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ロズタリア大陸2作目『その33』

【終章】


『クラヴィス殿下と配下ヒューゲル』

ククク……
ローズテリア王国の宮殿内でクラヴィスは向かいあって座りワインを嗜んでいる盟友ともヒューゲルと、今回の大騒動の感想を述べていた。
「つれぬよなぁ~……
いくら協定結んでおらぬ、とはいえ我ら王国だけ除外して事を一方的に進ませるとは……」
完全に除け者扱いされた。不敵な笑みを浮かべてクラヴィスは医療都市の騒動を語る。
密かに当主に接触し
「自分ならば亡きタチアナ妃を【蘇生】出来るやもしれない」
その代わり、確信はない。故に成功した場合は、駐屯中の魔道師達の手柄として欲しい。存命に必要なエネルギーは厳重に保管中の神器を手渡してくれれば【保証】し続ける。そう打診して、手に持った一冊の黒い本を片手に遺骨から肉体を生成させ、女神アイラの庇護下にあったタチアナの魂魄を無理矢理、引き剥がして、下界の肉体に繋ぎ留めたのだった。
以前から抱いていた疑問をヒューゲルは良い機会なので気楽な口調で尋ねてみた。
「して、殿下……前々から思っていたのですが、枕元に置かれた黒い書物、誠に不可思議な現象を我らにお与えくださる……
破壊神様のご加護とは、かくも素晴らしい御力ですね?」
クラヴィスが薄笑い浮かべ、ヒューゲルに本を手渡し薦めてみる。
「良い機会だ、そなたも読んでみるか?」
「よろしいのですか?」
最初は受け取って良いモノなのか?戸惑うもやがては好奇心が勝った。遠慮なく受け取り、ペラペラと数ページほど開いてみる。
???!!
意外なコトに中は真っ白で何も文字や記号など描かれていないのだった。
「どういう事ですか!?」
ただの白紙を後生大事に手に持ち、就寝中すら枕元に置いて保管している!とは思えなかった。
ヒューゲルの手から再び、自身が本を手に持って、本の中央辺りを指でなぞってみせた。
次の瞬間、奇妙な事に冥府に関する内容を記した文字が浮かび上がってきたのだった。
「ククク……
そりゃ誰も気がつかぬよなぁ~!?
どういう訳だか、私だけが不思議と文字が読めるのよ」
クラヴィスは心の底から愉快そうに、もうひとつの使い方を教える。
「この本、いまは黒いであろう?
しかし、な?」
一旦、本を閉じて、改めて左から右に表紙を手に持ち、ページをめくってみると……次の瞬間、書が白く光り輝き出した。
先程と同じようにページの真ん中辺りを指でなぞってみれば……
干ばつで飢饉となった際にどのように女神アイラの加護を得れば良いのか?
その手順などが詳細に記された書となっていたのだった。
「殿下の今までの奇跡の数々……
誠、不可思議でありましたが、これだったのですか」
ヒューゲルが眼を大きく見開き、信じがたい体験に驚愕する。
冥府に封印している荒ぶる神と大陸を統べる女神アイラ―――
どちらの加護も得ようと思えば得られる。
不思議な書物と出会った事で人生が一変した。そうして試行錯誤の結果、クラヴィスは現在の地位を勝ち得たのだった。

学術都市で厳重に保管されているはずの禁書が一冊、紛失している事に……賢者シェヘラウィードはまだ気がついてすらいないのだった。

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