SOFTWARE FIRST by Takuya Oikawa

及川さんの著書「ソフトウェア・ファースト」を拝読した。

本書は著者が得意とするエンジニア向けの技術書ではない。日本の経営者や企業を構成するすべての人に向けて書かれたものであり、かつ著者の強い怒りと失望が、この大作(380ページもある)をまとめ上げさせた原動力になっている。技術支援や経営アドバイスをやってもやっても変わらない今の現状に、大変怒っているのだ。

今の日本企業(と政府)は、テクノロジーとの付き合い方が上手くない。精緻な図面と金型を作って、目に見えるものを均一品質で複製することがテクノロジーと呼ばれた時代はそれで良かった。しかし今は、ハードとソフトを組み合わせたサービスの上に、継続的に受け入れられる顧客体験を作れなくては企業としては生き残れない。このような環境下で、著者は自分の経験を通して、「変わることの大切さ」を訴えている。

本書は、今の製品開発のトレンドを丁寧に説明していて、その観点から見た現在の日本のモノづくり、ひいては日本企業全体の問題点についてわかりやすく指摘をしている。そして変革、イノベーション、(本人が使うことを躊躇する)DX が起こる企業環境の作り方の提言をしている。

章立ては、別noteで書かれているので、そちらを参照されたい。
https://note.mu/softwarefirst/n/nd48e122e4eef

たぐい稀な製品開発経験、グローバルな人との繋がり、そして彼の人間力を支えている豊富な読書量が著書全体にいかんなく発揮されている。また網羅できなかった部分については、これでもかというほどの脚注や付録がついていて、読者がより深い知識を得たければ深堀りして行けるインデックス的な構成になっている。通常、何か知りたいことがあればgoogleを使ってその情報について検索をするわけだが、本書では著者の経験を通した最短ルートでその知識にたどり着けるようになっているところがちょっと面白い。

それにしてもよくもここまで自分の実体験を詳細に開示するなあと思いながら読んでいたのだが、そもそも及川さん自身がもはや公的財産のような人なので、まあいいのかと妙に納得したりした。

読み終わって、自分だったらこの本にどんなタイトルを付けるかなぁと考えたりした。なぜなら本書は経営ガイドであると同時に、多くの日本人へのキャリア形成の仕方についての生き方指南書だからだ。「ソフトウェア・ファースト」という響きから受ける印象と、本書の内容のリッチさがあっていないように感じるのは、本書が著者自身の半ば自伝になっているからだろうか。しかし「ソフトウェア・ファースト」というワードは、今後、間違いなく当たり前のように使われるワードになるハズです。

最後に、少しだけ本書に貢献できたことが嬉しいです。ありがとう。