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ロズタリア大陸2作目『その3』

『魔道都市と魔道師』

今から約ニ千年以上の遠い昔……
破壊神となり果てた男神を冥府に封印することに成功した、人々から『聖戦の英雄』と讃えられたの一人。
勇者ウィルフレムの親友!と語り継がれている英雄ホルステッドは終戦後、故郷のシュテール山脈に最愛の女性を連れて帰り、山の麓に城と町を築いた。
破壊神の御力によって噴火がたえなかったシュテール山もすっかり鎮まり、現在は宝石をはじめとした鉱石がふんだんに採掘出来る。同時に至るところで効能ある温泉が涌き出て湯治場としても賑わいをみせる国家として繁栄をみせていた。

そんなコンシュテール公国より、遥か北にシェド同様、魔術が扱える人物達がひっそり一年中、氷と雪に囲まれた場所に都市を作り、生活している。本来ならば寒さにより決して実らぬはずの作物も魔術によって人為的に年中、収穫を可能とし、寒さの影響も一切、感じない。
暑さ寒さ関係なく、なにより夜ですら昼間同様の明るさを維持し続けるほどの技術力を魔道師達は保有していた。

魔道師達は、長い間、その技術力や知識を秘匿し続けていた。
しかし、その傾向に異を唱え大陸人に惜しみなく提供し、対価として金銭や理解、共感を獲得!
自分達が保有していない未知の技術や知識を共有し、より生活や研究成果を豊かにしよう!と主張して、実際に行動した人物が現れた。
その人こそ現在、シュテンベイル城の一階部分に研究所と自分の考えに賛同して魔道都市を出た十数名と共同生活を送っているのだった。

捕縛されたシェドの顔をみるなり、胸元ぐらいまで伸ばした灰青色の銀髪を軽く左肩に結い止めている二十代前半を思わせる女性があからさまに不機嫌な態度で吐き捨てる。
「おめぇのつら だけは、出来れば生きてる内に拝みたくなかったんだがな……」
腰に手を当てたままの女性魔道師にほんの少しだけ顔を向けて、玉座に座る青年大公が気軽な口調で尋ねる。
「アーシュ、この泥棒達と知り合いなの?」
問いかけられ、女性魔道師は心底、嫌そうに頭をかきむしり、絶叫する。
「出来るなら一生、関わりあいたくねぇ【腐れ縁!】ってヤツだ!!!」
その言葉を聞き、思わずシャールヴィが捕縛されたまま、下をうつむき苦笑混じり肩でこっそり忍び笑ってしまった。
『確かに!好き好んで関わるヤツじゃねぇ……』
そんなシャールヴィの心境に勘づいたのか?
それとも密かに忍び笑う様子を察したのか?
青年大公が改めて自身の身分を彼に対して玉座越しに名乗り明かした。
「ひとまず、初めまして……かな?
僕はこの公国を治めているレイドルフ=コンシュテッドバーグ。
幼少期に比べて、いまはすっかり様子が違うみたいだけど、ローズテリア王国の元王太子シャールヴィ=ウィル=ローゼンハイム殿下……
で、合っているよね??」
自分の本名をなんなく告げられ、衝撃から思わずシャールヴィは咄嗟に顔を上げて驚愕の表情を浮かべた。
「俺を知ってるのか!?」
『初対面じゃないのか!?』
コンシュテール公国の先代大公妃を今は亡き父親はうっかり、そのつもりがなくとも公式の社交場で侮辱してしまった。
以来、国交断絶状態となり、会った事はナイはずだった。
少し呆れがちにレイフは肘掛けで頬杖つき、正式に面会してる訳ではない事を明かす。
「君は憶えてないかもしれないけど……
子供の時、可能ならば国王の無礼を撤回、謝罪申し上げたい。その意向で非公式で王妃と一緒に湯治、観光旅行に来てるだろ?
その時、僕は他の兄弟達と一緒にこっそり別の場所から君や王妃様の姿や顔を見てるんだよ」
そうして不敵な笑みを浮かべた。
「君がどんな人なのか?知りたくて、ね?
いまは亡き僕の母上も僕と同じ考えだった。
そうして十数年前に亡くなれている君の母上、つまり王妃様の態度次第で、こっちは『面会』する手筈だったんだよ」
当時の様子を思い出したのか?
レイフは少しだけ寂しげな表情で言葉を続ける。
「でも……君の母上は確か、医療都市の現当主の妹君。
生まれつき、気位の高い品行方正な礼儀正しい!まさに『お姫様』
こういっちゃなんだけど、父上に見初められるまで、ずっと城下町で産まれ育ち一公国民として暮らしてきた母上とは雲泥の差!
民と共に歩み、生活することを【是!】とする母上の主義、主張からすれば、絶対に相容れない。
「ホンモノのお姫様と一体、何を話せと?」当時の母上は困惑気味にその場に居た部下達にそう伝えたんだ」
下手すれば国王の判断、発言は正しかった。公国の不利益を『証明』してしまうことになる!
故に非公式な訪問なれど、対面叶わず国交断絶続行!!となったのだった。

『あの時、母上や周りの配下の者達がどこか寂しげで残念そうな表情を浮かべて、帰国の途についたのはそういう理由わけ だったのか……』
どこか得心いった様子で、シャールヴィは昔のやり取りにぼんやり思いを馳せる。
そうして、なにかを思い出した調子でハッとして、ここまで来るのにつらつら考えていた事を一気にまくし立て始めるのだった。



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