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『リメンバー・ミー』VS『ボス・ベイビー』

ディズニー/ピクサー最新作『リメンバー・ミー』を見ました。音楽と映像はすごく良かったんだけど、ものすごく期待してハードルを上げまくったせいか、いまいち乗れず...。

舞台はメキシコのお盆である”死者の日”。死んだ人が、現世に戻ってくる日のこと。主人公のミゲルは音楽が大好きなのだけど、ミゲルの家族は過去の悲しい出来事のせいで「音楽禁止」。ギターを弾くことも許されないので、秘密基地を作ってこっそりそこで憧れのミュージシャン”デラクルス”の音楽に浸っていました。ある日、死者の世界にうっかり紛れ込んでしまったミゲルは、「現世で忘れられると死者の世界からも消えてしまう」という掟を知り...

というお話。メキシコの鮮やかな色彩と、音楽に溢れた楽しい映画です。メキシコを舞台にしているのもいいし、キーとなるテーマ曲「リメンバー・ミー」と共に物語が進んでいくところとか、ボケたおばあちゃんがすごく大事にされているところとか、すごくよかった。しかしどうにもノレなかった。というのは、この作品はある悪者が出てくる”勧善懲悪”の物語でした。この悪者、同情の余地がないほど悪者。彼のしたことのおかげで、たくさんの人が不幸になった。映画の中でも、徹底的に悪者が追い詰められていきます。

これが、ノレなかった理由かもしれない。いまも印象鮮やかなディズニーの傑作『ズートピア』は、清廉潔白なヒロインのある一面をすごくナチュラルに描いて、その物語の多層的な作りに驚かされたものです。『リメンバー・ミー』はお話をよりエンターテイメントにするために、ジェットコースター的なシンプルな作りにするために、悪役を単なる悪役として描いた。彼が悪事を働いた動機や背景がほとんど描かれなかったために、悪役の人柄に厚みがなく、単なるステレオタイプの悪い人という印象でした。

同じく圧倒的な悪役がいた『トイ・ストーリー3』では、彼の背景も納得できるものだったし、一方主人公たちの仲間との強い絆やドラマが丹念に描かれていた。『リメンバー・ミー』ではただストーリーを成り立たせるためにお決まりの悪役がしつらえられた、という印象になってしまって、それで素晴らしい映像や音楽の一方で、没入することが難しかった。そして”作られた”印象のあるドタバタなドラマが一本調子に思えてしまって、食い足りない印象が残りました。

でも主題歌が泣けるんだ。「私のことを忘れないで、たとえさよならを言わなければならなくても。もし私が遠くに行ってしまっても、どうか心の中に私を置いておいて。離れている夜はいつだって秘密の歌を歌うわ。私が遠くに旅立たなくてはならなくっても、私のことを覚えていて。あなたが悲しいギターを聞くたびに、私のことを思い出して」ってめちゃくちゃいい歌です。


その一方で、日本では同時期に公開されたドリームワークスの『ボス・ベイビー』。こちらは爆笑→号泣→爆笑のジェットコースターで、大いに感情移入しまくって超絶エキサイトして観賞しました。

『ボス・ベイビー』の主人公、ティムは7歳の男の子。お父さんとお母さんと、それはそれは幸せに暮らしていました。しかし!彼の幸せな生活を脅かす存在、つまり弟が生まれてしまったのです!今まで独り占めしていたお父さんとお母さんの愛情が、弟に注がれて嫉妬に狂うティム...自分にだけ歌ってくれていた歌も、いまでは弟のために歌われています。喧嘩を繰り返す兄弟ですが、この弟、実はベイビー・コープ社という会社から送り込まれた会社員のスパイでした。「おれだってこの家にいたくているんじゃない」というベイビーとティムは、結託してある作戦を行うことに...

わかる!わかるなー。

わたしは3人兄弟の長女なので、弟に嫉妬しちゃう気持ちがものすごくよくわかる。それで辛く当たって、後から後悔したりして...。同じく傑作の『コウノトリ大作戦』は弟が欲しくてたまらない少年の話でしたが、作中のティムは全くの逆。両親の愛を独り占めしたいと、嫉妬心をむきだしにして、(一応)赤ちゃんの弟にそれはそれは辛く当たります。そして、人間が絶対に他人に対して言ってはいけない「あの一言」を言ってしまう...。

主人公だけど、ティムはわがままで欠点ばっかりの男の子。普通に見ると嫌なヤツって感じになっちゃうかもしれないんですが、この描写がすごく人間くさくて、「わかる〜」という感じなんです。そんな器の小さい、イヤ〜な性格の男の子が、ちょっとずつ成長していく。それがもう号泣しちゃうんですね。

そしてこちらはギャグもキレキレ。ピクサーのギャグセンスのなさは「ファインディング・ドリー」でも発揮されていましたが、ドリームワークスはいつだって笑える。普通にアレック・ボールドウィンが演じるスーツ姿でビジネス用語をしゃべる赤ちゃんは笑えるし、両親がお休みの時に歌ってくれるビートルズの曲「Blackbird」を、ティムが「あの曲は僕のためにパパとママが作ってくれたんだ!」と言えばベイビーは「お前の父ちゃんと母ちゃんはレノンーマッカートニーかよ」なんて返します。リメンバー・ミーのテーマも名曲ですが、こちらは大名曲「Blackbird」で、泣かせる力もハンパない。音楽はなんとハンス・ジマー御大です。

ということで、どちらもそれぞれに魅力のある二作品。わたくしは『ボス・ベイビー』に軍配を上げたいと思います。




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