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参考にならないHow to★作詞家になるには [1]


「作詞家になるには、どうしたらいいですか?」
時々このようなご質問をいただく。
そんな時、私はとても困ってしまう。

私が作詞家になった経緯は、きっと誰の参考にもならない。
「作詞家」という職業がある事を知ったのですら、
私が歌詞を書いた曲がCDになって世に発売されてからであった。

19歳の時、私は池袋の焼き鳥屋でアルバイトをしていた。
今はもうあるか分からないけれど、池袋のメトロポ口リタン出口を出てすぐのビルに入っていた、チェーンの焼き鳥屋さん。

若いスタッフばかりで仲が良く活気溢れる店舗。
お客様も気さくな方が多くてとても働きやすいそのお店で、私は週に3,4日、夕方から終電までホールの仕事をしていた。
(以前noteで公開した「さかもっちゃんの話」を読んでいただいた方は疑問に思うかも知れませんが、あのバイトは土日の日中、こちらは平日の専門学校が終わってからの掛け持ちでした)

その日もいつも通り接客をしていたら私が担当する席に可愛らしい若いカップルがやって来た。
接客をしているうちに仲良くなり、飲み物や食べ物を運ぶ時に少し会話する中で彼氏の方はギタリスト、彼女は歌を歌っているのだと知った。
けれど池袋は小さなライブハウスも当時はたくさんあったので、バンドマンが来店することはさほど珍しくなく私は
「すごいですねー!是非聞いてみたい!」
などとありきたりなことを言い、心から可愛いカップルだなぁとは思っていたけれど、2人がミュージシャンであるということについては実際それ以外の感情は特になかった。
カップルが来店してから2時間ほどした頃に男の子の方が
「お姉さん!今からうちの社長が来るんですけど、会って下さいよ!」
と言うので
「是非是非!」
と言いながら、店員としてお待ち合わせのお客様のご到着を待っていた。

しばらくすると、物凄く酔っ払った、細身の、小さな背中をさらに小さく丸めたメガネのおじさんが一人お店にやって来た。

「ウチんトコの~… ウチんトコのよ~… いるだろ~… ウチんトコのがよ~…」

靴を脱ぐタイプの焼き鳥屋だったので、そのおじさんも入り口でヨタヨタと靴を脱ぎながら繰り返し「ウチんトコのよ~…」と言った。
あの可愛いカップルとは結び付かない風貌だったけれど、他にお待ち合わせのお客様がいなかったので若いカップルの所へお通しすると、やはりその人が社長であった。

社長の分の新しい温かいおしぼりとお茶を用意してお出しすると男の子が
「社長!このお姉さんすごい面白いんすよ!」
と私を紹介して、私も
「仲良くなりました!」
と笑顔で報告した。

社長の人は背中を丸めて座ったままメガネの奥からギロリと鋭い視線で私を見て、酔い潰れて今にも倒れそうな体をグラングランと揺らしながら
「おう…お…そうか、ねぇさん、じゃあよ、一回会社に遊びに来いよ、はい、これ名刺ぃ」
と名刺を差し出して来た。

お客様から名刺を頂くのも、酔っ払ったお客様がいらっしゃるのも珍しいことではなかったのでなんの疑問もなく名刺を頂戴して拝見すると
「CM音楽制作会社」と書いてあった。
「あぁ!そうか!音楽のお仕事でいらっしゃるんですよね!」
「おう、そう、、おう、ねぇさん、一回会社に遊びに来いよ、名刺…はい、これ名刺ぃ…」
「あ、もう頂戴しました!」
そんなやり取りをしながらしばらく談笑しお会計を頂き、仕事を終えた私も帰路についた。

その眼光鋭いメガネの酔っぱらいのおじさんが私の社長にもなるだなんて
その日は夢にも思っていなかった。

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