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「言葉にする」ということ その1

~読書感想文のお手伝いに寄せて~

気持ちを言葉で表現するのが苦手な子っていますよね。
今回は、胸にもやもや浮かんでは消える思いを文字にとどめる練習として、読書感想文を活用してみました。

ええ、読書感想文。
本邦のインテリジェンスな皆さんからは、コミットすればするほど逆効果とさげすまれてはばかられない例のあれ。
親泣かせ子泣かせ、蛇蝎のごとく嫌われて、夏休みの宿題のラスボス的な位置づけが読書感想文ですね。日教組が必要以上に疎んじられている原因の7割がこの読書感想文指導にあるというのもうなずける次第です(7割はわたし調べ)。

当然ながら、今回わたしが書き記す方法が専門的見地から見て推奨されるべき手法でもなく正解でもなく、ましてや世界標準でもない。本邦の片田舎のどっかのおばさんと凡庸な小学生たちの、小さな夏の取り組み事例にすぎません。

読書感想文は突然に

夜の8時ごろだったかな?
ママ友から「四女小5ちゃん、まだ読書感想文を書いていないなら、明日、うちの娘もご一緒してよい?」というLINEが来た。
返事はもちろん「いいよー」である。
このぐらいユルい付き合いができるのは、本当にありがたい。
早速、明日の朝9時に我が家集合というプラン決定。親が勝手に宿題プランを決めるのは、本邦における夏休み後半戦の風物詩である。高校球児の夏は終われど、小学生の宿題はキャリーオーバー発生中。

STEP 0:「読む前」が大事

さて、わたしからのママ友へのお願いとしては
①本を選んで持ってくること
②未読の本ならまだ読まないこと
③できれば家庭で本の話題は避ける

③については、もちろん読書感想文に取り掛かるまでの間のことだ(実質13時間ほど)。
一応①~③それぞれに理由があるが、説明なし。ママ友はこのへん非常にシンプルなので「わかったよ」で済ませてくれる。助かるなあ。

そして、このやりとりから5分とかからず「感想文を書く本はこれ」と本の画像が送られてきた。友子ちゃん(四女の同級生、仮名)が自分で選んだとのこと。決めるの早っ。というか、これか…。

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STEP 1:基本のルール設定

そして翌朝。
6時に四女を起こし、
・今日、9時すぎに友子ちゃんが来ること
・読書感想文を一緒に書くこと
・つきましては四女もただちに読書感想文で扱う本を選ぶこと
を伝えた。
四女もやはり5分とかからず、自宅の本からサクッと選んだ。

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これね。こう来ると思っていたよ。他に手ごろな蔵書がほぼないからね。
そうこうしているうちに、友子ちゃん来宅。

今から読むべき2冊の本と、メモ用紙の束(町内会総会資料のミスプリント200枚程度)、ボールペン2本を台所のテーブルに置く。

わたし「今から、読書のメモを取ります。メモのルールは、消しゴムを使わないこと。さて、なんででしょうか。はい、友子ちゃん」

長考に入る友子氏。
うーん…とじっくり考える表情に、わたしには見えた。考えるふりをしていればそのうちわたしがしびれを切らし、自分のターンが終わるだろうとタカをくくっているようではない。

実は、わたしは友子ちゃんのママから1学期の通知表渡し(学期末の保護者面談)のときの話を聞いていた。
友子ちゃんはどんなお友達とも楽しそうにしている。授業中も不真面目だというわけではないが、どうも意欲が感じられない。発言が少なく、反応が薄い。前学年のときに比べて評点が下がってしまったのは、そのせいだという担任の先生の説明だったとのこと。

はきはきと当意即妙で受け答えするのが苦手な子でも、だからと言って、そのときその場で何も考えていないということもないだろう。
ママは大いに納得できないようであった。わたしとしても、いわゆる『積極性』みたいなものに点数を付けるのはいかがなものかと考えている。
かといって、それに評価をしなければならないのが学校教育だとしたら、先生を責めてもしょうがない。
いい点数を諦めるか、何とかするかの二択となろう。

だったら、表現の持ち時間に比較的融通の利く「書く」をひとつ自分の武器にできたらいいんじゃないかしら。そんな思いがわたしにはあった。

友子ちゃんのシンキングタイムは長かった。
江戸っ子よりはせっかちで関西人より辛抱強いわたしの体感で5分ほどかかっただろうか。
友子氏は、うつむいていたまま目線だけを上げ、一言一言区切るようにして、こう言った。

「そのときはダメだと思ったアイデアでも、後で使えるかもしれないから」

おおー、正解!

そして、四女は

「自分が何を考えたか、証拠を残しておく」

うん、正解!

厳密に言えば友子氏と同じ意味なんだけど、そこはアバウトに受け止めたい。

打消し線を引いてもいいけど、ぐちゃぐちゃに塗りつぶさないこと。落書きも大事だから取っておく。紙がよれてもいいから、切り取ったり、破り捨てたりしないこと。とにかく自分が何を書いたか取っておく。
わたしたちのミッションにおいて、価値のない言葉など一つもない。

一応、わたしが用意していた正解は
『消しゴムで消す時間がもったいないから』
なんだけど。

STEP 2:本に対する期待

というわけで、まずは

①なぜこの本を選んだか
②この本のタイトル・表紙を見てどう思ったか

この二つについて、メモを取る。

友子
①家にあって、ずっと読んでいなかったから
②どんな話かなと思った

四女
①適当
②ない(前に何度か読んだことがあるから)

なお、四女からは「今日、読書感想文を書くのは別にいいけど、前から決まっていることだったら別の本を探せた。こういうことはもっと早くに伝えてほしい」と言われてしまった。そりゃそうだ。ごめんね。

友子ちゃんの①の回答、実は前野的にはとても使える
なぜ家にあったのにほったらかして読まなかったのか。
理由は簡単。興味がなかった。
②の「どんな話かなと思った」をさらに掘り下げて聞いたら、「タイトルから内容の検討がつかない」程度の意味合いらしい。
「ワクワクして興味をひかれたってこと?」と聞いたら、へへッと笑って、首を横に振っていた。
いい塩梅に期待ゼロ。

尻上がりの法則

世の物語の黄金パターンとして『尻上がりの法則』がある。
最初はしょぼい主人公が、だんだんグレードアップしていくという例のあれです。人類最古のギャップ萌え。
初めは全戦全敗の弱小チームが数々の苦難を経て高脂血症いや甲子園決勝まで勝ち進むみたいな展開は、エンタメのテッパンなわけですよ。しかも、主人公は親の代から野球バカとかではなくて、例えばグラウンドの隣の畑の果樹園の孫。祖父の手伝いのかたわら畑に飛んできたボールをフェンス越しに投げ返した強肩を競馬狂いの野良監督に目を付けられてみたいなマイナスからのスタートだったらなおよろし。四番でエースのゴリマッチョが練習試合で放った特大ホームランが品評会に出す予定だった桃を直撃、怒り狂った主人公が軽トラでグラウンドに突入、敵の代打でゴリと対決、ネット柵の骨組みの鉄パイプフルスイングで殺人ピッチャー返しをキメたのが友情の始まりです。その後、スタジアムに売り子のバイトできたはずが野良監督の策略でベンチ入りなどの紆余曲折を経て野球の面白さに目覚めた主人公、バットはもちろん死んだ父との思い出の栗の木を涙ながらに切り倒して作ります。農業と部活の両立に悪戦苦闘。TPP11の影響で果物価格は下落の一途、家計を圧迫、学費の工面に汲々としているさなか、地区予選の決勝の日は大型台風上陸の予報。チームメイトが主人公に内緒で徹夜でネットの破れを補修、「あいつを試合に出させてください!」と朝一番で祖父に土下座をしに行くという、およそ野球の足を引っ張るサイドストーリーも満載です。こんなチームに決勝戦で敗退するのが超名門校でメジャーリーガー・ガメラ松田の母校でもある常勝軍団で通称AI野球というのだから、どんな展開だよ。いや、この展開はまさに今、私が適当に作りましたけども。命より大切な果樹園で暴風雨に一人立ち向かう祖父の祈りが点に届いたか、格差社会に怒れる神の落雷により偵察ドローン落下、AI野球は総崩れ…って、そんなわけあるか。

話戻しまして。
読書感想文の場合、この手の豊かなサイドストーリーを持っている子といない子がいる。あれって不平等ですよねえ。
戦争がテーマの本であれば、祖父母の体験談をナマで聞いた子の方が圧倒的に有利です。同じ九死に一生を得るストーリーでも、無難に生きてきたこの感想文より家が火事で焼けた子、火事で焼け出された子よりも東日本大震災で被災した子の感想文をより評価したいと感じる読者は、正直多いのではないか。

友子の期待値

前野としては、不平等なのはしょうがない。しょうがないから何とかしよう。そのための苦しい作戦が『尻上がりの法則』の活用である。読む前の期待が低ければ低いほど読後の『読んでよかった』が相対的に高くなる。
友子ちゃんに聞いたところ、おばあちゃんが何年か前に買ってくれた本だけど、いつ買ってくれたかも覚えていない。元々積極的に本を読むタイプでもないのでついついほったらかしていたとのこと。いいね、いいね!
では、その期待値の低いまま、実際に読んでみようではないか。
この読む前の「期待の低さ」が、ときには感想文のツカミとして使えるのである。それは未来の野球少年が果樹園で流す汗のように、後々に生きてくる(こともある)。

四女の期待値

残念ながら四女はこの本を何度も読んだことがある。今回、読前の期待値ゼロ。後から使えるネタにはならなそうである。
何ならわたしが小学校の図書ボランティアの読み聞かせで読んだのを聞いたことすらある勢い。四女にとってはおなじみの本なのだ。
ただし、唯一あるとすれば、なぜ幾つもある短編の中からこの読書感想文ようにこの一作を選んだのか

『ふしぎの時間割』はなかなかよくできた短編集で、1作を読み終えるのに大体15分前後。小学校の読み聞かせにはちょうどいいんだよね。
本作はSF仕立てのショートショートで、どの作品も面白い。朝一番から始まって1~6時間目、放課後、夜中と、それぞれの時間に幾つかの小学校で起こった不思議な出来事がつづられている。
学校中がでんぐり返っちゃうようなダイナミックな展開もあり、背筋がヒヤッとする怪談風、ちょっとためになる道徳テイストもあり。

秀作ぞろいの中から四女が選んだのは『二時間目 消しゴムころりん』であった。

(つづく)