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女性の意欲や職場パフォーマンスを高める管理職の要因に関する研究

研究背景

職場の上司の重要性は長瀬・山谷(2012)の女性管理職に対するインタビュー調査でも指摘されている(チャレンジする機会の創出および仕事を任される経験、働き方に関する上司とのよいコミュニケーション、女性を育て要という上司の意識など)。ワークライフバランス(WLB)を実現する管理職の行動は「Family Supportive Supervisor Behavior (FSSB)」と称して研究蓄積がなされている。また管理職に対する意識啓発研究の重要性を指摘し、管理職に対する研修プログラムの効果測定を行った研究もある(Kossek and Hammer 2008, Hammer et al. 2010, 高畑 2017, 高村 2017)。女性の活躍や、それと密接に関連するwlbの実現には職場の管理食が重要であること、管理職を育成する研修等の施策が重要であることが明らかになっている。

この研究では、女性の仕事意欲と職場のパフォーマンスを高める職場の管理職のマネジメントの特徴に注目をしている。管理職の研修等は管理職への意識等の働きかけにより行動変容が期待されるが、研修効果の測定では研修を受けた管理職に対する行動や意識の変容の有無により効果測定が行われてきており、管理職自身の自己評価と部下マネジメントに反映されるかという経路についてはブラックボックスである。そこで本研究では、企業・管理職・その部下のデータをマッチングする事で、管理職のマネジメントに対する部下からの評価と、管理職自身の評価のズレに注目して分析をしている。

研究方法と結果

管理職のマネジメントの特徴について、一般社員調査と管理職調査を因子分析(最尤法、プロマックス回転)したところ、管理職調査では①適切な仕事管理、②キャリア支援、③WLB支援、④公平な部下管理、⑤WLB実践という5つの因子が抽出された。またアウトカム指標としては、一般社員の①仕事へのやりがい、②仕事満足度、③職場のパフォーマンス(に対する主観的な評価)の3つを用いている。

管理職のマネジメントの評価については、平均値に有意な男女差は見られなかった。なお最も高いのが④公平な部下管理、②キャリア支援である。
アウトカム指標については、平均値に有意な男女差が見られたものは②仕事満足度の労働時間と、③職場のパフォーマンスの高柔軟職場のみであった(ともに女性の得点が高い)
またマネジメントの5つの尺度とアウトカム指標とをクラスター分析したところ関連性が見られ、各尺度の一般社員の評価が高いほどアウトカム指標が高くなるが、男女差は見られなかった。

一般社員からみた管理職のマネジメント評価と、管理職の自己評価の相関を見ると、総じて相関係数が低い。5つの尺度の平均は、全て一般社員評価よりも管理職評価が高くなっており、特に④公平な部下管理は0.9ポイント程度のギャップがあるが、男女差は見られない。またアウトカム指標との関連は、管理職の自己評価よりも一般社員の評価画より強く関連している。

管理職のマネジメント(①適切な仕事管理、②キャリア支援)を高めるために、企業の施策(働き方改革や職場管理支援に関する項目と、これら項目について管理職に対する支援を行っているかの2項目)との関連性を見たところ、管理職支援は管理職の①適切な仕事管理の行動を引き出し、部下にも認知させる効果がある。一方、②キャリア支援に関しては、管理職への支援を企業が実施することで管理職のキャリア支援行動を引き出している。また研修を実施することで、①適切な仕事管理と②キャリア支援に効果をもたらしている。

結論

①適切な仕事管理、②キャリア支援、③WLB支援、④公平な部下管理、⑤WLB実践は、男女ともに重要である。一方これらのマネジメントの特徴については、管理職の自己評価と部下の管理職評価にはギャップがあり、両者の評価が「高い」で一致しているときにアウトカム指標が高くなる。管理職の自己評価と部下の管理職評価の一致度の高さには企業の施策が関連しており、管理職に対して部下マネジメントに関する支援(研修)を実施している場合に一致度が高くなる。

出典:武石 恵美子(2019)女性の意欲や職場パフォーマンスを高める管理職の要因に関する研究 : 部下と上司の認識ギャップに注目して

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