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疾風に勁草を知る。(自民党web3PT中間提言)

 本年10月以降、10回にわたり開催してきた自民党デジタル社会推進本部のweb3PTのテーマを中心に、特に重要と思われるテーマについて、中間提言を取りまとめました。
 今回取り上げた論点、取り上げることのできなかった論点を含め、web3に関わる幅広い政策的課題について2023年も議論を重ね、同年春を目処にホワイトペーパーとして改めて提言を取りまとめたいと思います。
 プロジェクトを引っ張って頂いた平井卓也本部長、平将明座長をはじめ、PT議員の皆さま(特に執筆分担して頂きました牧島かれん、山下貴司、鈴木馨祐、神田潤一、川崎秀人、小森卓郎、土田慎の各代議士)に深く感謝申し上げます。また、短期間での中間提言の取りまとめにあたり多大なご貢献を頂きましたワーキンググループの専門家の皆様、ヒアリングにご協力頂いた皆さま、関係省庁の皆さま、その他全ての関係者の皆さまに、PT事務局長として心から御礼申し上げます。引き続き皆さんのご意見をお聞かせください。

web3PT中間提言

1. はじめに

(1)疾風に勁草を知る

「web3」の熱狂ともいえる時代は、2022年の中頃に転換点を迎えた。米国の金利引き上げなどを契機に暗号資産価格やNFT取引額が下落する中、ドルベースのアルゴリズム型ステーブルコインの破綻や、世界的な大手暗号資産交換業者の破綻が追い打ちをかけ、暗号資産業界は「クリプトウインター」と呼ばれる世界的な冬の時代を迎えている。

現在起きている様々な問題がブロックチェーン技術を基盤とするweb3ビジネスの発展を遅らせるおそれがあることは否定できない。暗号資産の値下がりと先安観は、一部の投資家の投資余力と意欲を減退させ、web3プロジェクトを中止または遅滞させかねない。また、業界を代表するような企業のガバナンス問題が取りざたされることで、一般ユーザーがweb3の世界に足を踏み入れることを躊躇し、各国で規制強化に向けた議論が勢いを増すことも予想される。

しかし、この厳しい冬の烈風は、web3の真価を問い直し、新たな革新の芽を育む好機でもある。「疾風に勁草を知る」である。

これまでも新たな技術が生まれ、市民権を得る過程では、市場の乱高下や市場・ルールの未発達ゆえの不正など、多くの困難を乗り越えてきた。熱狂の反動を耐え抜いた起業家たちが、次代を担う創造的なビジネスを数多く生み出してきた。暗号資産業界が逆風を迎える今こそ、技術の本質を見つめ直し、事業投資の目利き力を磨き、安心・安全なweb3エコシステムの構築へと事業環境の整備を加速しなければならない。

特にわが国は、過去の度重なる大規模ハッキング事案などの反省から、早くから消費者と投資家の保護に重きを置いた規制を敷いてきた。諸外国に先んじて仮想通貨交換業者の登録制度や顧客資産の保全制度(コールドウォレット95%規制等)を整え、昨今の世界的な破綻事案においても、国内への影響を限定的に抑えることに成功している。

多くの国が逆風に立ち止まり身をすくめる中で、暗号資産業界の苦難を幾度も目の当たりにしてきたわが国だからこそ果たせる役割がある。国際競争力ある事業環境の整備を国家戦略として強力に推進し、2023年のG7サミットなどを通じて国際的な規制論議においてもリーダーシップを発揮するチャンスである。web3の計り知れない将来性から目を離さず、日本が「責任あるイノベーション」の世界的なハブとなることを目指し、今こそ官民の知見を結集しなければならない。

(2)web3のもたらす経済・社会のイノベーション

web3時代を支える中核技術であるブロックチェーンは、伝統的な暗号資産取引以外にも急速にユースケースを広げており、その特性を活かした革新的なビジネスやプロジェクトの立ち上げが加速している。

ブロックチェーン技術の発展は、デジタルな資産や権利を「トークン」という形で単位化し、特定のプラットフォームやソフトウェアから独立した形式で個人が保有したり取引したりすることを可能にしつつある。地理的な制約から解放されたこれらデジタル資産取引の量的、質的発展は、ビジネスの一層のクロスボーダー化と迅速化への道を拓く技術でもある。全ての取引が記録され公開されるブロックチェーンの透明性は、より可視的で分散的なガバナンス構築に適した特性を内包している。そして、プログラムにより自在に仕様設計できるトークンの柔軟性が、ボランティアなどの非経済的な活動にインセンティブを付与したり、経営者と労働者の壁を低くした新たな協働の仕組みにつながると期待されている。

例えば、ステーブルコイン決済の普及を通じ、国際送金は早くて安価なものになり、留学するわが子への仕送りは国内への送金と同じくらい簡単になるかもしれない。ブロックチェーンの耐改ざん性を活かせば、複数の国や地域にまたがるサプライチェーン管理を、より透明性高く効率的に実施できるようになるかもしれない。カーボンクレジットを取引するにあたり、ブロックチェーンを用いれば個別のクレジットとCO2削減プロジェクトをより明確に紐付けられるようになるかもしれない。地域おこしプロジェクトに共感する人々が、自分のスキルやパッションをもって遠隔からプロジェクトに貢献し、それに見合った非金銭的な報酬を簡単に得られるようになるかもしれない。

Web1.0と呼ばれる初期のインターネットが90年代に登場した時と同様に、web3時代を支えるブロックチェーン技術が十年後、二十年後にどのように使われているかを正確に予測することは不可能である。短期的にはブロックチェーン以外の技術を使った方が効率的なユースケースも多いかもしれないし、事業採算性に達するには長い年月を要するプロジェクトも少なくないであろう。しかし、新たなデジタル経済圏が急速に拡大しようとする中で、ブロックチェーン技術のもたらす変革の波に乗り遅れることは、わが国の経済成長の大きなリスク要因となることは疑いない。

本年度の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」において政府は「分散型のデジタル社会の実現に向けて必要な環境整備を図る」ことを明記し、web3政策を国家戦略として進める方針を表明した。国内のweb3イノベーションの制約要因として従前より指摘されている法・税・会計などの諸課題を早急に解決し、成長する新たなデジタル経済における国際競争力を磨き上げなければならない。この好機を逃してはならない。

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web3PT中間提言の要旨(概要版)より

Web3 PT Interim Proposal (English version)


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