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ロズタリア大陸2作目『番外編』

『とある補佐官の秘めた想い』

不思議な事に彼女には昔から全然、敵わなかった。魔力でも、知識、行動力、影響力、あらゆる分野において……
物心つく前からフィヨルド家の次期当主として魔道師として、いずれかの評議会議長となるべく、あらゆる英才教育が施されてきた。
自分が六歳の時に始めて、彼女の存在を知った。
彼女は自分よりも一足早く既に議員となっていて、同じ幼少世代の子供達に分かりやすく授業を講義してみせていた。
授業内容はとても分かりやすく、また既存の内容に比べて魔力や得意分野など差別なく、非常に体感しやすいよう変更されていた。

魔道都市で産まれた赤子は、産まれてすぐに婦人部の養育部屋へと集められて、均等に知育や食事、身の回りの世話などが受けられる。
自分の場合は昔から評議会議長を輩出してきたエリート出身という事で婦人部の養育部屋ではなく、実家であるフィヨルド家が育てた。
彼女もそのような家の出身なのだろうか?
その割には【クルーガー家】初めて聞く家名だった。
一体、誰が父親なのだろうか?
疑問を抱いた事もあった。
そして、魔道都市創設以来、初の快挙!となる十二歳での『試練の塔』を単独踏破!内容を全て配信、公開した功績が讃えられ【評議長】に就任した。
魔道都市は基本、父親と母親が開示される。
出自不明の彼女について、当然、両親は一体、誰なのか?就任直後、話題となった。

その時は魔道学院の院長が笑って「儂の隠し子じゃよぉ~ん!」などと規則を破って子を為したと供述。院長辞職という形で退任して終息した。
魔道都市を出て、コンシュテール公国で活動する直前、婦人部を統括している母が自分を訪ねてきた。
何か……彼女、アイリッシュ=クルーガーの本当の出自を知っているのだろうか??
「結婚するか?は別として……フィヨルド家嫡男である以上、必ず彼女との間に子供は一人は作ってね?」
出来れば……前置き、相手の意思を必ず尊重するように!と厳命してきた。
「絶対に彼女を泣かせるんじゃないわよ?
それに……無理矢理、添い遂げてごらんなさい?
二度と魔道都市だけでなく、フィヨルド家を名乗る事すら許さないから!!」
自分の叡知は母譲りだ。そして都市内における政治手腕は自分よりえげつない。
大きく息を飲み、快諾して事なきを得て出立している。

今までは『補佐官』という立場を考え、なるべく異性として考えないように接してきた。公国住民の女性と子を為す気はさらさらなかった。外交官として、政治的な意味でも面倒だと思ったから……

でも……議長という役職がなくなり、ただの魔道師になったら?
その時は恐らく自分も補佐官という役職を解任されるだろう。
魔道都市に戻って生活する意思はもう自分には毛頭ない!
有難い事に駐在以来、数々の成果が評価されレイフさんや政務長官から正式にその後を打診されている。
排他主義者や至高派を一掃、問題を解決した暁には……公国民の一人として正式に婚姻の意思を伝えようと思う。
その為に僕は絶対、いまさら頭が凝り固まった老害連中に負ける気はしないし、公国民の皆さんと共に念入りに準備してきた。

唯一の懸念事項といえば【クラヴィス】と名乗る、恐らく冥府神信奉者……
どこまで里の守護者は介入してくれるのだろうか?
いや、端から第三勢力の介入など望んではいけない。自力で未来を掴み取る道筋を立ててみせるのがフィヨルド家の家訓だ!!
公国すら巻き込んでくる前提で打ち合わせしておくべきだ……

『ホント……僕がいま何考えてるのか?
分かってない癖によく無防備におおいびきかけるよなぁ~……』
医療都市の後始末や調査協力などを一通り終えて、疲れ果てているのだろう。アーシュは大股広げてフィンのベッドで爆睡してるのだった。
そんな彼女の前髪を愛おしそうに撫でると、蹴り飛ばした毛布をそっと身体にかけてソファで休んだのだった。
『レイフさんに広めのベッド新調するよう依頼しとこ……』
駐在魔道師達が寝起きしてる生活区域の一角、彼女の寝室は現在、コンシュテール公国守護精霊が使っている。
魔道都市時代、同じ部屋で寝起きしてる延長線上の感覚でアーシュだけが補佐官の寝室を使用しているのだった。

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