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ロズタリア大陸2作目【死が二人を分かちても】

序章『門前払い』

どがっ!
身長二メートルもある黒髪の青年は、城下町を守る近衛兵士によって、力の限り吹き飛ばされた。
「お前なんざ知らんわ、ヴォケ!!」
兵士から一喝され、青年が唖然とする……
この青年こそ、元はローゼンハイム王家の王太子として生まれ、ちやほやされて育った彼だった。しかし、アルコール依存症を患い領民を鑑みなかった実父が急逝して以降、なんのかんの?
様々な事情から金貨数千億枚!という巨額の借金をこしらえ返済手段のひとつ!として、商業都市の統治者にちゃっかり治まった。
借金返済も軌道にのり始め、正式に王位継承権を放棄する意思を学術都市からやってきた大司教やら立ち会いに参列した貴族達の前で『宣誓した』

その夜に突如、発生した大地震の対応に追われていたところ、何の因果か?女神の悪戯か??
居心地が良くなった商業都市を出奔する羽目になってしまった元王太子のシャールヴィ本人だった。

『話が違うんだけど……?』
素知らぬ顔でニコニコ成り行きを眺めている、まだ齢十四になるか?ならないか?灰青色の髪を肩まで伸ばし整えている少年に視線を向ける。
心情を察した少年が呆れ気味に自身の考えを述べる。
「貴方はお人好し過ぎます。
いい加減、他人を疑う!というコトを学ぶ良いキッカケなのでは??」
門番の近衛兵から疑いの眼差しと、絶対に町に入れさせない!!
断固たる決意を背中越しからヒシヒシと感じ取りつつシャールヴィは、のっそり起き上がりながら軽く服についた泥や埃を払い落とす。
はぁ~……
落胆の溜め息を大きく漏らして、少年の助言を受け入れる。
「そうだな……お前の言うとおりだ。
もう俺はかつての地位や身分など持たぬ。
ただの借金まみれの男に過ぎない。
お前の言う通りに従って行動すれば『問題ない』物事がトントン拍子に進むに違いない!
信じた俺がバカだった」
そう告げ、スタスタと城下町の入口から離れたのだった。

【第一章  いざ、工芸都市へ!】

『大胆な謁見申し込み方法』

ジリジリジリジリ!!!
けたたましく非常事態発生を報せる大音量が深夜の城下町、表通りで観光客向けの宝石装飾品を販売、取り扱っている店内に鳴り響く。
窃盗を企て、実行した人物を逃がさないよう、防犯用からくりが作動している。

城下町の出入口を守る近衛兵士にどつかれて入国拒否!されたシャールヴィはその後、供につれている少年シェドに諭された。
「一旦、このまま最寄りの宿場町まで引き返します。詳しい話はそこで」
断ったり自分から離れて別行動をすれば、瞬く間に借金踏み倒した大量殺人者!として、人相書きを大陸中に公布して『指名手配』する!!
予め釘を刺されていた。

自身を賢者の生まれ変わりだと称するシェドは、工芸都市を護る門番の近衛に「この羊皮紙を見せれば分かる」とだけシャールヴィに伝えていた。
その後、宿場町の安宿を借りて、その後の算段を大まかに伝えた。
深夜こっそり、ぐるりと囲っている城下町の壁、実は一箇所だけ、防犯からくりが故障していて修理中な場所がある。そこをよじ登って密かに潜入!
工芸都市城下町を取り仕切っている商工会長が経営している高級宝石店に忍びこんで、盛大に自分と一緒に展示販売中のガラス箱を叩き割る!!
というコトだった。

計画を聞いた直後、シャールヴィは当然、激怒した
「ふざけるな!!
いくらカネに困ってる!とはいえ、窃盗するつもりでお前の後を着いてきてる訳じゃないぞ!!」
犯罪目的は単独でやれ!!
そう拒絶する彼にシェドは二人で一緒に捕まる必要性を説くのだった。

「いろいろ考えましたが、この方法が一番手っ取り早く私が考えている目的の人物。
工芸都市の統治者及び魔道都市の評議会議長と接見出来る機会なんですよ」
門番に用意した身分証を見せても『通用』しなかった。
その時はわざと宝石泥棒を行って、捕縛される!!
工芸都市で大きな犯罪をおかした人物は統治者自ら立ち会い、尋問すら行っている。
その時、魔道を扱える人物だと犯行の場で証明してみせた時は、協定を締結している評議会議長並びに補佐官も『尋問』に立ち会い、詳しい犯行動機など調査に協力している。
医療都市に向かう前に、まずはどうしても工芸都市の統治者と魔道都市の評議会議長に会って、話をする必要がある!

一通り計画の理由を話した後、シェドは選択を迫った。
「常に猜疑心を抱き続けていてください。
しかし、申し訳ありませんが、もうしばらくだけ私の茶番に付き合って頂きます」
でなくば、大陸中に指名手配する!

真摯に語るシェドの眼差しは真剣だった。
何より工芸都市の統治者にどんな形であれ逢える。
困惑気味にシャールヴィはゴクリと大きく息を飲み、ひとつだけ重要なコトをシェドに質問する。
「いきなり死刑判決!!はナイよな??」
「ええ、まずあり得ない!と思います……!
たぶん」
「たぶん!?」
前半は確信めいた断言で、そして尻切れトンボ気味の曖昧な返答にシャールヴィが驚愕する。

「しかし、この手段が一番手っ取り早いんです」
正規の手段で連絡や予約は数ヶ月、下手すれば何年も待たされる羽目になる。
悠長に構えていられる暇はナイ!!
「工芸都市の本部に常駐している彼女ならば……アイリッシュ=クルーガーならば、必ず私の話を聞き、共闘してくれます!!」
銀色めいた淡い青色の瞳で、力強く言い切ってみせたシェドの眼差しを受け、シャールヴィは致し方なく宝石泥棒を行ったのだった。

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