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遙かなる時空の中で7 柳生宗矩攻略感想

※個人の感想です
※ネタバレあり


 攻略三人目は柳生宗矩。
 宗矩は徳川家康に仕える隠密で、『龍神の神子』については最初からわりと詳しい。摂関期が舞台の遙か1に比べると、近世の入口にあたる今作では「龍神の神子は怨霊を浄化して龍脈を正す。戦のない平和な世には必要な存在」と、神子の力がかなり知られているようだ。特に権力者の間では『龍神の神子』の伝承を知っておくことがマストという雰囲気を感じる。
 徳川家康はこれから日の本をまとめていこうとしている人だから神子については知っていて当然、となるとその家康に仕える宗矩に『龍神の神子』についての知識があるのは当然だ。

 宗矩は神子を献身的にサポートしてくれるが、あくまでも主は家康。七緒は家康の世に必要な存在だから守る、という一線引いた態度をとる。『隠密』のイメージどおり無口で無愛想、任された仕事はきっちりやる無言実行の仕事人タイプである。
 愛想は良くないが、強面ではないし、ヒロインに冷たいわけでも厳しい訳でもない。ストイックで、感情的にならない大人の男だ。
 ワケありの過去を持ち、真面目で無愛想で、ヒロインに対して初手はビジネスライク。乙女ゲームにおいて、こういうキャラのルートは『勝ち確』である。こういうキャラが時折見せる笑顔や優しさは、そいつが自分の好みかどうかに関わらず良いものなのだ。

 宗矩は、幼い頃に自分の所領を失っている。豊臣政権下の検地で隠し田を疑われたため、領地を没収されたのである。宗矩が家康に仕えているのも元はと言えば領地回復のためだ(とはいえ、家康はイイ奴なので宗矩は職場環境に満足しているようだ)。盾に大きく柳生の家紋が入っていることもあって、この人は柳生を背負ってんなぁという感じがする。
 宗矩の故郷『柳生の庄』の人々は『鬼の一族』の末裔なので、もともと公権力に目をつけられやすかったのかもしれない。
 というのも、遙かシリーズにおける『鬼』というのは、単に外国人や被差別民を指す言葉ではないからだ。この世界の『鬼』は異能を持ち、瞬間移動が出来たり怨霊を操ったりできる。身体能力も『人』より高い。つまり、『鬼』は実際に人間にとって脅威になりうる存在なのだ。
 鬼に怯えた人間たちの「やられる前にやってやる」方式により、鬼の一族はシリーズ一作目から人間に迫害され、時には里を襲撃され殺されるという悲劇に見舞われてきた。鬼の外見は金髪碧眼が多く、基本的に色素が薄い。人間との見分けが簡単についてしまうため迫害を受けやすかったのだ。
 遙かシリーズのキャラの髪は赤や青、緑の奴までいるので、金髪碧眼くらいで何を言ってんだ? という気はする。しかし、とりあえず金髪碧眼色素薄い系は鬼!緑や青や赤はセーフ!と脳に刻んで、カラーリングについては無理やり納得しないと話が先に進まない。

 とにかく平安の昔から人に迫害されてきた鬼の一族だが、時代が進むと人間との混血化も進み、人間と見分けがつかなくなる。異能は薄れ、外見的特徴も薄まって、「先祖は鬼だが、今は外見も能力も人間と変わらない」という人たちが増えてくる。自分たちの祖先を迫害してきた『人間』を憎む方向ではなく、むしろ積極的に人間に溶け込もうとしてきた人々がごく普通に里を営む。宗矩の故郷、柳生の庄もそんな里の一つだったのだ。迫害を受けないために、かなりの苦労があったことだろう。
 その大事な土地が没収されることになったわけだから、頭領を始めとした土地の人々の焦りもわかる。領地の召し上げは勘弁してくれと嘆願した結果、豊臣家の出した条件は「ターラという娘を秀吉に差し出せ」というものだ。

 このターラと宗矩との関わりがルートの柱になっている。

 このゲームにはどうやらこの世界を呪詛している存在が何人かいて、そのうちの一人がラスボスとして立ちはだかる。私が先に攻略した武蔵、五月どちらのルートもたまたまラスボスは平島義近だったが、今回のラスボスはこのターラだ。

 ターラは宗矩と同郷の、いわば幼なじみ。殆どの領民が鬼らしい外見も異能も失い、鬼の一族としてではなく人間として生きている中、ターラは金髪碧眼で異能持ちという隔世遺伝の神秘を体現して生まれてくる。
 珍しい外見をした美貌の少女は、賢くて気が強く、『鬼は人より優れている』という父親の薫陶を受けて育つ。この親子は、あくまで人間であろうとする柳生の庄の方針とは真逆の主張を持っているので、おそらく周りには煙たがられていただろう。ターラたちにも「鬼は人より優れているのにどうしてこんなにビクビクと暮らさなきゃならないんだ」という不満があったことだろう。
 ターラを差し出せば領地を安堵すると言われた時、柳生の庄の人々は「ターラが気の毒だからやめよう」とはならなかった。ターラをいわば生贄に差し出すことに誰も反対しなかったのだ。
 ネオロマ規制により明言はされていないが、美少女が権力者に「献上」される、つまり閨の相手をさせられるということはみんなわかっていたはずだ。ティーンの女の子が50歳近い男のところに送られるわけだから、ターラが何としてでも逃げたかったのは当たり前である。しかし、彼女を逃がそうとした母親とまだ十歳の弟は殺されてしまう。
 里の大人は誰も助けてくれない。家族は殺され、追手がかかる。そんな絶望の中で、こっそりとターラを逃がしたのは、少年時代の宗矩である。純粋にターラのことが気の毒だったからだろうし、権力者による一方的な領地没収に憤ってもいたのだろう。
 裸足で逃げ出したターラは、宗矩がくれた草履を履き、着の身着のまま里から逃げ出す。結果、ターラを引き渡せなかった柳生の領地は没収されることに。
 逃げたターラがどうなったかといえば、自分を売ろうとした柳生の庄、家族を殺した豊臣家、ひいては人間そのものへの憎しみを抱えて成長することになる。ターラは怨霊を操る鬼の力によって、この世全てに復讐すると決めたのだった。平島の足利幕府再興より遥かに壮大かつ漠然とした目的である。
 人間への復讐のために怨霊はなんぼあってもいいですからね、ということでターラは世の中に呪詛をばら撒きつつ、神子から霊力を奪おうと画策しているのである。

 ターラは仲間の元で力を蓄え、パワーアップアイテム『鉄輪』をつけて自分の力を増強。天狗やら第六天魔王やらを呼び出すが、鬼の姿(銀髪)に変化した宗矩がこれを阻止する。ターラは逃げ、神子と宗矩たちへの対決姿勢を鮮明にすることに。

 昔、宗矩がターラを逃がしたばかりに、結果として領民のみならず神子も、さらにはこの国の民全体が現在ピンチに陥っている。と、宗矩は思っている。彼は「過去に自分がしたことによって、みんながつらい目に合っている」と、自責の念に苦しんでいるのだ。
 かといって「あの時ターラを逃さなければよかった」とは思いきれないのが、さらに苦しいのだと思う。もし、もう一度あの日に戻ったとしても、宗矩はターラを逃がしたのではないだろうか。恋とか友情とかそんな感情を超えて、自分と同年代の女の子がいわば生贄にされるのを黙って見ていられなかった宗矩の人柄が、このターラとの関係性でよく分かるのだ。
 宗矩がターラに向ける感情は複雑だ。必ず倒さねばならないという気持ちと、逃がしたことへの後悔や自責の念、一方では彼女に同情する気持ち、倒さずに止められるものなら止めたいという気持ち、迷いが絡み合っている。ターラはターラで、明確に人間の側についた宗矩を憎みきれない様子が見える。鬼の力を持ちながら人に与した宗矩を嘲る様子を見せているが、それは裏を返せば彼を力のある同胞だと認めているということだ。
 乙女ゲーでは、攻略対象が自ルートで他の女にかかずらうのはご法度といってよい。だが、ここで「んも〜〜〜! 他の女のことをいつまでも! ねー、ターラなんてさくっと殺っちゃおうよ!」と思えるプレイヤーはあんまりいないのではないかと思う。
 逆に、もし七緒がそんな事を言い出したが最期、プレイヤーからの好感度は地に落ちるだろうし、自己投影型夢女の憑依も解けそうだ。
 五月ルートでは、彼の過去について七緒が物申して、その結果、五月の気持ちは救われる。しかし宗矩の場合は、彼とターラの関係性に当事者でもない人間が口を出すことは難しいのである。
 乙女ゲーヒロインという生き物は他人の過去に首を突っ込みがちだが、このルートの七緒は自主的に蚊帳の外にいる感じがする。ここで七緒があまり首を突っ飛んでこないところがとても良かったと思う。

 共通ルートのラストでは、宗矩と七緒がお互いに離れがたく思い、惹かれ合っているのが伝わってくる。武蔵ルートの場合は七緒から、五月ルートの場合は五月からの矢印が目立ったが、宗矩ルートでは「お互いに同じくらい」好意を持っている状態に見えた。

 第六天魔王を封印してもターラを完全に倒したわけではないので、呪詛も怨霊も残っている。そんな状況で、七緒は宗矩の父親(柳生の庄の頭領)に会う。つまりこの父親が、領地を守るためにターラを豊臣に売ることを決めたわけだが、それに対して申し訳ないとは一切思っていない様子。おめー、「領地のために仕方なかったとはいえ、サームの娘には申し訳なかった」とか言わんの? と思わなくもない。

 まあとにかく、これ以上ターラにパワーアップアイテムを使われたらまた怨霊が出て龍脈が傷ついてマズいということで、宗矩は柳生の庄でそのアイテムについて調べることに。結局アイテムに対抗するすべはわからなかったが、とりあえず鉄輪がやべーということだけはわかった。使えば使うほど怨霊は集まるし、術者のターラにも良くないらしい。宗矩は「もう起きてしまったことは仕方ない」という神子の言葉で、改めてターラとの対決を決める。迷いを吹っ切った宗矩に父は柳生の宝刀『大天狗正家』を渡す。
 後世の創作とはいえ柳生といえば大天狗正家。この刀が今後大きな役割を果たすことになるのだ。

 そして舞台は関ヶ原へ。

 ターラは秀吉を恨む怨霊を従え、さらには壬申の乱で無念の死を迎えた怨霊を呼び、まあとにかくすげー状態になって(ご、語彙が)、戦場を大混乱に陥れようとしている。さらにターラは自分の身体と鬼の鉄輪を媒体にして怨霊を無限発生させようというのだった。やけっぱちというか、人間への恨み骨髄というか、とにかく人間を苦しめられるなら自分などどうなっても構わんというターラの覚悟に七緒と宗矩は向き合うことになる。

 七緒は、「何かを恨み続けることは苦しいことだから」と、なんとかターラを救ってあげられないかと宗矩に言うのだが、ここでも彼女はその考え述べただけで押し付けはしない。それに、宗矩の方も七緒の意見を諾々と飲んだりしない。七緒は「宗矩が決めたらそれを支持する」というスタンスだ。
 それがとても良かったと思う。
 もしここで七緒が「ターラが可哀想! 救ってあげないと」みたいなことを言い、宗矩が安易に「お前は優しいな。それがターラのためだろう」みたいなことを言う流れだったら正直興醒めだったし、「黙れ小娘! お前にターラの何がわかる!」と美輪明宏ボイスで一喝してしまうところだった。
 ターラと宗矩の過去の件において七緒は部外者なので、それについて分かったような口を聞いてはいけないのだ。七緒は優しい女だし、ターラを案じる気持ちは本物である。だが彼女がターラを心底心配しても、一人ぼっちのターラから見れば七緒は仲間に囲まれて身も心も清いまま、つまりターラが失ったものを全て持った状態で、さらに「怨霊の使役をやめろ」と要求を突きつけてくるムカつく女である。しかもそれを七緒にぶつけると、同族の幼なじみ(宗矩)が彼女を庇い立てしてくるのだ。私がターラの立場でも、「七緒はなんて優しい子なんだろう」などとは素直に思えないだろう。ムカつかないわけがない。
 つまり、七緒がどれだけターラを案じようと何を言おうと、ターラの怒りは収まらないどころか火に油を注ぐだけなのだ。ならば距離をおいて、この件についてはそっと見守るのが吉である。

 その後、戦いに敗れたターラだが、定石通りならそれを浄化するのは七緒だ。しかし、ターラの心情は前述の通りなので、ここで七緒に浄化されることにでもなったら死んでも死にきれないだろうな…と心配した。だが、ここでターラ(の恨み)を浄化したのは七緒ではなく宗矩。
 柳生の宝刀大天狗正家でターラの持つ恨みを彼女から切り離し、さっぱりした状態で天に送ることに成功する。柳生の庄から逃げる時に宗矩に貰った草履をターラがずっと持っていたことがわかり、たった一人で戦った彼女の孤独が染みるシーンだ。

 しかしターラが消えても鬼の鉄輪は消えず、大量に湧いた怨霊を七緒が浄化することになる。そのためには龍神の力をめちゃくちゃ使わなくてはならない。そうすると七緒は消えてしまうかもしれない。この展開を彼女は事前に夢で見て知っていた。
 七緒は宗矩に、いずれ必ず神泉苑で再会できること、柳生の宝刀が自分を助けてくれることを言い残し、龍神と同調して(このルートではそういうことになっているが、五月ルートのあとだと「なるほどこれは」と思える描写になっている)、その力を振るい、すべての怨霊の浄化に成功する。 

 怨霊を全て浄化した七緒は龍神の中に消え、龍神もまた姿を消してしまう。皆、もう七緒はこの世に戻ってこないのではないかと半ば諦めているのだが、宗矩は七緒との約束を忘れなかった。「神泉苑で会える」「その刀が自分を救ってくれる」という七緒の言葉を信じて、己の剣技を鍛え、もともと祭具として力のあった刀を神域に踏み込めるほどにレベルアップさせたのだ。
 数年後、七緒の言葉通り宗矩は、その刀で人の世に属するもの(七緒)と神に属するもの(龍神)を切り離し、七緒を取り戻す。
 それまでにかかった年月を思えば、宗矩良かったねぇぇぇ!!としか言いようがない。
 遙かシリーズに限らず乙女ゲーの多くは、冷静に考えるとヒロインと攻略対象が出会ってから永遠の愛を誓うまでの期間がやたらと短い。しかし宗矩の場合、いくつもの季節がすぎるほど長くヒロインに会えないままその愛を貫くのだ。ひたすら七緒との再会を信じ、しかもその間に領地を取り戻し自分の地位も向上させ、万難を排して七緒を迎えに行くのである。
 最高ではないか。
 誠実系エピソードをたくさんぶつけられるのもいいが「再び会えるかどうか判らない人間との約束を信じて待ち続ける」という、このエピソードだけで、宗矩の誠実さや一途さが伝わってくるというものだ。
 七緒に会えない間、次期将軍の覚えもめでたい宗矩に縁談がなかったはずがない。しかし、宗矩の七緒への気持ちはずっと変わらず揺るがなかったのだ。
 その後、人の世界に戻ってきた七緒が宗矩の暮らす立派な屋敷に迎えられ、これ以上無いほど将来の安泰を感じたところでエンディングとなる。

 すごくよかった。 
 柳生宗矩といえばコレ!という『大天狗正家』が登場するタイミングといい、活人剣をうまく取り入れたところといい、これからの柳生一族の未来の明るさが感じられる出世ぶりもハピエンそのもの。
 五月とのエンディングでは「ところでこの状態を両親と氏子にはなんて説明すんの?」というような野暮な疑問が次々に湧いたし、武蔵との場合は「これからの暮らしは大丈夫だろうか?」と思わなくもなかった。だが、宗矩のエンディングは余計なことに頭を悩ますことなく堪能できた。
 宗矩は、七緒とまだ親しくない段階でも、薬や鳥笛などの真に役立ちそうなものを渡してくれるし、八葉としてきっちり守ってくれる。七緒の肌を見ても邪念を持たない。こういう宗矩の優しさや真面目ぶりが共通ルートで丁寧に描かれたことで、何年も七緒のことを信じて待ち続ける愛の深さに納得できたのだと思う。
 ほんと良かった。
 何度も言うが本当にすごく良いシナリオだったのだが、一つだけ困ったことがある。
 いや、困ったという言い方は正確ではないのだが、このルートは『敵』として登場するターラがとにかく良すぎるのだ。宗矩とのエピソードも強い。
 ターラの存在感と、彼女と宗矩との繋がりが特別すぎるためにヒロインが蚊帳の外に置かれがち、というのがこのルートで唯一「困った」と思った点である。
 ターラはキャラクターとして面白いだけではない。この人が人間を憎む理由、特に豊臣を憎む理由に説得力がありすぎるために、彼女に共感してしまい、どうしても『ターラは倒すべき敵』という意識を持ちづらい。
 穢れを撒き散らし怨霊を呼んで、無関係な人間を巻き込み、人間全体に復讐しようとするターラ、我らがヒロインを酷い目に合わせているターラ、あろうことかヒロイン様の男とも特別な絆を持つターラなのに、それでも彼女には「神子や民に酷いことすんな! 宗矩からはなれろ!」という敵対感情よりも「そりゃそうなるわいな」という共感の方を強くを持ってしまう。ターラの同族である宗矩と想いを交わし、心も身体も綺麗なまま八葉に守られている七緒に反発する気持ちにものすごく納得してしまうのだ。
 正直、ターラのやっていることは、遙か1、2の鬼の首領アクラムとほとんど変わらない。だが仲間の鬼を単なる手足として使うアクラムよりも、たった一人で戦いを挑むターラの方がなんとなくかっこいいのである。ターラは、他の鬼のことを『手下』ではなく、あくまで『仲間』『同志』として扱っている。首領ポジションになってはいるが、アクラムのように仲間を使い捨てにはしないだろうと思う。ターラはいつも自分で前線に出てくるからだ。
 アクラムもターラも怨霊を使って大暴れした動機は基本的には「人間への憎しみ」なのだが、アクラムの場合は受けた迫害の内容が少なくともゲーム内には具体的に描かれなかった。
 しかしターラの場合は『人間』として生きる同胞に売られており、豊臣には家族を殺されている。少女だったターラの絶望はリアルに想像できるし、アクラムの『人を憎む動機』と比べて、ターラのそれには説得力がありすぎる。
 『鬼』の仲間たちへの接し方、人を憎む動機の説得力。この二つがあるだけでもターラをさくっと滅することが出来ない。さらに言うなら、ターラは女性なので神子に簡単には絆されないのだ。これまで遙かシリーズに登場した鬼の首領はアクラム、ダリウスだが、二人とも男だ。この二人に限らず、男性の鬼はどれだけ人間に迫害され憎んでいても、なんだかんだで神子には心を許したり、神子とのルートが用意されているのだ。さすがはヒロインだと思う一方、おめーらの憎しみはその程度かと思わないでもない。
 ターラ以前に女性の鬼として登場したシリンを見ろ。全然神子には絆されなかったではないか。しかし、シリンは全然仲間思いじゃないし、人間を憎むというよりアクラムに気に入られたいという恋心が動機になってしまっているので、ターラと違ってプレイヤーの共感は得られないし、すっきりと心置きなく倒せたのだと思う。
 ヒロインに害なすところは同じはずなのに、シリンに比べてターラは好感度が高いというか、彼女の過去や状況を考えると「そうはいってもターラは気の毒」と思ってしまう。
 そんなターラと宗矩の過去エピソードには、ヒロインといえども強引に割り込めないものがあった。このままでは蚊帳の外になるとはいえ、下手にしゃしゃり出ると七緒への好感度が下がってしまうので、扱いが難しいエピソードだったと思う。
 だが、最後までターラを粗雑に扱わなかったことで宗矩の株は上がり、かっこよさが際立ったとも思う。
 ターラと宗矩の特別な過去に踏み込ませてもらえない代わりに、成就まで数年を要するという「強い」恋愛イベントを持ってきたところに宗矩ルートの素晴らしさがあるのではないだろうか。

 あと、それとは全然関係ないのだが、このルートの織田秀信がすごく良かった。
 西軍として岐阜城にある秀信は、このままだと史実どおり落城の憂き目に合う。状況の説明を受けた後、「東軍に来てくれたら悪いようにはしませんよ」という誘いを受けた秀信は、(七緒がいるとはいえ)その場で即決してみせる。
 しかも「裏切るなら早い方がいい」と身も蓋もないことを言った上、裏切りを効果的に見せるための献策までしてみせるのだ。秀信のことをそれまでの2つのルートではとにかく叔母上が好きなんだなとしか思わなかったのだが、このルートでは戦国の城主らしいしたたかさを見せている。
 かわいい顔してやるやないか。気に入った。
 この秀信のもとでなら、織田もしぶとく生き延びそうだし、織田が実家の七緒としても安心であろう。

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