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ゴールデンボンバーに家族の絆を救ってもらった話

私には弟がいる。基本的に仲がいいけど、最近疎遠なのが気にかかっていた。

基本的にわたしは東京に、弟は宮城の実家に住んでいるので、帰省したときくらいしか会わない。

その帰省の時も、弟が仕事とか、友達と遊びに行って家にいないこともあるし、いても延々と寝ていたりする。逆に起きていてもスマホでゲームしてるかパチンコ攻略動画をYouTubeで見ているか、なので、とにかく会話がない。帰ってきたときの「おかえり」と、東京に戻るときの「じゃあね」くらいだ。

かつて、わたしと弟はとても仲が良かった。弟はいいやつだ。ファッションと漫画が好きである。この漫画が面白いよ、と「ガンツ」とか「からくりサーカス」とか「めしばな刑事タチバナ」をすすめてくれた。なぜか突然リンキンパークにハマり、あらゆるリミックスまで丁寧においかけては全てのリミックスについて詳細に説明してくれたりした。

それなのに今は、YouTubeのパチンコ攻略動画よりもわたしの注目度は低い。悲しい。

それはわたしにも理由がある。わたしはやたらと都会をありがたがって、全然家族のことを気にもとめなかった。こちらから働きかけなくても連絡が来ることに甘えて、電話にもぜんぜん出ないし、メールもほとんど返さなかった。

それでも弟は電話をくれてメールをくれて、リンキン・パークについて話したりしては「帰ってくればいいのに」と言うのである。その時はなんとも思わなかったけど、今思うと涙が出てくる。わたしもそうやって、離れていった人のことをいつまでも思っていられるかというと、そんな自信は全くない。きっとすぐに、忘れてしまうだろうと思う。

そうやって弟との関係を考えるときに、いつも思い出すのが、高校とか中学とか小学生だった頃のわたしのきょうだいがこたつで3人揃って見た『バグダッド・カフェ』のことだ。

『バグダット・カフェ』とはいわゆるミニシアター系映画で、アメリカのモハーヴェ砂漠のうらぶれたカフェが舞台。夫婦喧嘩をして、夫と別行動する太ったドイツ人女性のヤスミンが突然現れて、店主の無愛想な黒人女性と不思議な友情を育む、というものだった。昔のサブカルの人はだいたい見ているので、最近のサブカル若者も是非見てみてください。

わたしの故郷はすさまじいど田舎だがかろうじてレンタルビデオ店があって、マッシュルームカットの若い店長が意識が高かったらしく、ジャームッシュとかヴェンダースとかを集めた「ミニシアター系」という棚を充実させてくれていた。

わたしはそこで”おしゃれなもの”として『バグダッド・カフェ』のビデオを借りてきて、いそいそコタツに入って再生したのである。コタツに入っていたから冬だと思う。そんなわたしに暇だった弟と妹も加わった。よくわからないまま、3人そとってこの淡々とした映画をぼんやり見た。

宮城のど田舎で、外国人としゃべったこともない三きょうだいが、何万マイルも離れている、アメリカの砂漠の上で友情を育むドイツ人女性と黒人女性のやりとりを眺めるのはなかなか奇妙なものがあった。

そして映画は終わり、有名なテーマ曲「コーリング・ユー」とともにスタッフロールが流れる。コーヒーすらろくに飲んだこともない3人の子どもだったが、なんだかみんな、よくわからないシンパシーを感じていた。そして誰からともなく「もう一回見たい」と言って、また最初から『バグダッド・カフェ』を見たのである。


ああ、あれはいい時間だったなあ...


と、思い出に浸るわたしだが、

時はかわり、やっぱりこのまえ、2016年年末の帰省でもわたしと弟に会話はあんまりなかった。悲しい。昔はあんなに仲が良かったのに...。家族で温泉旅行にいってみたが、とくに会話が増えるってこともない。

手をこまねいているうちに、テレビでは紅白歌合戦が始まっている。弟もテレビの前にいたが、やっぱりYouTubeでパチンコ攻略法かなんかを見ている。もう弟と心が通じ合う日は来ないのだろうか...

と悲しい気持ちになっていたら、ふと

「ゴールデンボンバーが裏紅白歌合戦をやっていてめちゃくちゃ雑」

というツイートが眼に入った。

どれどれ..と画像を検索してみると、

うっわ〜

ざ、

雑〜


どうやら「持ち歌が女々しくての1曲しかない」という理由で紅白を外されてしまったゴールデンボンバー。

暇なので、自分たちで「裏紅白歌合戦」をニコニコ動画でやっているのだった。

これはひどい

なんで、、チャオズ、、?

で、これを弟に見せたら

弟がバカウケ。

さっそくニコ動にアクセスし、一緒にめちゃくちゃ低クオリティのものまねを見た。そしたら低予算すぎてクオリティが雑すぎる、有名人らしきものばかりが出る、ものすごい怪番組が行われていたのだった。

これはただの悪口。。!

掛け値なしにひどい!

私と弟は死ぬほど笑った。一緒に笑うなんてこと久しくなかった。

そして、最近会話してなくて疎遠で寂しいと思っていた気持ちが、こうやっていっぺん、一緒に大笑いしたことで、溶けてなくなっていったのを感じた。

その爽やかな気持ちは、

あの「コーリング・ユー」が聞こえてくるようだった。

怖いよ!

ということで、疎遠はとくに会話をしなくても、何か同じものを見て笑うだけで治ったりする。

ぜひみなさんも、試してみてください。




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