人の目を出し抜く市場の賢者たち
カリスマトレーダー、経済評論家、アナリストやストラテジストなど、相場の予測を語る人は少なくない。
ただし、あくまでも他人の描いたシナリオである。
事実かどうかは別にして、多くの市場関係者はそれぞれの利害を背景にした発言、いわゆるポジショントークをすることが多い。
19世紀、ロスチャイルド家の三男であるネイサンは、ワーテルローの戦いでナポレオンが敗れるのを確認してから、「ナポレオンが勝ってイギリスが負けた」と嘘のニュースを流した。
他の投資家達はそのデマを信じて、英国債を我先にと売り始め、最終的に大暴落した。
ネイサンは、紙クズ同然となった英国債を買いまくった。
翌日、イギリス勝利の情報とともに英国債は暴騰した。
ネイサンは当時としては天文学的な数字であるおよそ100万ポンドの利益を獲得し、この日の儲けだけで財産が2500倍に増えたと言われている。
この大胆な戦略による勝利が、今日のロスチャイルド家繁栄の礎となったのは言うまでもない。
このエピソードは後に「イギリス連合軍はワーテルローの戦いに勝ったが、実際に勝ったのはロスチャイルドだった」といわれるようになった。
これ以降、ネイサン率いるロンドンの一族はヨーロッパの金融業界で盤石の地位を築くことになる。
ちなみのロンドン家の金融シンジケートは、関東大震災後の復興融資を通して日本経済に深く浸透したのは周知の事実だ。
マーケットはまさに生き馬の目を抜く世界。
ネイサンのように儲けるためなら他人の目を欺くことなど朝飯前の人間が犇めいている。
評論家の見通しを鵜吞みにしたり、ヘッジファンドのポジショントークに踊らされていると、それこそ連中の餌食になってしまう。
中国の「菜根譚」にこんな文章がある。
鷹の立つや、睡るが如く、虎の行くや病むに似たり。まさにこれ、かれの人を攫(つか)み、人を噬(か)む手段のところなり。 故に君子は、聡明を露わさず、才華を逞しくせざるを要す。 わずかに肩鴻任鉅(けんこうにんきょ)の力量あり。
鷹が木に止まる姿はあたかも眠るようであり、虎の動きはあたかも病んでいるように見える。
しかし、そのように相手を油断させておいて、鷹や虎は獲物を襲うのである。
野生の世界もマーケットの世界も、生き抜くために相手を欺くことはあたりまえに行われている。
誰が仕掛けているのか。
誰が一番得をするのか。
想像力を働かせて、じっくりと策を練る。
莫大な資金力を持つヘッジファンドが鷹や虎だとするなら、我々個人投資家はさしずめ死肉を漁るハイエナだろうか。
サバイバルゲームで生き残る為には、神経質なくらい臆病なほうがいい。
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