の町会長時代、このカタログの取り扱いにかなり負担を感じました。なりたてほやほやで右も左も分からぬときに「今年も送っていいですか」とお電話をいただいて、お断りしたい気持ちでいっぱいでした。どんなことで小さなことでもいい、この煩雑にして膨大なる町会長の仕事がわずかでも減らせるのなら、わたしの代でやめちゃいたい――。

あのとき、わたしが不機嫌な声で「いいですよ」と了承したのは、近所のママ友の言葉があったからです。
彼女は実親と同居していて、わたしは彼女のご両親にもとても親切にしてもらっています。そのママ友が、世間話の何かの拍子に「うちのばーちゃん、あのカタログ通販で買うのが趣味なんだよね」と言っていたのを、わたしは覚えていたのです。
彼女のところはおうちぐるみで障害者にとても理解があり、詳細は控えますが数々のご実践も知っています。
この町会で、一人でもあのカタログを活用している人がいるのであれば、なくさずにおこう。そんな思いもありました。

わたしが初めて町会長になったときは、まだまだコロナ禍の前でした。まさにチリツモ、積もり積もった町会業務は兼六園の栄螺山のごとし。町会事業をやればやったで大変だのなんだのと役員からのクレーム噴出、やらなきゃやらないでしっかりやれと外野のシニアにドヤされて、まさに八方塞がり。働き世代のおじさんたちはフルボッコにされるのを恐れて(それは全く正しい先見性でしたが)町会長を固辞。
「ギャラリーが文句を言わないならば、やってあげてもいいけど?」
様子を見かねて居丈高に立候補してみたら収まるかと思いきや、まさか本当にお鉢が回ってくるとは。
あのとき「だったらやせてやる」的にしらばっくれて町会長にならずに逃げ切ったシニア忘るまじ。彼らの名前と住所と生年月日は電子町会世帯台帳にしかと刻んでおきました。あなた方、一生町会長をやらずに死んでいくのよね。

その後いろいろありまして、何回かの修羅場を経た。
詳細はしょりますが、今ではシニアの皆さんは劇的にわたしに対して協力的になり、命令口調はほぼゼロ、最低限のお願い事も「できればでいいんだけど」の枕詞を欠かしません。同世代の近所の友達に町会のお仕事の助太刀を頼むと100パー引き受けてもらえます。そこまで周囲に気ィ使わてどーすんのアタシ。
それほどに町会運営を担うのは大変ななのだという認識が共有されたということでしょう。

ドラえもんも鉄腕アトムも間に合わなかった。いわんや回覧板をや。

年々高まる高齢化率、若い世代はデジタルネイティブ、こちらのカタログ通販を活用する人は一体いつまで、何人いるのでしょうか。

電子回覧板の案内は、毎年市からくるけれど、いったいどこのハイエンド市民を想定しての提案でしょうか。当町会で既存の電子何とかを実運用できる見込みは全くないが、さりとて今のままでもあまりに無理があるだろう。
この回覧板という前時代の仕組みに支えられての事業って、ちょっとワクワクしづらいですね。

PTAでは悪評高きベルマーク活動が、ウェブベルマークとして新たな活路を見いだしていますよね。ああいう何かが町内会にもあればいい。
ないならいっそ新規で作れないかしら。
安否確認と連動していて、購買に異変があったら町会に連絡が行くような。
過去には電気ポットの稼働と見守りを連動するとか、今では宅急便や食材の配達と兼ねた見守りもある。正直、他人行儀な便利があり過ぎ
うちらみたいな田舎では、まだまだ「ご近所さん」が最強ツールなんだよね。ポロリ続出はち切れボディな回覧板でも、われわれにしてみたら、ないよりはましなのですよ。

何かないかね。
何とかならんかね。

今回、市内の身体障害者団体連合会の活動状況などを見て、改めて思う。
このnoteの記事、一体だれが読むねん!
あのカタログの謎を知りたい人間が、本邦にいったい何人いるというのだ。

率直に申し上げます。
あの回覧板のカタログ通信販売は、意義深く素晴らしいとは思います。
だけど早晩きびしいよ。
今回、ご質問くださった班長さんは「邪魔くさいけど楽しみにしている人もいるから、カタログを入れさせてくださいね」と改めてお願いしておきました。いいよと言っていただけました。
でも、わたし、次の町会長には「めんどくさけりゃ断っていいのよ」って申し送ると思うのよ。
そうやって肩をたたき合い、だましだまし続けていく。
それが令和の町内会、ご近所づきあいなんだよね。