見出し画像

Microsoftで富岡 亮太氏らが開発した新しい環境解決ツール:MatterGen

世の中が政治やトレンドに夢中になっている間に、小さな変化を起こそうとしている人たちがいます。日本人ももっと脳を鍛えて、みんなに役立つ研究開発に参加しようとするきっかけになればと思って紹介します。

本日、Microsoftリサーチの主任研究マネージャー富岡 亮太氏らの発表した論文「MatterGen」が発表されました。

富岡 亮太氏の参加するMatterGenプロジェクトとは

MatterGenは、望ましい特性を持つ材料の設計を加速することを目的とした、特定に設計された拡散モデルです。このモデルは、化学的性質、対称性、物理的特性などの幅広い制約を考慮しながら、新しい安定した材料を生成することができます。例えば、バッテリー材料における高いリチウムイオン伝導性などの特定の特性を持つ材料を直接生成することが可能です。MatterGenは、従来のモデルと比較して、より多くの安定した、新しい、ユニークな構造を生成できることが示されています。また、磁性、電子的、機械的特性など、特定の特性を満たす材料を生成することも可能です。

このプロジェクトは、マテリアルズサイエンスの分野における重要な進展であり、材料設計におけるAIの活用を示すものです。ナデラとマスクの反応は、この分野におけるAIの可能性と、MatterGenが提供する新しいアプローチに対する興味と支持を示していると考えられます。

MatterGenプロジェクトでは拡散モデルを使用

MatterGenプロジェクトでは、最新世代のAI、特に拡散モデルを使用しています。これらのモデルは、データ駆動型のアプローチを使用して、新しい安定した材料を生成し、その特性を最適化します。拡散モデルは、データの構造を徐々に改善していくことで、望ましい特性を持つ材料を設計します。

マテリアルズサイエンス(材料科学)の中心的な課題

材料科学の中心的な課題は、所望の物性を持つ材料を発見することです。例えば、バッテリー材料の高いLiイオン伝導性などです。これまでの方法では、まず新しい材料を見つけてから、そのアプリケーションに基づいて絞り込むことが行われてきました。これは、まず100万の異なる画像を生成し、それから猫の画像を探すようなものです。MatterGenでは、DALL·E 3が画像生成に取り組むように、所望の物性を持つ新しい材料を直接生成(注01)します。

※注01:DALL·E 3の生成方法はテキストに基づく直接的な画像生成です。この点が、MatterGenのアプローチと類似しており、MatterGenも所望の物性に基づいて新しい材料を直接生成する方法を採用しています。このようなモデルは、指定された特性や条件に合致する出力を生成するために、分類器などを使用せずに直接的なガイダンスを受けることができます。

MatterGenは分類器フリーガイダンスを使用して材料を直接生成

MatterGenは、新しい安定した材料を生成するために特別に設計された拡散モデルです。また、化学、対称性、物性などの幅広い制約を持つ材料を生成するために微調整できるアダプターモジュールも備えています。MatterGenは、SOTAモデル(CDVAE)よりも2.9倍も安定した(トレーニング+テストデータの凸包が0.1 eV/原子以下)、新しい、ユニークな構造を生成します。また、エネルギーの局所的な最小値に17.5倍も近い構造を生成します。MatterGenは、分類器フリーガイダンス(注02)を使用して、磁気、電子、機械的な物性を満たす材料を直接生成できます。生成された材料は、DFTベースのワークフローで検証されています。

※注02:分類器(Classifier)は、機械学習のタスクで入力データを異なるクラスまたはカテゴリに分類するモデルやアルゴリズムを指します。分類器は、教師あり学習の一部であり、トレーニングデータから学習し、新しいデータポイントを正確にカテゴリに分類できるように設計されます。

一方、「分類器フリーガイダンス」は、AIにおいて分類器を使用せずに、何らかの目標や制約に従ってタスクを遂行するアプローチを指すことがあります。具体的には、文中で言及されているように、材料設計の文脈では、AIモデル(MatterGen)が材料の物性(例:磁気、電子、機械的な性質)を直接生成する際に、分類器を使用せずに、所望の物性に従って材料を生成する方法を指すことが考えられます。

つまり、分類器フリーガイダンスは、AIが指定された目標や条件に基づいて生成や決定を行う際に、分類器を介さずに直接的なガイダンスを受けるアプローチを表しています。この方法は、特定のタスクや制約に適した場合に採用されることがあります。

さらに、MatterGenは、データベース内の材料が枯渇するためにスクリーニング手法が飽和する一方で、高い体積率などのターゲット物性を満たす新しい材料を継続して生成できます。

MatterGenは材料設計のためのAIにおいて重要な一歩

MatterGenは、ターゲットの化学系を指定した場合にも材料を生成できます。特に難しい5要素系において、MLFFフィルタリングを備えた置換とランダム構造検索のベースラインを上回ります。MatterGenはまた、ターゲットの空間群を指定した構造も生成します。最後に、低供給リスクの磁石を見つける多物性材料設計の問題に取り組みます。MatterGenは、高い磁気密度と低い供給リスクの化学組成を持つ構造を提案します。

MatterGenは、材料設計のためのAIにおいて重要な一歩だと考えています。私たちの結果は現在、DFTによって検証されていますが、その限界も多く知られています。実験的な検証は実世界への影響の最終的なテストですし、今後もさらに多くの結果を発表できることを期待しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?